はじめに
評価は次のように行います。
まず、総評。S~Dまでの5段階です。
S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。
A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。
B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。
C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。
D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。
続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。
☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。
◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。
〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。
最後に、あらためて本全体を総評します。
こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。
では、本編に入ります。
総評
S。
平山夢明作。2003年刊行。
超常的な怪異を扱った心霊系とはまったく切り口が異なる、いわゆる「人間が一番怖い」系の話を集めたシリーズ第一作(※ 竹書房として。厳密には、それにさきがけて角川春樹事務所から別の作品が出てます)。
狂人、犯罪、裏社会を含むディープな専門職、生理的に不快なものが目白押し。ゾッとさせられる一方で、風俗業やブルーカラーの人たちへの丹念な取材が見られ、この本ではじめて知って感心させられることもあった。ダークで背筋が冷える社会科見学、でもある。
また、怖かったり嫌な気持ちになる一方で、人間が壊れてしまう背景に、どこか悲哀を感じさせるものが多いのも特徴といえる。
各作品評
どれもよかったので、特に印象に残ったものだけを挙げる。
素振り…◯。
サイコごっこ…☆。
ビー玉…◎。
フラスコ…◎。
あらためて、総評
2020年に読み直しても古臭い印象はない。怪異には興味がなくても、人間の闇には関心がある…そういう怖いものみたさを抱える人に、あらためてお薦めしたい。
『素振り』。トップバッター。明らかに正気じゃない何者かがいきなり侵入してきて…という、「東京伝説」の黄金パターン。
後の作品に比べれば、実害はまだおとなしい(これでおとなしいというのもマヒしてる感があるが)。
しかし、異常事態が起きている現場の緊張感、部屋にこもった汗の湿気みたいなものは、淡々とした筆致からもひしひし伝わる。
平凡な舞台、誰でも巻き込まれうる状況。一瞬で沸騰する、緊張と絶望感…。あえてこの作品でシリーズの幕を切った平山夢明の自信を感じないでもない。
また、加害者以外の登場人物(隣人の工員、アパートの大家)が、狂っているとは言わないがまともでないところもいい。
「東京伝説シリーズ」において、事態を止めるべき第三者がまったく無関心である、というのは重要な要素だ。
『サイコごっこ』。はじめて読んだのは高校生のとき。
語り手と年代がかぶっていたこともあったのだろう、バチン、と衝撃を受けた。言葉というツールは、意識を形成するだけでなく破壊して無効化する方にも作用することがある。それを知ったときの感覚が、20年近く経ってもまだ俺の中に残っている。
『ビー玉』について。心霊系の怖い話だと、幼児は「役に立たない情報をくれる目撃者」か「被害者」、どちらかの役目を担うことが多いが、この話では主役として、その心の動きが重要なキーになっている。それが面白いと思った。
『フラスコ』。読者の精神を破壊しにかかっている話。殺意枠(※ 俺が勝手に分類している、一冊の怪談本の中で、とにかく読者を怖がらせる役目を負っている作品のこと)と言っていいと思う。
生理的に不快なのは当然だ。でも、このなんとも言えない読後感は、やっぱり悲哀の影響が大きい。
巨大な恐怖や絶望感にもの悲しさを含ませるのは平山夢明の真骨頂。今回は、物悲しさと不快感が等量に混ぜ合わされ、巨大なカタマリとなって読む人の頭に落下してくる感じだった。
第9回はこれでおわり。次回は、『「超」怖い話Ε』を紹介します(「Δ」が飛んでるのは手元にないからです…)。以上、よろしくお願いいたします。