カブトなし。クワガタほぼなし。それでよし。『きらめく甲虫』の感想について

 昆虫が好きなのだが子供の頃はもう今の比ではなくて、狂ったように山野を網を振って走り、即席のヒシャクのような道具をこしらえて水中をかき回したりしていた。

 昆虫にも色んな種類がいるわけだが、そんな当時、甲虫の特別さときたらすごかった。花の中に全身を突っ込んでむぐむぐやっているハナムグリだとか田んぼをすいすいやっているゲンゴロウだとか、その流線型の体、つややかな表皮など、「生き物は美しい」という感慨を俺に最初に与えたチャンネルは甲虫であった気がするし、日本のカブトムシのサイズを鼻で笑って圧倒的な海外カブト勢など、「どうも世の中ってのは俺の想像を超えて広いらしいぞ」と小学校低学年のクソガキに思わせた最初のきっかけも、これまた甲虫であった気がする。

 

 という前置きをふまえて『きらめく甲虫』の感想である。

 表題のとおり、甲虫と題しているがカブトムシは出てこないしクワガタムシもほぼ出てこないのだが、将棋で言う飛車角を落としてそれでも満ち足りた読後感があるのがすごい。タマムシだけどなんか毛みたいなん生えてるやつとか、ハムシの後ろ足の主張がえぐいやつとか、わりと甲虫について知っているつもりの俺でもなんじゃこいつっていうのがけっこう出てくる。

 表紙を見てもらうとわかるとおり、写真も美しくて見ていて飽きない…だけでなく、種別の拡大写真を載っけられて肉眼だと同じキラキラだけど顕微鏡レベルだと質感が全然違っていてその理由は一体、みたいな疑問もわいてきて楽しい。

 

 本書によると、甲虫は地上で最も繁栄している生き物であるという。これも本書で得た知識だが、あのきらめく硬い羽が外気の温度から内臓を守ったり空気を溜めるのにひと役買ったりするおかげで色んなところで生活できるようになった。

 昆虫全体が地上に約100万種いるそうだが、うち37万種は甲虫によって占められるそうだ。地球は昆虫の星、という言説はよく聞かれるが、そのうちの最大勢力ということになる。つまり音楽業界の頂点をスピッツだとするとその最高傑作は三日月ロックであるから、甲虫≒三日月ロックのファン、というようなことである。なお、この例えはわかりにくい上におそらく敵しか生まない。自覚はある。

 

 そういうわけで、もうヘラクレスとかネプチューンとかゴライアスとか横目で見て終わり、という中級者以降に、ぜひ読んでほしい本であった。もちろん昆虫ビギナーにもすすめます。おわり。

 

きらめく甲虫

きらめく甲虫