『一〇八怪談 鬼姫』について

今週のお題「読書感想文」

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 B。

 川奈まり子作。2020年刊行。

 

 本人の体験談と取材で聞いた話の両方から構成される、全百八話の実話怪談。
 怪異を語るにあたって、各地の歴史や名跡に言及されることが多い。ものすごく怖い、ということはなかったが、史実と伝承をふまえて語られる話はそれぞれ興味深く、Bと評価した。
 
 

各作品評

 第三九話 顔振峠…〇 後述。

 第七八話 兄の左手…〇

 第一〇五話 変なものが棲む界隈…〇

 

あらためて、総評

 色々な伝承の詳細も、怪談を提供してくれた人たちについての生い立ちも、丹念に取材しているんだろうな、というのが伝わってくるようで、作者の誠実さを感じた。

 

 ところで、怪談のバックグラウンドについて文章の多くを割く作家のすべてがそうではないが、この作者の場合、それが「報告」といった印象を読み手に与えることにつながっているのではないかと思う。

 そういう文章が怪異の発生に真実味をもたらしている一方で、淡々としすぎている部分もあり、読んでいてこちらの現実が致命的に揺らぐような恐怖感が得られなかったのは、そこに理由があると考える。

 一方、そういう余計な虚仮おどしのようなものを含まないことを一冊とおして徹底したことで鮮明になっている怖さもある。

 『第三九話 顔振峠』の理不尽さ、『第七八話 兄の左手』『第一〇五話 変なものが棲む界隈』の異常さはその代表例だ。

 これが例えば、他の作家がやりがちな、いかにも恐怖感を盛り立ててやろう、という文体だったらこの怖さは伝わらなかっただろうと思う。本全体のベースとしてお話のディテールにしっかり文章量が割かれ、抑制が効いていたからこそ、な気がする。

 

 第13回はこれでおわり。次回は、『東京伝説 狂える街の怖い話』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

一〇八怪談 鬼姫 (竹書房怪談文庫)

一〇八怪談 鬼姫 (竹書房怪談文庫)