豚コレラについて畜産ド素人が考えてみたこと(なぜ食べてはいけないか編)

はじめに

 パッケージ化され冷凍された豚のブロック肉を料理で使うたびに、なんだかモノのようだな、と思う。
 かたちも真四角に成形されていて、売り方によってはすでに食べやすいサイズに切り分けられていたりして。生き物(だった)感がない。
 それが鍋にかけて炒めていると、ときどき肉と脂肪の層の中から、赤い血の泡が膨らんで流れてくる。
 血のあぶくは鍋の熱に直にさらされて変色し、潰れて見えなくなるが、このとき、火にかける前の赤々とした生の肉を見るよりよっぽどぎょっとさせられる。こういうとき、生き物だったものを食っていると実感する。逆に言えば、こういうときぐらいしかはっきりと身に迫ってそう感じない。
 
 豚コレラに関するニュースを見るたびに気持ちが何か含まされたような複雑な感じになって、前にも書いたとおり、病気になって殺処分されようと畜産上の計画通り一定の年齢で屠殺されてヒトの口に入ろうと豚からすれば大した違いはなくて(たぶん)、それを市場に出せなかった、食べられなかった、と感じるのは人間の欺瞞なのかもしれないが、そう思うのを止めることができない。
 

なぜ豚コレラに感染した豚を食べてはいけないのか?

 なるべく豚を処分したくないし、殺処分するならせめてその肉は食べたい。
 そういう前提で考えて調べてみた結果、色々とわかったことがあったから整理していく。基本的に自分のためだけど、もし他にも同じような人がいたとして、その人の参考になればうれしい。
 
 まず、豚コレラに感染した豚肉を食べても人間の健康に影響はないらしい。
 じゃあ食べればいいじゃん、ってなもんで、この「いいじゃん」には二つの意味がある。
① 保菌したままでも育てればいいじゃん
② 育てるのが無理で殺処分しても、その肉は市場に流せばいいじゃん(他の人はどうか知らないが、俺なら買う)
 
 ①はさすがに、俺が畜産の素人でも無茶を言っているのがわかるが、②がダメな理由はわからなかった。
 
 もちろん、ダメな理由があるのだ。
 
 まず、豚コレラは人間にとっては無害だが、豚にとっては有害であり(当たり前)、致死率も高い。
 そして、感染した豚は自身の健康を害しているのはもちろん、保菌した分泌物や排泄物を常に外に出しているため、他の豚、場合によっては別の豚舎や別の農場の豚を巻き込む危険性をはらんでいる。
 この時点で①は「いいじゃん」ではない。
 また、仮に感染した豚の肉を加工し、ハムやソーセージにしても、豚コレラ菌は生きている可能性があるという。
 そのため、加工した後でも感染源になる可能性があると思われる。これで、②も「いいじゃん」ではなくなる。
 
 つまり、豚コレラに感染した豚を育てたり食べてはいけない理由は、人間がそれを口にしても平気かどうかという視点ではなく、他の豚にうつるリスクが野放しになるのは許されないから、と考える必要がある。
 

なぜワクチンを使って予防しないのか?

 豚コレラにはワクチンが存在する。
 じゃあワクチンを打てば、あとは消費者の「ワクチンを接種している豚」に対する抵抗感と、ワクチン接種にかかるコストが値段に上乗せされるのを受け入れるかどうかだけの問題なんじゃないの?
 それがささいな問題とは言わないが、あくまで消費者側の受容の問題なら、俺は少なくとも気にしないけど…。
 
 と思っていたら、どうも「豚コレラ清浄国」というステータスがあり、その獲得と維持も、ワクチンの接種に二の足を踏む理由になっているらしい。
 
 まず、清浄国というステータスは、国際獣疫事務局(OIE)という国際組織から認められて獲得される。
 そして、清浄国であるメリット、それを失うデメリットがあるが、それは豚肉の輸出入に関するアドバンテージに集約していくように見える。
 清浄国であれば輸出で有利だし、清浄国でなくなれば、他の国(そこが清浄国であってもそうでなくても)からの輸入圧に対抗しにくい。だから清浄国という認定はキープしたいし、認定が停止した場合は(現状はこの状態らしい)、できるだけ早く復帰したい。
 
 で、なぜワクチンを使わないか、である。
 それは清浄国認定停止からの復帰という問題にかかってくる。復帰のルートは3パターンあって、それぞれ復帰までにかかる期間や条件が違うのだが、そこにワクチンの使用が要素としてからんでくるのだ。
 
① ワクチンを使わないで、最終発生から3ヶ月間経過する。
② ワクチンを使用し、ワクチンを接種した豚はすべて殺処分し、最終発生から3ヶ月経過する。
③ ワクチンを使用し、殺処分は行わず、ワクチンの追加使用もなく発生もなく12ヶ月経過する(これは農林水産省の資料を俺なりに噛み砕いた。たぶん合ってると思うんだけど…)。
 
 
 俺はなるべく豚を殺処分しないで欲しいという希望を持っている。
 保菌している豚でも殺して欲しくないし、保菌していない(けど将来的に感染するかもしれない)豚はなおさら殺して欲しくない。だからワクチンを打てば?と思う。
 養豚の業者の方が見たら外部の人間が勝手なことをほざくな、とハラワタが煮えるかもしれないが、とりあえずそう思う。
 しかし、もしそれで③を選ぶと12ヶ月間、日本は清浄国としての認定が停止した状態になる。
 
 で、日本はワクチンを使用しないことを選んだ。
 どのメディアを見てもこの三つのうち①を選びました、と明記しているものはなかったが、②③がワクチンの使用を前提にしている以上、消去法で①を選んだことになるはずだ。
 12ヶ月間の認定停止を抱えて輸出入をめぐる外圧と戦うのは厳しい、と評価した上での判断だと思われる。
 ただ大事な点な気がするので、この①という選択について少ししつこめに整理しておく。
 
①のメリットは、
・ワクチンを打たなくてよい
・3ヶ月で清浄国に復帰できる
 
 一つ気になるのは、よく読むと①に殺処分に関する言及はないことだ。
 俺は素人なのでわからないが(しつこい)、文面上、①のルートを選ぶ限り殺処分は強制されない。
 つまり日本の処理を正確に説明するなら、①+自主的に殺処分、という複合的な処理になる(はず)。
 これには少し疑問がある。ただ陰謀論めくというか、なんだか勉強のできないやつがNASAの月面着陸を口角泡飛ばして否定するような話なので、いまは触れない。
 また、ワクチンを使わないもう一つの理由として、別の病気であるアフリカ豚コレラとの関係が語られることもあるが、これもあとに回す。続きは明日で。
 
明日の課題
・イノシシについて
・ワクチンのない病気、アフリカ豚コレラについて
・結局俺はどうしたらいいんだ…ということについて
 
 なんだか気が滅入るが、自分の好きで始めたことなので、以上、よろしくお願いいたします。
 
 なお、この記事は畜産にまったく知識のないド素人が報道記事を参考に考えているものなので、業界に詳しい方から見ておかしい点や明らかに間違っている点がある可能性が存します。もしあれば、指摘いただけるとありがたいです。