『血界戦線 Back 2 Back』災蠱競売篇は、なぜつまらないのかについて 1/2

はじめに

 色々と、長々と書くので、最初に要点だけ書いておく。

 

① 話が長すぎる

② 登場人物たちが「いま何をしたいのか」、最後までわからない

③ 血界の眷属(ブラッドブリード)と各キャラクターの力関係がよくわからない

 

 はっきり言うが、こういう理由でつまらない。これをふまえて、続きを書く。

 

① 話が長すぎる

 基本的にはこれだ。災蠱競売篇は2019年上旬に始まって2022年上旬に完結してるので、3年かかったことになる。

 これは、3年間って長いよな、というのとは少し違う。3年の間、延々とキャラクターが何をやっているかよくわからなかった上、結局のところ最後までよくわからなかったので、それが長い、ということだ。

 そういうわけで、以下の②・③につながる。

 

② 登場人物たちが「いま何をしたいのか」、最後までわからない

 災蠱競売篇ではいくつかの勢力が入り乱れて物語が展開する。

 ・クラウスやレオたちの「ライブラ」。

 ・人命と引き換えに強力な兵士を製造する道具(「カロプス人蠱」)を出品したオークション機関の「ズールディーズ」と、人蠱を落札したリチャード・インセイン・フー、フーを警護する吸血鬼である「タイクーン・ブラザーズ」

 ・以前登場した怪人であるキュリアス率いる異能者集団「グリーディナッツ」

 ・アメリカ合衆国大統領直属部隊「Ex-G.I.」

 ・その他(警察、堕落王フェムト、次元怪盗ヴェネランダ)

 

 ライブラ、グリーディナッツ、Ex-G.I.は人蠱を回収したい。

 ズールディーズたちはフーと人蠱の「契約」を完了させたい(たぶん。ちゃんと説明されていない気がする)

 

 なんだ、単純じゃないか、と思うが、実際はそうではない。それは、最終的な目的は一つでも、それを達成するためのルートはいくつかあるためだ。

 

 まず、ズールディーズ側だが、彼らの目的はフーと人蠱の契約完了にある。

 ライブラ等の敵対勢力からの攻撃を防ぐ、いわば防御側と言える。ただし、後半になって契約を完了させるのに必要な材料となる人蠱の中身が逃げてしまい、一緒に逃亡しているレオを捕まえることが目的に加わるため、攻撃的な面も増える。

 あくまで契約の完了までの準備が整えばいいので、別にライブラやグリーディナッツを全滅させなくてもいい。タイクーン・ブラザーズがきわめて強力なので、相手を全滅させようと思えば可能かもしれないが、兵力は実質この二人だけなのが問題だ。

 どういうことかというと、攻撃に転じると守るべきフーが無防備になってしまうのだ。「あれ? 人蠱が兵士を増産する道具なら、それで戦力を増やせばいいんじゃないの?」…そう思った人は、俺と同じ疑問を持っていて、これは最後に書く。

 いずれにしても、ズールディーズ側としては敵対陣営を全滅させてもいいし、実力差を思い知らせて追い払うだけでもいいのだが、どちらが目的なのかは、ずっとわからない。

 

 一方、ライブラやグリーディナッツといった「攻め側」の目的は人蠱の回収だ。これも達成する方法はいくつかあると思われる。

 例えば、タイクーン・ブラザーズを引き付けて攻撃をさばきながら、同じ陣営の誰かがフーを取り押さえてしまってもいい。ただ、一番単純なやり方がある。

 それは、タイクーン・ブラザーズを倒してしまうことだ。この二人を完全に無力化できれば、フーを守る者がいなくなるので、勝ちが確定する。

 「え、そんなことできるの?」と思う人もいるだろう。なにしろ、災蠱競売篇の全篇を通じて、この二人がどれだけ強いかがずっと描かれているからだ。

 答えを言うと、倒せることは倒せる(実際に、倒して決着したので)。倒せそうなキャラクターも攻め側に何人かいる。

 では、攻め側の目的はタイクーン・ブラザーズを倒すことなのか。これが、よくわからない。災蠱競売篇を通じて、攻め側の目的が何なのか、明確に説明される場面はほとんどない。

 攻め側は、タイクーン・ブラザーズを出し抜いてフーを確保したいのか、正面衝突でタイクーン・ブラザーズを倒したいのか、誰が何をしたいのかまったくわからない。誰も、自分たちがいま何をしたいのか言ってくれないからだ。

 

 「攻め側」の目的を描写しなくても、彼らの目的がはっきりとわかる(読者に伝わる)方法が、あることはある。何かというと、血界の眷属と他のキャラクターとの力関係を明確にすることだ。

 例えば、明らかに弱いキャラクターがタイクーン・ブラザーズと戦っていれば、勝つ気のない時間稼ぎや陽動のために戦闘していることがわかる。反対に、倒せるキャラクターなら勝つ気でやっている、ということになる。

 しかし、災蠱競売篇で、そのあたりのパワーバランスは明らかではない。というか、『血界戦線』という漫画は最初からずっと、そこをあまり明らかにしていない。これが批判の③につながっていく(2/2に続く)。