実話怪談という「本」について

はじめに

 実話怪談と呼ばれるジャンルの本ばかり読んでいる。

 その名の通り、実際に起きたということを売りにしており、創作のホラーとは区別される。

 その実話怪談のレビューをたくさん書いて、取りまとめようと思い立った。理由はというと、何しろ本当にこればかり読んでいたからだが、もう一つあらためて感じたことがあるからである。

 

 実話怪談は、活字としての娯楽の地位がいまいち低いと思う。

 例えば他の文芸のことを考えてみる。

 「俺はサスペンスが好き」「SFが好き」「純文学が好き」。そういう会話を交わすときは、普通、次のように続くはずだ。

 例えば、サスペンスなら高村薫、中でも『太陽を曳く馬』が好きだ。

 SFならヴォネガット、特に『スローターハウス5』。

 純文学なら漱石で『行人』が一番…。

 

 好きなジャンルをめぐる話題は、自然と好みの作家につながっていき、その中でも特にどの作品に衝撃を受けて/自分の人生観を変えられて……というように話が展開していく。

 それが、娯楽や創作物としての地位が高いということだ。反対にこれが低いと、なかなか一つのジャンルの中の個別の作家、ましてや、個々の作品における評価というところまで話題が広がっていかない。

 

 これは、もしかしたらそのジャンルのファンになるかもしれない、未来の読み手にとっては不幸なことだ。

 なぜかというと、特定のジャンルの作品を試しに読む気が起きても、例えばSFで言ったって、ヴォネガット伊藤計劃椎名誠では魅力がそれぞれ全然違うからで、その違いをしっかり言語化して、「こういう人には◯◯がおすすめだ」と説明できないと、まともに出会うことが難しいからだ。

 そのジャンルが豊かなバリエーションをちゃんと備えているなら、その豊かさ、言い換えれば作家ごとの差異やおすすめが入門者にもわかるように案内が整備されているべきで、俺は実話怪談にもそういう評価が与えられていいんじゃないかな、と思う。

 

 何が言いたいかというと、実話怪談というジャンルにも、色々な作家がいるのだ。作風という意味でもそうだし、純粋な優劣という意味でも。

 ずば抜けて偉大な書き手がいればゴミみたいな作家もいるし、優れた作家の中でも、作品によって甲乙がある。実話怪談だって、そういう豊かさを持った世界なのだ。純文学やミステリーや創作ホラーのように、評されてもいいじゃん、と思うのである。

 

そういうことなので、

 これから評価をしていく。古い作品もあれば、新しい作品も扱う予定です。

 なお、「本」としての実話怪談についあらためて整理しておくと、おおよそ3〜4ページぐらいの短編が30〜40品収録されているのがオーソドックスなスタイルになる。

 約30品収められているうち、すべての作品が読み手を殺しにくる(怖がらせにくる)かというと、そういうわけではない。

 一応、収録されている話の全部で怖がらせにくる本もあることはあるが、大抵は、ストレートに恐ろしい作品の間に笑える小噺のような話や感動する話をはさんで、本全体の緩急を作ることが多い。

 

 逆に言うと、実話怪談というジャンルにおいて、基本的なフォーマットはそれぐらいしかない。

 その範疇で、多くの書き手がそれぞれの持ち味や工夫を生かそうとしている。読者を揺すぶるパワーは他のジャンルに負けないぐらい自由で豊かだし、それだけ、玉と石とが入り混じる(優れたものは感激するほど強烈だし、ひどいものは手にも取りたくない)。そういう世界なのだ。もっと多くの人が手に取って、感動したり、批判したりするべきだ、と思っている。

 

 評価していくにあたって、まずは、一冊の本に収録されている話について、次のような基準で点数をつけていく。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ホラーというジャンルでこの基準をクリアした物語には、読んだ後に世界観が「ズレ」るぐらいの衝撃がある。体感として、10冊に一品くらいの割合で登場する。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 好きな作家を見つけられると、そういう書き手はコンスタントに超えてくる一方、相性の悪い作家は100冊読もうが一品もぶつからない感じがする、そういうクオリティ。すごく貴重。

 ○…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。これも、相性が合わない作家はどれだけ振り回そうと当たらない(なんとなくバレたかもしれないが、俺は自分が好みの怪談作家を愛するのと同じくらい、相性の悪い作家を憎んでいる)。

 

 その上で、本全体の評価をS~Cまでの4段階でつける。

 S…価格、提供される媒体に関係なく、手に取る価値がある。

 A…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。

 B…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 C…読むだけ時間のムダ(少なくとも俺には)。

 

 基本的にSに近づくほど本として「怖い」が、中にはあまり恐怖に寄せていなくても、丁寧に取材している印象と独特の読後感から、読んで確かに満足できる作風の人もいる。

 そういうところも勘案しつつ、評価をしていこうと思っている。

 

 以上、よろしくお願いいたします