『ID:INVADED』10話までの疑問と感想を整理することについて

はじめに

 文字通り、謎が謎を呼ぶアニメ『id:INVADED』。

 10話まで視聴して気になった点を整理する…前に、まず、現在の作品世界の構造から。


現実世界

>砂漠の世界=雷の世界=鳴瓢のイド(酒井田=鳴瓢と穴井戸=富久田が滞在中。鳴瓢のドグマ落ちとともにジョン・ウォーカー出現)
>鳴瓢のイド内の飛鳥井木記のイド(本堂町が滞在中。ジョン・ウォーカーの謎を追う)
>鳴瓢のイド内の飛鳥井木記のイド?内の飛鳥井木記の夢(鳴瓢が一度訪れ、顔剥ぎをボコった後排出)


という入れ子になっている。


鳴瓢は百貴宅で誰を殺そうとしたのか?

 10話終盤で、百貴宅に残っていた残留思念から生成された砂漠の世界=雷の世界=鳴瓢のイドということが明らかになった。
 「全部罠だ」と言った百貴は、それが鳴瓢のものだということを知っていたのだろう。


 問題は、百貴宅から検出されたのが鳴瓢の殺意であるにも関わらず、鳴瓢に百貴宅での殺人に関する記憶がなさそうな点だ。
 鳴瓢は誰に殺意を向けたのだろうか?


 順当に考えれば、現場から死体が見つかっている白駒二四男なんだけど、俺は、現時点で行方不明の飛鳥井木記なんじゃないか、という気がする。
 悪夢に苛まれ続ける飛鳥井木記も、自らの死を望むような発言をしていた。鳴瓢はその願望に協力して飛鳥井木記の殺害を試み、そのショックで記憶を封印してしまった、というのはどうだろう(じゃあ飛鳥井木記はどこにいったのか、となるが、それは後述する)。


鳴瓢、ドグマ落ち

 砂漠の世界=雷の世界=自らのイド、であることを穴井戸から伝えられ、酒井田は鳴瓢としての自覚を取り戻してドグマ落ちしてしまう。
 以前から禁忌として語られていたドグマ落ちが10話でついに発生した。

 
 どうやら、ただ自分のイドに潜るだけではドグマ落ちには至らず(もしそうなら砂漠の世界に潜った時点で異常が起きているはずなので)、現実世界の自身を思い出すことが条件になっているらしい。


 百貴の「罠」発言もあるので、鳴瓢のドグマ落ちは始めから狙われていたらしい。
 問題は、誰がこれを仕組んだか。
 現実世界の記憶を持ち越し、かつ高い推理能力を持つ穴井戸がいなければこの事態は起きなかった。ただ、富久田自身は、どうもたまたま真相に気付いたので愉快犯的に鳴瓢に真実を告げている感がある。


 鳴瓢をハメたい何者かが2名同時の投入を手配、富久田=穴井戸は砂漠の世界で自身の役割を理解し、相手の期待通り鳴瓢を陥れたのだと思う。
 で、いまの時点でもっとも怪しいのは…まあ、どうしても局長ということにはなる。


飛鳥井木記の能力とミヅハノメの関係

 本作のキーパーソン、飛鳥井木記には、自身の強い感情を映像として別の人間に伝えられる能力があることがわかった。
 一方、ミヅハノメの機能は、おおざっぱに言うと「残留思念=強い感情から世界を生成するもの」であって、両者はかなり近い(ちなみに、飛鳥井木記の能力が極大化すると他者や世界がこれに侵食されるらしく(INVADED)、俺は作品のタイトルはこの異能にかかったものだと思う)。


 ミヅハノメが飛鳥井木記の能力をベースにしているのは間違いないが、ミヅハノメはいま、飛鳥井木記から完全に独立して動いているんだろうか?


 ほとんど憶測だが、ああいうシステムを機械単独で稼働させる、というのは、フィクションとしても非現実的、な気もする。
 俺は、飛鳥井木記がどこかで生存しており、ワクムスビで回収した殺意を飛鳥井木記にぶつけることで殺人犯に関連した世界=イドを生成させ、同時に、殺意にさらされた飛鳥井木記のイメージを「カエルちゃん」としてその世界に残すシステムこそがミヅハノメの正体なんじゃないかと思う。


 上で、鳴瓢が飛鳥井木記を殺そうとしたのでは、と書いたけれど、富久田と本堂町のケースのように、殺意にさらされた被害者が死ぬとは限らない。
 なので、なんらかの理由で鳴瓢が飛鳥井木記の殺害を試み、思念は残ったものの(+鳴瓢は記憶を忘却)、飛鳥井木記自身は運良く生存し、現在進行形でミヅハノメを稼働させている…と推測する。

 

ジョン・ウォーカーは何者か? ①

 いまの時点では早瀬浦局長が一番怪しい。怪しすぎて、局長じゃないという理由は「だって、これでまんま局長だったらズッコケるだろ?」というぐらいしかない。

 俺としてはここはちゃんと視聴者を裏切って(?)、局長以外を正体に持ってきて欲しい。

 

 そこで提唱するのが、「ジョン・ウォーカーはみんなの心にいるよ」説である。「みんな」は正確にはイドに潜る名探偵のことだ。

 10話の最後、ドグマ落ちした鳴瓢の前にジョン・ウォーカーが出現した。これが単なる偶然ではなく、ドグマ落ちしたからこそジョン・ウォーカーと対峙することになった、と仮定して整理してみる。 

 ドグマ落ちは、名探偵が自らのイドの中で現実の自分について認識することで発生する。名探偵は、現実では名探偵ではない。名探偵と表裏一体の存在、殺人犯だ。

つまり、ドグマ落ちとは殺人犯が自らのイド=深層心理で自身の殺人願望と向き合ってしまうことであり、その殺人願望を擬人化したものこそ、ジョン・ウォーカーなんじゃないだろうか。

 

ジョン・ウォーカーは何者か? ②

 名探偵が最後に向き合うのが、秘めていた自らの殺人衝動、というのはなかなか皮肉がきいていて、メタミステリ作家である舞城のひとつの結論かもな、という気がする。

 一方で、ちゃんと特定の何者かが犯人であって欲しい、という気持ちもある。

 

 俺は、『id:INVADED』には二つの異能が登場していると思う。

 一つは飛鳥井木記の自己のイメージを他者に伝える能力で、もう一つはジョン・ウォーカーの他者の夢の中に侵入する能力である。

 「INVADED」にかかる能力を持つ飛鳥井木記が被害者であるためにうやむやになっている感があるが(俺だけ?)、ジョン・ウォーカーの夢への侵入は、ジョン・ウォーカー自身の独立した異能であり、これも立派な「INVADED」である。

  

 実は、ジョン・ウォーカーと似たようなことをやった人物が一人いる。鳴瓢だ。

 鳴瓢は、飛鳥井木記の夢の中に脈絡なく登場してみせた。俺はこの類似から、もしジョン・ウォーカーが特定の何者かだとしたら、鳴瓢ではないかと思う。

 

 ただこの推測は、「鳴瓢がジョン・ウォーカーだったらすげえな」という、よく言えばメタ視点、悪く言って単なる当てずっぽうで、真相はもちろんわからない。

 とにかく、10話まで観てここまで整理した。アニメでここまで夢中になったのは久しぶりで、残り3話、本当に楽しみにしている。以上、よろしくお願いします。