惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

The bizarre is still here. 『岸辺露伴は動かない』2巻の感想について

はじめに

 1年弱前のことなんですが、わたくし信者の方に刺される覚悟でジョジョシリーズの最新作『ジョジョリオン』をクソミソにけなす記事を書きまして。

 要は戦闘が全然面白くないのも含めて読者が置いてきぼりになってないか、って内容だったんですけども。

 で、先日のことです。ジョジョシリーズから今度は『岸辺露伴は動かない』という短編集の2巻目が出たんですね。私もあんな記事は書いたけれどもファンだから、買ったわけです。

 

 …いやー、面白かったですねえー。

 

 手のひら返しもいいとこなんですけど。でも、読んでてめちゃめちゃ楽しかった。なので、以下その感想を書きます。

 

「奇妙さ」はなお続く。

 「ジョジョ」の何が好きか。

 ファンの人に尋ねたとき、その答えは本当にたくさんあると思います。

 頭脳戦と肉弾戦が錯綜する緊迫のバトルを挙げる人もいるでしょうし、緻密に描き込まれた絵を挙げる人もいると思います。

 独特のセリフ回し、絵画のような魅力のある風景、豊富な雑学って人もいるでしょう。また、言葉にできない、独特の「空気感」としか言えないものが好き、という人もいると思います。

 俺は、率直に言うとこれらの魅力のうち、かつての戦闘描写と絵にあった良さは、『ジョジョリオン』になってだいぶ失われたんじゃないかと思っています。

 絵については好き好きかもしれませんけども、戦いの運び方だけは本当にまったく評価できません。

 いまの戦闘シーンは5部のポルポの指食いとか初期のGEのダメージを跳ね返す描写が延々繰り返されているようなものだと思います。読者としてどこを信用したり考察しながら読めばいいのかよくわからないわけです。

 ただ一方で、シリーズを重ねてもまったく輝きを失わない部分があります。

 俺たちも日常の中でふと感じる、違和感とか生理的な不快感というもの。周りの風景や他者の中に感じる、「…あれ?」という感覚。

 つまり「奇妙さ」と呼ぶべきもの。これは、いまもなお続いていると思います。『ジョジョリオン』においても、『岸辺露伴は動かない』においても。

 

短編だからこそできることがあると思う。

 その中で、『岸辺露伴は動かない』を特別こんなにも面白く感じたのにはやっぱり何か理由があるんだろうと思うわけです。たぶん、短編ならではの良さというものと「奇妙さ」との調和みたいなものが。

 漠然とした、かつ創作論みたいな話になりますが、この点をもう少しくわしく考えてみます。

 この短編集では色んなトラブルが主人公である露伴先生を襲ってくるわけですが、見直してみるとあることに気づきます。

 それは、露伴先生は必ずしもこれらのトラブルの全部を解決はしないということです。とりあえず大ピンチを脱したので急いで撤退した、というエピソードがけっこうあります。

 長編だとこういうただのその場しのぎはあんまりないですね。

 長編であれば敵対する者は基本的に打倒されないといけない。優劣がつけられないといけない。もし決着がつかないなら、それは伏線となって、やはりいつか白黒つける必要が出てきます。

 短編はその辺うやむやにしてもいいというか、謎は謎のまま、というのが許される気がします。敵わないものは敵わないまま、ということも。で、ジョジョの「奇妙さ」というのは、この曖昧さの中でなかなかいい感じに映えるようです。

 また、「ジョジョ」の主人公たちはスタンドという特殊能力を使うわけですが、彼らをどんな脅威が襲うかというと、同じスタンドを使う敵なわけです。

 一方の『岸辺露伴は動かない』を見ると、露伴先生を苦しめるのはスタンド以外のものであって、それは生物だったりスタンドは持たないけど常識を超えた超人だったり、もっと意味のわからない「現象」としか言えないものだったりします。

 短編はこのへんもいい加減でいいんだろうな、と思います。

 スタンドはあくまで、この世界の「奇妙さ」を説明するための一つの解釈に過ぎない。長編だと色んな不思議をスタンドという枠組みだけで説明していかないといけないけど、短編であれば世界の多様性をもっと自由に描きながら、次のエピソード、次のエピソードと身軽に飛んでいける。

 こうした短編ならではの特徴と「ジョジョの奇妙さ」との相性がもたらすものこそ、『岸辺露伴は動かない』の良さなんじゃないか、と思うわけです。

 

おわりに。他のキャラの短編集も見てみたい。

 そういうわけで『岸辺露伴は動かない』、すげえ面白かったのでファンの方もそうでない方も読んだらいいと思います。

 露伴先生ってジョジョシリーズでもかなりの強キャラなんですが、思い返すと読んでいるとき、「とっととヘブンズ・ドアー使って解決しちゃえばいいのに」って思わなかったんですよね。

 これはけっこう不思議なことで、スタンド使えばもっとスマートにトラブルを解決できただろうに、ともかく露伴先生のピンチにひたすらハラハラさせられていた。まさにこの短編集の凄みというべきでしょう。

 こんな感じのフォーマットで、個人的には露伴先生以外のキャラのお話も見てみたいと思います。

 ホル・ホースが主を亡くした後に世界を行脚する話とか。

 ミスタがジョルノの右腕として活躍する話とか。

 ああいうフットワーク軽くて有能でコメディもできるキャラクターたちの短編集、あったらぜってえ見たいぞ、と思ったので、以上、よろしくお願いいたします。

 

岸辺露伴は動かない 2 (ジャンプコミックス)