惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

中の人がんばれ、と思ってしまうことについて

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 企業が何かやらかしたり、一つのプロジェクトがご破算になったときに、倫理や善悪とは別の回路で「おおう…」と嘆息してしまうことがあって、つまりは、事業に携わっている「中の人」への同情なのだった。

 今回の場合でいえば、提携を解消された側の会社の担当者ということになる。

 

 そもそも、この事態を招く原因となった当該の発言は、読んでいて目まいを覚えるような醜悪なものだった。これを目にしたときの俺自身の怒りと混乱を、俺も覚えている。キャラクターの版権元が下した今回の判断は至極、当然のものであり、是非を云々する余地はまったくない。

 だいたい、企業内部でキャラとのコラボレーションを企画する部署(実作業は広告代理店なんでしょうか?)だって、提携する作品の世界観をふまえて製品のブランディングをするのだろう。

 にもかかわらず、作品世界にある反差別の思想をちゃんと汲み取れていないならば勉強不足でしかないし、逆に把握していたとすれば、それが自社の一部から発信されている声明とまるで食い違っていることは自明だろうから、強いて言えば偽計なのだ。いずれにしても、擁護しようがない。

 だから、ここから先は、上で書いたとおり、倫理や善悪とは別の回路の話だ。

 大変だなー、と思っちゃうのだった。がんばれ、中の人、と思ってしまう。この「がんばれ」はちゃんと言葉にならないんだけど。

 

 企業における個人の立場は、難しい。

 もし、その組織の社是や理念が人種差別や偏見の助長を堂々とうたっているならば、そんなところに務めている者がどうかしている、という話になるが、さすがにそんな企業はこの世に存在しない(たぶん)。今回の法人だって、当たり前だが、組織の沿革や目標にそんなことは一文字だって書かれていない。

 おそらく、組織としての「顔」を一つしか持たないで、その単独の表情だけが果てしなくどこまでも奇怪…などという法人はなく、企業というのはどれも、いくつかの側面を持っているものだと思う。

 ただ、じゃあ今回の件は、トップのうち一人がどうかしていた、ということでいいんですね…ということにはならない。それが組織の難しいところだ。

 それは、その企業が常軌を逸して強権的なワンマンでもない限り、一人の有力者がわけのわからないことを言い始めても異なる視点から修正し、封殺し、法人としての体裁を健全に保つ、そういう組織内の多様性が期待されるのがまっとうな企業というものだからだ。責任があるのだ。

 大元となったあの醜怪な文書だって、あれをデータ化して企業のサイトに掲載する作業と決裁手順が(おそらく)あった以上は、そこに関係した全員が社会的な責めを負うのだと思う。これは、例えば組織論として部下の失敗は上司がすべて担保する云々とはまた別の話で、世の中からの道義上の叱責について、「上から言われた通りやったことなので私の責任ではありません」とは、関係した者は言えないのではないかという気がする。

 

 ただ…、と一方で思ってしまう。

 あの文言を当事者の代わりに文字起こししているとき、もしくは、それをアップロードする作業をしているとき、俺はその個々の担当者が、まるで無感覚にそれを行っていたとはどうしたって思えないんだよな。

 「この言葉はどう考えてもまずいだろう」

 「私は(俺は)こんなことをしたくてこの会社に入ったわけじゃないんだけどな」

 きっと、仕事しながらそう思ったんじゃないかと思うんだ。

 おかしな方向に進まないために期待される内部の多様性が、かえって圧殺される矛盾を抱えるのが企業という奇妙な共同体で、その中で、自社のサイトに載った文章を読みながら胃の底に苦い汁をわき上がらせた社員が、きっと大勢いると思うんだよ。

 

 「そんな思いをするぐらいなら辞めちゃえば」

 「で、新しい勤め先を探せば」

 そう言えるのは、俺に言わせれば、きっと普通よりも優秀か強い人。

 普通の人は、なかなかそういう選択ができないんだよ。仮に、いま自分がやっていることが道義にもとっていてもね。

 

 だから、まあ、がんばれって思っちゃうんだな。

 何度も言うように、この「がんばれ」はうまく説明できない。

 自分のとこの企業からあんな不気味な声明が出てて、それに対して「がんばって自身の心を殺していまの仕事に努めていこうな」っていうのも絶対違うし、かといって、がんばっておかしな社風を是正しよう、とか、転職しよう、とか、すげえパワーのいることを無責任に提案できないし。

 うまく言えないんだ。「中の人がんばれ」としか言えない。単に同情してるっていう以上の感情でもって、そう思ってる。

 

 以上、よろしくお願いいたします。