『「超」怖い話A』について

今週のお題「怖い話」

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 S。
 
 平山夢明/加藤一作。2003年刊行。
 色々な始め方があったと思うけど、考えた結果、この本から始めることにした。
 あらためて読み直して、個人的な思い出がよみがえったのと、実話怪談というジャンルにおける一種の「地点」みたいなものをイメージさせられたのがその理由となる。
 
 実話怪談というジャンルにおいて、たぶん「A」は大きな影響を後発に及ぼしている、という話は後に回すとして、単純に本そのものとして見ても怖い話が多い。
 実話怪談に触れたことがない方は、この「A」を読めば、おおよそこういうジャンルなんだな、ということがわかると思う。
 17年前の本であるにも関わらず、古びたところはあまりないように感じた(携帯電話の描写だけは、どうしてもガラケーが思い浮かんでしまったけど)。
 

各作品評

 グランドスラム…◯。2020年現在の本と比べてもだいたい同じようなことをやっているのは、俺たちがあんまり進歩してないからだろう。
 占有…◯。業界の話が面白かった。たぶん平山夢明担当だと思うけど、言うまでもなく、この人はこういう強みがある。
 黒い筋…☆。◎と悩んだけど。後述。
 きれいな唄…◯。こういうのもいい。
 わからないもの…◯。同上。
 タラコ…◎
 蝿…◯
 

あらためて、総評

 はじめて読んだのは高校生のときぐらいで、氷製のハンマーで頭をぶっ叩かれたような衝撃があった。
 硬質的で冷たい文章。
 実話怪談=怖がらせるための文章という強い目的意識から導かれた、登場人物のディテールをしっかり、一方で余計なムダなく伝える技術。
 オバケそのものだけでなく、怪物が登場するまでの間、あるいはその周りの風景が恐怖の主役であってもいい、という発見。
 人間が、死んだ後はただの腐った有機物の塊になり、蝿の食べ物になるという事実。
 そういう物質的な感覚が、一方で、オバケという超自然的な存在と矛盾しないでいるのは考えてみると不思議だが、「超」怖い話ではそれがちゃんと調和していた。
 
 読み直してみて、さすがにはじめて読んだときと同じような衝撃はなかった。
 代わりに感じたのは、いま読んでいる他の実話怪談と手触りみたいなものがあまり変わってないな、ということで、それだけ、この「A」が後発のお手本になり、意識されているということなんだと思う。
 
 各作品のうち、『黒い筋』と『タラコ』にもう一度触れておく。
 
 『タラコ』は、んなアホな、という展開だけど、ギャグと受け取られる恐れを抱えても、こういうめちゃくちゃを扱うことがホラーの可能性を広がるんだろう。実際俺は怖かった。
 
 『黒い筋』は☆か◎か悩んだ。
 悩んだ理由は、絶望感がもっとも高まったのが、一連の怪異をしめくくるあの文章だったからで、要は書き方、レトリックとか技術の問題だからだ。
 実話怪談における文章の役割でよく悩んでしまう。
 もちろん文章は大事なのである。
 ただ、これといった見どころのない話を、書き方でごてごて飾ってそれっぽく演出しようとする書き手が嫌いなので、どうしても、評価がからくなる。
 しかし、あの一文にノックアウトされたのは事実だし。ということで☆とした。
 
 第1回はこれでおわり。次回は、ある意味で俺の一番好きな作家である我妻俊樹の本を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。