サスペンスのある部分を決着させたかもしれない、『OLD』の感想について

 

 面白かった。

 上映時間120分未満。けっして長い映画ではないのだが、物語的なイベントが立て続けに起きるためにものすごく濃密だった。満足。

 ただ、科学的な正確さや細かいツジツマを気にする人は相性悪いかもしれない。作品世界をとある強力なギミックが支配しているんだけど、けっこう設定が適当だからだ。科学的には「んなアホな」という感じで、ストーリーの細部も勢いでどうにかしている印象はある。
 あと、文字通り悪趣味な展開が多い。

 ここはシンプルに欠点に感じた部分で、不愉快に思う人もいるだろう。実は俺自身がその一人で、虫けらでもなぶるように閉鎖空間で人を傷つける場面が続くので、もういいよ〜、と思うこともあった。
 でも、トータルでは満足。タイトルに書いたとおり、サスペンスという形式のある部分を終わらせたかも、とさえ思う。

 

 ここから、ややネタバレを含む。

 

 物語の登場人物たちは、身体的な時間の流れが異常な速度で進む砂浜に閉じ込められる(通常の30分が1年間に相当)。

 子供は急速に成長していき、すでに年齢を重ねている者たちは「持ち時間」の少なさにおびえることになる。このように突拍子もない設定であり、ろくでもない出来事も次々に起こるので、「もしや夢オチなのでは」という疑惑さえ抱いたが、ちゃんと現実である。

 砂浜からの脱出は色々な事情があってきわめて困難だ。しかし、キャラクターたちは時間と戦いながら、なんとかここから生還を試みる。きわめて特殊な閉鎖環境における、一種のソリッド・シチュエーションものといえる。

 

 さて、ソリッド・シチュエーション作品を評価するときの視点の類型として、この状況は人生の縮図である、というものがある(気がする)。

 『CUBE』なんか、割とそういう感想を見た記憶があって、理不尽で凶悪だけど、そもそも世界って標準的にそういうもんだよな、という。

 これは、もちろんこじつけもいいところで、実生活でワイヤーでサイの目に切断されて死ぬことってあんまりねえだろ、と思うが、『OLD』に限っては本当に、上手いことこの特殊な状況と普遍的な人生を重ねてみせたのではないかと思う。

 すさまじい速度で時間が進んでいく中で、これまでの愚行や人生の喪失経験が無慈悲に、けれど穏やかに洗い流されていく。

 キャラクター同士のしがらみも失くなり、過ぎていく時間の中で残ったのは感謝と愛情だけ…と思いきや、過去への追憶に囚われてしまう登場人物も出てくるが、それもリアルな感じだ。

 いずれにしても、きわめて特殊な環境にもかかわらず、人生で何十年も経過する中で、誰しもそうなっていくんだろうな、というのが自然に描写されている(作中の時間では一日強しか経過していないんだけど)。

 

 それで、サスペンスのある部分、というか「問題」を決着させた、って感想について。

 大げさ言った割りに全然たいした話じゃないんだけど、次のようなことを思った。

 サスペンスやパニック映画で、物語の途中で人がバカスカ死んだり傷ついたりしてるのに、最後は一件落着、色々あったけど、まあ終わりよければなんとやら、と丸くおさまる作品がある。俺はこれ、ちょっと嫌なんである。

 最近だと『レディ・プレイヤー1』が代表例で、最後はハッピーエンドという雰囲気だったが、俺は物語の途中で爆死したおばさんの死がずっと忘れられなかったのである。「いや、なんか上手くまとまった風に終わらせてるけど、家族が悲惨に死んだばっかりじゃん」という。

 

 同じようなことを言っているやつをあまり見た覚えがないが、とにかく俺はそういう映画の見方をしてしまうのである。

 その点で言うと、『OLD』は登場人物たちにとってものすごい速度で時間が経過しているので、悲劇の重さが次第に失われても、違和感がまったくない。

 つらいことがあってからも人生は長く続くので(実際は十数時間だけど)、むしろ、悲しいことはやわらいでいく方がいいのだ。

 これは物語で起きた悲劇を自然にバランスするには実にうまい方法である。というか、こういう演出しか正解はないのではないか、という気さえする。

 「サスペンスのある部分を終わらせた」というのはそういう意味で書いた。もちろん、こんな細かいところで騒ぐ人間はあまりいないので、そこに感動するのはお前ぐらいだろ、という話ではある。

 

 ここから、もう少しネタバレ。

 砂浜での滞在が二日目になり、出てくるキャラクターもかなり限られてくる。

 登場人物が砂の城をつくる前後のシーン、ここが作品のハイライトだった気がする(その少し前の夜も良かったけど)。

 何歳になっても、人の心の中には遊ぶ子どもの精神が残っているということと、何歳になろうと、何かに挑戦するのに遅すぎることはない、そういうことが表れていた場面だと思う。

 冷静に考えれば、成長し老いていく身体はともかく、精神年齢まで変化しているのは変である。しかし、数十年間分の変化を、演技の中に表した俳優たちが素晴らしかったのだと思う。

 

 この作品、おそらくは、「閉鎖環境ですごい速さで歳を取っていったらどうなる?」というアイデアが最初にあったのだと思う。科学的検証とか、オチとかは後付けな気がする。でも、結果として美しい、印象に残る作品になっている。

 

 以上、よろしくお願いいたします。