『呪術廻戦』13巻の感想について

はじめに

 今巻は波乱が頻出するので、未読の方は作品を先に読むとよい。おおいに感情を乱されるとよい。

 

感想

 あらためて13巻ですが、『呪術廻戦』という作品の魅力やコンセプトが濃縮された章になっていると思います。
 
 まず、相変わらずスピード感がどうかしていて、大変よろしいですね。
 宿儺の指をドラゴンボール的に大切に一個一個集めていくのが話の流れの一つだと思っていたら、それがいきなりベルマークのように大量に集まってしまい、宿儺、(一時的に)かなりの精度で復活、大暴れという。
 指回収、というわかりやすいロードマップを読者に示したうえで、高速でそれを巻いちゃう。いいですね。大いにやってくれ、という感じです。
 
 あと人死にですね。
 死にましたね。壮絶に。
 いくらか話が横にそれるようなことを書くんですが、みなさんは漫画で読者をびっくりさせる一番簡単な方法はなんだと思われますか?
 俺は、重要なキャラクターを突拍子もないタイミングで死亡させることだと思います。例えば、『スラムダンク』の最終巻で「天才ですから」というセリフのあと、次のページで花道が爆発四散していたらメチャクチャビビると思います。
 でも、作家はもちろんそういうことを、普通はしない。
 その理由は、一つにはそんなことをして得られるもの、表現できるものが、これまで積み重ねたきたものと釣り合わないからですが、もう一つ、割と現代的な理由があると思います。
 それは、漫画というメディアに触れる読者の目がどんどん肥えてきている、あるいは、もっと悪い言い方をすれば、「読者を驚かせたろ」という作家の意図をあっさり見抜いて、寒いことすんなよ◯◯(作家の名前)、とため息をつくような嫌なやつが増えているからです。
 俺は以前、無印『BLUE GIANT』10巻についてこういう感想を書いていて、これは冷めてしまった、というような無感動ではないけれど、作者に対する、なんでこんなひどいことするの? という作品世界の裏側を作家自ら暴いてしまうことを責めるものでした。
 バトル漫画でも同じようなことは起きていて、重要そうなキャラ、強いキャラが次のページでいきなり死亡しても、最近の読者って、驚くよりも「え、こんな演出でビックリさせようと思ってるんか…」と作家に対してがっかりしてしまうところがあると思います。
 それでは、こういうスレた読み手でも驚愕できるように、「ちゃんと」「理不尽に」キャラクターを死亡させるにはどうしたらよいか。
 ありきたりな結論ですが、丁寧に作品世界を構築し、読み手を物語に没頭させるように心を配るしかない。そして、この作品世界の構築ってやつが、今巻3番目のキーポイントになります(下記)。
 
 『呪術廻戦』という作品の特色の一つに敵味方陣営の善悪がいまいち曖昧なところがあって、「悪い敵をやっつけた! 世界、平和!」みたいな読後感があんまりなかったり、釘崎がどう見ても悪役だったりする。
 この巻でもそういう印象があって、倒された仲間のことを想いながら呪術師たちを圧倒する漏瑚は、うっかりすれば「良いやつ」の方に見えます。
 両陣営の一方に肩入れすることがなく、それぞれの思惑が並び立って『呪術廻戦』はできている感じがしますが、この対立構造の真上から降ってきて全体を破壊・再構築する超暴力があります。宿儺です。
 宿儺の猛烈な強さによる恐怖の統制、というかたちで『呪術廻戦』の世界観は完成している感じがしますが、宿儺のにくいところは、個人の動機を持つ一人のキャラクターでもあるところです。
 宿儺は、作品世界の代表=作家が表現したい作家自身である一方、好き勝手に動いている単なる登場人物でもある。
 このバランスを上手くとることで、はじめて、宿儺にあっけなく殺されたキャラクターの死が作者によって都合よく用意されたものではなく、容赦のない暴力によるものだと読者は「錯覚」することができる。「作者に」ではなく、「宿儺に」殺された、と感じることができるわけです。
 おわかりいただけましたか。わからなかったかもしれませんが、俺も自分で言っていてよくわかっていない、のでしかたありません。まあ、そういうことです。
 
 いずれにしても、13巻は最高なので、みなさん読みましょう。
 余談ですが、13巻が面白すぎた単行本派が、勢いのままうっかりwikipediaを読んでは絶対にいけません。責めるつもりはないですが、どえらいネタバレが書いてあります。泣きそうです。
 
 以上、よろしくお願いいたします。

 

呪術廻戦 13 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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