『怪談四十九夜 病蛍』の感想について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミです。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 実話怪談というジャンルほどネタバレがもったいないものはないので、レビューの途中でも内容が気になった方は、そこでぜひ読むのを止めて、本自体に触れてもらえれば、と思います。

 

 よければ、こちらもどうぞ。

sanjou.hatenablog.jp

 

総評

 A

 大谷雪菜/朱雀門出/古川創一郎/鈴木捧/旭堂南湖/鷲羽大介/りっきぃ/我妻俊樹/小田イ輔/黒木あるじ作。2022年刊行。

  

 複数名の作家が持ち寄った作品を黒木あるじが編む、『四十九夜』シリーズ最新作。前作に引き続き、今回も平均的に質の高い怪談が並んでいる。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 ブタ万円…◯
 イヌグモ…◎
 私の絵…◯
 勝ち負けで考えるドッペルゲンガー…◯
 

あらためて、総評

大谷雪菜

 初見。よかった。

 全般的に不穏で、余計なケレン味がないところがいい。現実が少しだけ傾いだような感じ。かすかにセンチメンタルなんだけど、狙ってそうしているあざとさもない。いそうでいなかった作家という気もする。

 

朱雀門

 好きな作家。今回もよかったと思います。顔についた傷にお化けから万札ねじ込まれるってどういう怪談なんだよ。

 例によって、題名の時点で勝ってる感はある。

 

古川創一郎

 初見。悪くない。ベタだな、とは思うけど、ディテールがしっかりしてるのは強いと思う。

 

鈴木捧

 好きな作家。ひいき目だけど、今回の作家陣の中で一番よかった。

 『イヌグモ』がもっともよかった。怪談としての焦点が、いま話している人物の禍々しさに合っているので、過去の出来事の邪悪さが少しだけ奥に引いているというか、「昔あったことは別として、それを聞かせる相手として、なんで自分が選ばれたんだ?」という感じが良くて、怪談の本質だよな、という気もする。

 本来は、あんまり子どもをどうしたって話好きじゃないんだけど、これはやられた

 

旭堂南湖

 初見。一番合わなかった。

 読んでいて、どういう意図ではさまれてる情報なのか、何かの伏線なのか、読んでて共感したらいいのか、話の雰囲気をふわっと伝えたいのか、その部分いらなくない? という文章が続いて冗長だったと思う。耳で聞くと違うのかもしれない。

 

鷲羽大介

 「四十九夜」シリーズで何回か。怪談そのものはそこまで印象的じゃないけど、話の中に著者として怪談を聞いてる本人、っていう視点が多いのが面白くて、名前を見かけると気になる作家。

 今回は本人がその怪談のオチとして最後に出てくるものが多かったけど、それより、全編でもっと茶々入れたりぼやいたりしてる方が読んでて楽しいと思う(黒木あるじの怪談にもそういう面あるけど、鷲羽大介の場合、怪談作家なのに怪異に引いてるところがあって、そこが気に入ってる)。

 

りっきぃ

 初見。よかった。

 物理的というか、なんか打撃みたいな怪異をがんっと一回ぶつけたあとほっぽって急に終わる、みたいな話が多くて、怖がらせようという意図が変に透けることもなく印象がよかった。

 

我妻俊樹

 好きな作家。よかった。単著はよ。
 『私の絵』が一番気に入った。言霊というか、言葉による呪いの手触りを感じるような話で、別に当の生徒に特別な興味とか、それこそセクシャルな関心があったわけではないだろうに、「自分はもしかしてそうだったのか?」と現実がゆがむ感じがして、わけわからん発言でもタイミングが合うと「呪い」がかかるよなあ、と思う。

 

小田イ輔

 好きな作家。今回は可もなく不可もなく。

 『勝ち負けで考えるドッペルゲンガー』は面白かった。俺は、理屈っぽくてなんか生きづらそうだなーっていうやつが、怪異のせいでその傾向をこじらせたり、翻弄されて混乱する話が好き。

 

黒木あるじ

 合ったり合わなかったり。今回も賛否両論。

 話そのものは、単独で見ればどれもよかった。一方で我妻俊樹っぽいな、とは感じて、これは以下で書く黒木あるじの書き方とは相性が悪いと思う。

 黒木あるじがよく持ってくる方法の一つに、一連の出来事を複数の話に分割して、起承転結をわかりやすくしたり、話者をそれぞれ変えて視点を多角的にしたりするものがある。

 俺はこの書き方が好きでも嫌いでもあって、面白いなー、と思いつつ、作者の意図が透けて実話の良さがないなー、とも思う。

 で、今回のような「怖いというよりよくわからない」話だと、創意工夫のあとが見えるのはかなりマイナスに働くので、話を分割する方法は相性が悪いと思う。どれだけ長くなっても、一話にまとめた方がよかったんじゃないだろうか。

 

 総じて面白くて、みんないい仕事してたと思う。我妻俊樹は早く単著出してください(二回目)。

 
 第50回はこれでおわり。全100回って考えたら折り返しだ。
 次回は、『実話怪談 蜃気楼』を紹介します。書きたくなったので書きます。以上、よろしくお願いいたします。