惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

Go レイリ Go! 『レイリ』4巻の感想について

はじめに

 豚カツが好きで、カレーも言わずもがな好きで、果たしてこの二つを一緒に食ったらどれだけ美味くなるのかしらん、なってしまうのかしらん、と思ってカツカレーを頼んで食うと意外とそうでもない。

 せいぜいが、まあカレーとカツ一緒に食ったらそれはそうなるよな、という域を出ていないというか、なんならカレーを純粋にルーと米の配分に気をつかいつつ食ったり、カツをソースとカラシつけて合い間にキャベツはさんで食ったりした方が美味いよな、ということになったりする。

 

 いや、美味いけどね。カツカレー。

 

『レイリ』4巻の感想

 というわけで、『レイリ』、戦国の世で一人の少女が家族を戦禍で失い、自らも敵を殺して殺して最後に死ぬべく戦う漫画の第4巻である。

 原作の岩明均は『寄生獣』はもちろんのこと、『ヒストリエ』で新刊が出るたび「ああ、月日が経つのは早いなあ」と毎回実感させられながら買わざるを得ない作家であり、作画の室井大資知名度こそ岩明均には劣るだろうけども、『ブラステッド』から入って『海岸列車』も『秋津』も素晴らしい、最近では自身が原作となった『バイオレンスアクション』も最高な、好きかどうかで言ったら俺の場合室井さんの方が好きなくらいの漫画家で、じゃあその二人が組んで漫画描いたらどうなってしまうの、俺はどうなってしまうの、というのが『レイリ』だった。だったんだけれども。

 

 正直に言う。1巻、2巻と「あれ?」というのがあった。

 

 こんなこと言うのは分をわきまえていないかもしれなくて、これはもう自分の子供の肉食わされたり殺されて死体処理の槽の中に落とされて石灰ぶっ込まれたりしないと許してもらえないかもしれないけど、正直そこまで面白くなかった。単につまらないというより、ハードルが上がりすぎてて、それを超えるには至らなかった。

 

 まず『レイリ』は展開が遅い。

 戦地に赴いて派手に死にたいはずのレイリなのになかなか肝心の戦闘が始まらない。また、家族を殺されて虚無的になった戦闘少女というキャラについて、これを短篇ですぱっとまとめるわけではなく変に尺をたっぷりとって描き始めると、まあ戦国時代だからそういうヤツもそこそこいるんじゃないの、という凡庸さが目立ってくるというか、レイリとは果たして注目する価値があるキャラなんだかそうでもないんだかよくわからないことになってしまう。

 あと、これは俺が日本史音痴だからというのもあるんだけど、レイリが所属する陣営である武田家について、信玄亡き後の戦国時代におけるポジションがどうもよくわからず、仮にレイリというキャラを抜きにして、歴史的に見た大きな物語としても、作中で何が起きているのかもよくわからない。

 レイリ個人に注目しても、あるいは史実に焦点を当てても、結局なにが起きてるのかよくわからないまま2巻まで来てしまった。3巻でようやく血戦がはじまって、少し面白くなったけども。

 

 で、4巻である。端的に言う。4巻、面白かった。

 

 徳川家康とその背後にいる織田信長にらまれ、レイリの命の恩人である岡部丹波守が窮地にいる状況。レイリがその影武者を務め、自らの主君ともするところの武田信勝は岡部守を救わないと決断するが、レイリはこの考えに反し、独断、丹波守が籠城する高天神に向かう。

 信勝に顔立ちが似ていて、剣の腕が立つ。それだけが、レイリが信勝の影武者を務められる理由であって、それはそのまま、俺のような読者がレイリの物語に付き合う理由でもあった。そして、その理由はこう言ってはなんだがそれほど心に訴えてくるものではなかった。

  しかし。到着した高天神にて、並み居る武将を前に信勝顔負けの戦略論をぶったシーン、これがとてもよかった。死にたがりのレイリの性格と、彼女が示した能力の高さと、物語的にようやく天秤が釣り合って、自分では死にたいのに周りを力づけることもできるようになって、この娘はこの後どうなるんだろう、と久しぶりに物語のこの先が読みたくなった(偉そうなこと書いていすぎる。スミマセン、スミマセン)。

 

 さらによかったのは、レイリが独断で高天神に向かおうとするところを、信勝の側近でありレイリ自らひそかに思いを寄せる? 相手でもある土屋惣三に止められ対峙する場面で、勝手に行ったら死罪、と宣告する土屋に対し、だったら斬れ、とレイリは言う。

 二人は一度剣を交わしたことがあって、土屋の方が強いのだが、いまのレイリにはそういう実力とはまた別の凄味がある。もちろんお互い憎しみあってはいないけど、それぞれが戦国時代の一介の兵士として、自らの恩人や主君に対し軽んじることのできない忠義を抱えている。向き合いながら徐々に緊張感を増す二人の表情を、ひとコマひとコマ切って画面に落としている。 

 以前だったら、ただでさえ展開が遅いのにここで時間かけないで…と思っていたはずのシーンで、それが評価が逆転してしまったのは、俺の中で『レイリ』の見方自体が大きく転回させられたからだと思う。この二人が組んだのに、あんまりだな? という以前の評価が完全にひっくり返った。ちなみに、ここはレイリの表情の画もすごく良かった…。

 

 その後レイリは高天神に到着、さらに、どん詰まりになっていた戦局に突破口を開いてみせ、さらなる活躍を見せる予感とともに4巻は終わっている。さあここから、あらためて死にたがりの部分をどう取り込んでくるかが見たいと思う。4巻にしてついに、いいぞ、『レイリ』、と思う。以上。