悪夢について2

  知人から犬を預かった。むくむくしたぬいぐるみのような小型犬で、よく知りもしない俺のことを嬉しそうに嗅ぎまわって後をついてくる。俺も楽しくなって、よせばいいのに友達と路上でサッカーをするのにその犬を連れていった。
  犬は跳ね回るようにして俺と友達の間を行き来するボールにじゃれついていた。ふと、俺が蹴りそこなったボールがよその家の庭に転がっていった。犬がそれを追って中に飛び込んでいったとき、あ、まずいな、と思った。
  その庭にはとても凶暴な別の犬が飼われているのだ。慌てて追いかけると、果たして知人の犬はその家の犬に噛みつかれ、ぼろきれのように振り回されていた。
  俺は一瞬どうしたらいいかためらって、というのは噛み付いている方の犬だって誰かに大事に飼われている存在ではあるからで、それでも噛み付いている方の犬を思い切って蹴り飛ばした。犬は人が苦悶するときのような奇態な声を上げて相手を放した。解放された方の犬はうずくまってぶるぶる震えていた。その震えている動きが、体は小さいのに、やけに大きく感じられた。
  俺はサッカーをしていた友達と手分けして、噛まれた犬と俺が蹴った犬をそれぞれ別の病院に連れて行くことにした。俺は自分が蹴った犬を腕に抱えて、その犬はよく見ると犬というより丸はだかの内臓に歯を並べたような正体のわからない生き物で、すぐに俺の手に噛みつこうとするので連れて行くのに非常に苦労した。
  病院までの道は車がおそろしい勢いで行き来していた。まるで道路に空隙ができるのを憎悪しているかのように、ひっきりなしに車が行き交って、もうもうとほこりが上がっていた。
  携帯電話が鳴ったので出ると、相手はもう一匹の犬を連れて行った友達で、医者に見せたところ大事はないということだった。安心したそのとき、俺は腕の中の犬に噛み付かれてうっかり相手を放してしまった。犬はだっと道路に駆け出していった。犬はそのままやってきた車にはね飛ばされ、黒ずんだ溜まりを路上にひろげてまったく動かなかった。