惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

心地よい場所を目指してゴー。『動物たち』の感想について

 幻想紀行、とでも言ったらいいんだろうか、不可思議な世界を旅することをテーマとするジャンルが俺の中にある。

 それフツウのファンタジーじゃん…というと違くて、このジャンルの特徴は、作中で描かれる異界の理屈、常識を、こちらの常識と近づけようとする処理をまったく行わず、おかしなものがおかしなものとしてそのまま提供されている、というところである。

 その世界の理屈を説明しだしたり、攻略する対象として認識するとこのジャンルとしては除外されてしまうので、例えば『ダンジョン飯』とか面白いし不思議世界の探索を行ってるけど、幻想紀行には入らない。

 

 夢で考えると、このおかしさはわかりやすい。

 例えば、夢を見ているときは、どれだけ変なことが起こっても夢の世界ではありなので、夢を見ている俺らはそのことにいちいちツッコミを入れたりしなし、いちいちマジメに対応する。でも、目を覚ましてしまうと、「よく考えるとあれとかあれとか色々変だったし、それにとり合う俺も変だなー」と思う。起こっている出来事も変だし、そこにツッコミが入らないも変な、そういう感じである。

 

 で、個人的に、このジャンルのマンガ作品で極致と思う作家が二人いる。

 一人は逆柱いみりで、この人が描くのはグロテスクでバイオレンスありの文字通りの『異界』が多い。もう一人はpanpanyaで、こちらは、日常が、少しだけど決定的にズレている、やや不安で珍妙な世界であることが多い。

 作風は違っても、夢をのぞき見して感じるような違和感が楽しいのは一緒で、マンガのコマの隅っこにいかにも思わせぶりなヒトやモノが配置されているのにまったく触れられないのでもやもやさせられたり、今いる状況に対してヒントが少なすぎるか、かえって過多なので処理できなくて混乱しているうちに陶酔していて、ってのは共通しており…

 …ながなが書いたけど、いざ説明しようするとむつかしいわ。実際買って読んでください(ダイマ)。

 

 さて、そのpanpanyaの新作『動物たち』の感想である。

 上でさんざん幻想幻想言っといてなんだけども、今回は不思議成分少なめ。作品内でよくわからない異物と接点を持つと言っても、主人公が引っ越ししたばかりだからそれも当然だったり、相手が言葉の通じない動物なのでしょーがなかったりする。

 なので、過去作品のように異国や海、果ては冥界まで行ってしまうアドベンチャーを想像すると、「ありゃ?」となるかもしれない。

 それでも『動物たち』は面白い。それは、この人の作品で繰り返し描かれている、異物と接触してそれが少しだけ理解できたり、理解できないなりにその結果をポジティブに受け入れられたり、といったことが、この『動物たち』でも引き継がれているからだと思う。

 自発的にか、やむにやまれずか、慣れた場所を離れたりよく知らないものを理解せざるを得ないことがある。生き死にってほどセッパ詰まってるわけじゃないが、より心地いい場所、心地いい落としドコロを求めている。そして、過去の作品と同じように、それはちゃんと見つかるか、見つからなくても同じくらい大事なものが見つかったりする。大事なことだ。

 というわけで、作者のファンにはあいかわらず楽しいし、知らない人にとってはクセがないので入門編にもなるだろう作品である(偉そうですんません。ご笑納。すっげえ乱暴な薦め方すると、サブカルクソ野郎にはなりたくない人でもここなら入れる裏口って感じかもしれません)。

 また、作品の合間合間にご本人が書いた小文がはさんであって、これがとてもいい味出してます。日々のたいしたことないこと、あえて分類するならメモリ1mm分だけ「良いこと」よりの出来事について、淡々と書いておられる。こちらのファンも多いんじゃないか、と思う。以上。

 

 おまけ。ぼくのかんがえたげんそうきこうさくひんいちらん。この辺のことまだ書き足りないので、あらためて記事に起こすかもしんない。

 

逆柱いみりpanpanya

(異界探索そのものがテーマの壁)

『BLAME!』(弐瓶勉)、『殻都市の夢』(鬼頭莫宏)、『カクレンボ』、『ブレード・ランナー』、『氷』(アンナ・カヴァン)、『審判』・『城』(カフカ)、『バベルの図書館』(ボルヘス)、『武装島田倉庫』・『みるなの木』など初期椎名誠SF

(異界探索が重要な要素になる壁)

ドロヘドロ』(林田球)、『よるくも』(漆原ミチ)、押切蓮介作品

(描いてる方に異界嗜好が感じられる壁)

 

別格:内田百閒神

(クソジジイの壁)

 

 作品をくくって一覧化すること自体がある意味不遜だとも思うので、ご容赦+参考程度に。あと、ゲームだとどうしても攻略対象になっちゃうから、『LSD』とか『ゆめにっき』とか『mother』のムーンサイドとかタネヒネリ島とか惜しいけどちがうんだよな…。

 なお、俺の需要に対して供給がまったく足りてないので、詳しい人は「こういう作品があります」っての教えてください。喜びます。俺が。

 

動物たち

動物たち