『BLAME!』
原作者である弐瓶勉自ら、「主人公は建物かも」と言ったとされる、巨大建築探索SF。
物語の舞台は「基底現実」と呼ばれる超巨大構造物。
なぜいちいち現実などと呼ぶかというと、主人公たちが目指しているのが、ネットスフィアと呼ばれる電脳世界へのアクセスであり、この仮想空間と対置されているから。
設定を見るとゴリゴリのハードSFであり、これといった説明もなく奇態な単語が乱舞するが、とにかくフィクションにぶっ飛ばされてこの日常から解放されたいなら、心を無にして絵を眺めるだけでもいい。
『BLAME!』」で描かれる階段、通路、エレベーター、壁をはうパイプやダクト類…。
それらは無機質で、壮大で、空虚で、あまりに意味がない。
近いテイストで言うと、『エイリアン』シリーズの巨大建築、『ブレードランナー』のビル群なんかが印象として似ている。
しかし、たぶん『BLAME!』の方がスケールは馬鹿デカいだろう。
なにしろ『BLAME!』の自動化された建設システムは、すでに地球を飲み込み、銀河系まで到達しようとしているらしい。木製まで到達した「ビル」。信じられるだろうか?
この世界を探索する人間たちは(主人公は正確にはサイボーグだけど)、そのちっぽけさを極大に、残酷なまでに強調され、その存在には、あまりに無意味なこの巨大建築以上の無意味さしかない。
それゆえに、彼らがときおり灯す希望の光、切実さはおそろしく尊い。
もしかすると、現実の世界の途方もなさと非情さ、そこに生きる人間の小ささと愛しさを、SFという形式によって正しい尺度で説明した唯一の作品なんじゃないだろうか、とも思う。
『トリコ』
以前こんな記事を書いたことがあって、『トリコ』という漫画の魅力は『HUNTER×HUNTER』+『刃牙』であると。ハンタの冒険成分をベースに肉弾で殴り合ってもにゅもにゅ肉を食うから『トリコ』はおもしれーんだ、と。
冒険感が最高潮を維持していたのは、残念ながら、12‐13巻あたりのグルメ界初挑戦あたりまでだったと思う。
そこを機に少しずつ『ドラゴンボール』化していったというか、話の規模が大きくなるにつれて初期の生々しい魅力からはズレていった気がする(雰囲気が変わってもそれはそれで面白かったが)。
逆に言うと連載初期の『トリコ』は本当に死地を冒険してる感満点で、先日ふと第1話を読み直したときも、その完成度、ワクワクさに度肝を抜かれた。
強ければ生き、弱ければ死ぬ…と思いきや、弱いものは弱いものなりに生きるための知恵を尽くしている。
それは生きがいとかいう漠然としたものでなく、生命体としてその環境で生存し続けるために。そして、強者がそれを無慈悲に食い散らしていく。
野蛮で、泥臭くて、自然界における人間の脆弱さとしたたかさが同時に描かれるようなああいう作品、他にあるのかな、今後現れるのかな、と思う。
『はたらくカッパ』
「遠くに行く」シリーズ大トリにして、最終兵器。
逆柱いみりという漫画家を知っている人は知っているし知らない人は知らないだろうが、好きな人は、一度知れば生涯その創作をフォローし続けることになるんじゃないだろうか。
俺も大学生のころにはじめて知って以来、10年以上追いかけている。
ちなみに、その間に出された新作は『空の巻貝』『ノドの迷路』だけ。寡作なのだ(イラスト集も入れるともう少しある。『臍の緒街道』と『蜃楼紀』を持っているのは俺のちょっとした自慢)。
系統としては①で紹介したpanpanyaに近く、何かしらの目的を与えられた主人公が、どこかしらを移動すること、移動それ自体がテーマになっている。
ただ、逆柱いみりの描く世界はガチの純度100%、当局規制モノの異界であり、そのうえ常に生命の危機をはらんでいる。
そこはかなりグロテスクでバイオレンスな世界であり、実際主人公の周りの人たちは、異常存在の攻撃によってばんばん死ぬ。
もう一つ触れておきたいのは、そこで描かれる世界がまったくの混沌のようでいて、異界には異界なりのルールというか、「意味」があるように感じられるところだ。
それは、独自の秩序によって行動しているらしい怪物たちもそうだし、なんなら風景の片隅で言葉もなく踊っている者、たたずんでいる者、何かを売っている者、ひとつひとつに意味深な背景がありそうに思える。
俺たちがそこにどんな意味があるのか、知ることは絶対にない。しかし、逆に言えばどんな意味があるのか、いくらでも妄想していい。
その気になれば、一コマあたり5分ぐらいかけて、じっくりそこで起きていることをイメージしたっていいのだ。
今回は、作品群の中から『はたらくカッパ』を選んだ。理由は手に入りやすいのと(古いやつはプレミアがついてて買えない)、主人公のアンヌがかわいいから。
九龍城、廃工場、アジアンマーケット、地下街、海底、その他あらゆる猥雑でうす暗いところ。
そんなキーワードにピンときたら手に取って欲しい。
以上、よろしくお願いします。