『「超」怖い話Ε』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 B。

 平山夢明/加藤一作。2005年刊行。

 「超」怖い話シリーズ第5弾。
 これまでのシリーズと比較すると、叙情的な話が多い。リアリティをあえてややぼかした短編映画みたいな味わいがあった。
 悪い本では全然ないけど、怖さを中心に評価して総評B。このレビュー企画でBは初ですね。
 

各作品評

 各話、詳細は後述。
 片耳奴…◯
 指の日…◎
 森の奥…◯
 VF…◎
 

あらためて、総評

 今回は全体的に、怖いというより不思議な話を集めた印象。現代の民話というか。『VF』がその中で異彩を放っている。
 
 『片耳奴』について。なりゆきで入ったチョンの間で不思議な女に出会って、という話。
 あらためて大枠だけ見ると、昔話のようだ。いやらしいことはしていないのだが、女が「あること」を行ったあとの描写など、なぜかかすかなエロティシズムを感じる。
 余談だけど、もしも登場人物の性別があべこべだったら、この怪談は成立するかな、というのを考えた。女性向け風俗、ゲイ風俗、レズビアン風俗だったらどうだろう?
 別に違和感ないよな、というのが率直な感想。娼婦という存在が転化してもっとも聖なる存在となる、みたいな価値観?宗教観?って、徐々に消えていくのかもしれないな。
 
 『指の日』。すごく好きな話。
 若いカップルがいて、うまく言葉にできない心地よさを感じる相手だと、お互いにそう思っている。でも、そんなあやふやで将来の展望もない関係が永遠に続かないこともわかっている。
 結局、二人は別れてしまう。リアルだけど少し地に足がついていない微妙な関係が終わるとき、ある出来事が起きる。
 その現象は、女性の指にまつわる異常事態であるとともに、結婚という現実的な将来とも結びついていた。怪異が起きるので、話としては怪談。でもそれだけじゃなく、結局うまく言えない話。
 
 『森の奥』。招かれてるんだか、全然違う別のメッセージなんだか。
 大きな破滅を迎えたわけでもないのに、「予感」だけで恐怖を描けるのは平山夢明のすごさだと思う。
 
 で、『VF』である。
 まずひとつ告白させてもらうと、平山夢明に比べて、俺は加藤一の怪談とあまり相性が良くない(余談だが、今回のΕから各話の作者が誰か表でわかるようになった)。
 理由は、怖がらせようとしてるのに空振りしてるのか、はじめから「恐怖」ではなく「奇妙」の方に照準が合ってるのか、いまいちわからない話が多いからだ。
 しかし、この『VF』は明らかに読者を殺しにきてるし、その意志に伴う攻撃力があると思った。
 暗闇の描写もいいし、友達が壊れていく過程は心にクるものがある。親切だけどどこか突き放したみたいな霊能力者のコメントもうまく効いていた。
 
 第10回はこれでおわり。次回は、『方違異談 現代雨月物語 』を紹介します。評価はからいです。すみません。ぶっ叩くかどうかは冷静に考えてから決めます。
 以上、よろしくお願いいたします。