はじめに
評価は次のように行います。
まず、総評。S~Dまでの5段階です。
S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。
A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。
B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。
C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。
D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。
続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。
☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。
◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。
◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。
最後に、あらためて本全体を総評します。
こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。
総評
B。
黒史郎作。2021年刊行。
現在、実話怪談を扱う作家の中で一番、黒史郎が「どうかしている」と思っている。それは、「レベルが高い」に近い意味合いで。あと、「革新的」もあるかも。
もう一つ意味を加えるなら、黒史郎は「怖い」。
作品が、ではない。というか、作品はもちろん怖いのだが、単にそれだけではなく、書いている本人が怖い。
こいつ(黒史郎)はいったい何なんだ、と前作である『異界怪談 生闇』のときに思った。
朱雀門出なども書いている本人の精神を疑わせる。黒史郎もそれに近いが、ベクトルが違う。
どこか冷たい。他の無数の怪談作家のような、作品の行間から読者の反応をうかがうようなところがまったくない。
新しい恐怖を描けたら満足か。見たことのないかたちになったのを見届けたらもういいのか。
読者にどう伝わるかは、もはやどうでもいい。そんな錯覚さえ抱かせる。ここが怖い。
続きはあらためて感想で。
各作品評
「お祭り」…◯
あらためて、総評
一番どうかしている作家は、一番ハードルが上がりきっている作家だ。
内容が悪いかというと、まったく悪くない。
ただ、次のようなことを思った。
一つ目。釈迦に説法だが、全体的に描写一つあたりが長い。そのため、その作品のどこを味わったらいいのかわからないことがある。
体感的に、15%ぐらい余分な気がする。それだけ詰めて書かれていた方が、俺はいい。
もう一つ。扱っているテーマについて。
住んでいる人が必ず亡くなる住宅に家族の厄介者を住まわせるとか、ものがすぐ腐る家とか、恨みを買った相手の生き霊が部屋に浮き出ている(と霊視のできる人に言われる)とか…。
この人も「そういう話」を書くんだな、と感じた。
実話怪談は採話がベースなのだから、「そういう話」が手に入ったら書くだろう。
しかし、黒史郎じゃなくても別にいい。
こういう話を書く作家は他にいる。いくらでもいる。
それと黒史郎は違ったはずだ。
過去作の『暗狩』で描かれた、泥の中から出てきたものや(『川の底から』)、怪談でありながら怪奇自体をおちょくるようなもの『右側だけ』、あるいは『生闇』で登場した、理解が及ばない異界のルール(『順番待ち』。
こんな話は他の作家からまず現れない。異才なのだ。
黒史郎は別の角度から、誰も知らなかった未知の恐怖に新しい光を当てる。もしくは、よくある姿の恐怖を黒く塗り潰し、新しいかたちを見せてくれる。
今回はその点で俺の要望に達しないところがあった。言い切ってしまえば、前作に比べれば質が低い。
しかし、『闇憑』を読んでなぜか少し安心した。
『暗狩』『生闇』という作品のあとに、もっと好ましいものが出てくるのも、なんだか恐ろしかった。
刊行がかなり早回しで、年に一回より早いところにも、安心の理由があるかもしれない。これだけ早くてもっとすごいものが出てきたら、理解の範疇を超えているからだ。
好き放題批判してすいません。
頼まれてもいない批判は、料理の周りを汚い蠅が飛び回っているということだ。
蠅のような人間でも、異様な早さで傑作を出されれば、理解が及ばなくて怖くなる。そういう作家がいたら怖い。オバケよりも怖い。犯罪者よりも怖い。