はじめに
評価は次のように行います。
まず、総評。S~Dまでの5段階です。
S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。
A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。
B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。
C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。
D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。
続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。
☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。
◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。
◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。
最後に、あらためて本全体を総評します。
こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。
総評
B。
加藤一/神沼三平太/高田公太/ねこや堂作。2020年刊行。
題名のとおり、全100話の怪談が収録されている。たいてい、実話怪談の本というのは一冊あたり40話前後なので、かなり多いことになる。
話の数が多い分、一話あたりは短い。短い話でインパクトを出そうとすると、やたら変則的な文章を書いたり、無理やりのどんでん返しに頼りがちだが、この本では、これこれこういう怪異がありました、という体裁できれいにまとまっている印象。
各作品評
あらためて、総評
総評でも書いたが、ページ数の少ない怪談で読者に強い印象を残すのはかなり難しくて、どうしても変化球的な表現に頼りがちになってしまう。
俺はそういう作品の見せ方がすごく嫌いなので、もしもそんな話ばっかりだったらこっぴどく批判してやろうと思っていた、のだが。
実際は、なんだかほとんど「割り切った」ような抑制の利いた作品が多く、それがかえって、うまく本の中にひたらせてくれた気がする。
一点、批判というほどじゃないけど思ったことを書いておく。
作品の傾向として主に二つある気がしていて、写実的・現実的に細部を書きこんでいく怪談と、表現をぼやかし、あえて現実性を薄くした怪談があった気がする。
これは、どんな怪異が起きたか、ということでない。文章の書き方の話だ。
例えば、主語を省略したり、風景描写をあえて削って書くと、どことなく現実感のぼけた、夢っぽい印象の作品になる。
これ自体が良い、悪いということではない。ただ、読んでいてどうも、二つの怪談のタイプが調和していなかった気がする。きっちり細部を詰めた写実的な怪談のあとに、夢見心地のぼやっとした文の怪談がくると、少し戸惑う。
うまいこと、双方が完全に引き立て合う編集方法はあるのかな。
俺はかっちり現実的な怪談の方が好きだけど、色んな文体・作風があることはわかるし、そこの調和がとれれば、一冊の本としての可能性はもっと広がるだろう。けっこう重要な課題である気もする。
第30回はこれでおわり。次回は、『現代怪談 地獄めぐり 業火』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。