『血界戦線 Back 2 Back』災蠱競売篇は、なぜつまらないのかについて 2/2

ここまでの話

sanjou.hatenablog.jp 長すぎる。

 

② 登場人物たちが「いま何をしたいのか」、最後までわからない(続き)

 災蠱競売篇は、人命を犠牲することで強力な兵士を製造できる道具であるカロプス人蠱をめぐって攻防が起きる。

 攻め側であるライブラやグリーディナッツが勝利するためには、次のいずれかをクリアする必要がある。

 1.カロプス人蠱と契約したリチャード・インセイン・フーを確保する

 2.フーを警護しているタイクーン・ブラザーズを倒すか(倒せれば、だが)

 

 反対に、防御側であるフーたちズールディーズ側にも、選択肢がいくつかある。タイクーン・ブラザーズはめちゃくちゃ強いので、ライブラたちに実力差を思い知らせてあきらめさせてもいいし、徹底的に攻撃して全滅させてもいい。

 どちらの陣営にも、選択肢はある。ただ、「俺たちはいま、これを目指しているんだよな」と誰も言わないので、みんな何をしたいのかよくわからない。

 

 ところで、「攻め側」には勝利するための手段がもう一つあるようだ。それは、物語の後半にレオと一緒に逃げ出した、カロプス人蠱の中身を消滅させることだ。

 スティーブンが「中身」の命を奪おうとしたのは、そうすることでフーと人蠱の契約完了を阻害できると判断したからだろう。なぜ、スティーブンがそう考えたのか、単にやってみる価値があると思っただけなのかは、わからない。

 実際、スティーブンの読みは当たっていたらしく、フーは「中身」を取り戻すことにこだわる。大富豪のフーなら、逃げ出した中身と同じだけの人命を用意することはできるはずだが。

 というか極端な話、人蠱の中身をすべて白紙にして、新たに100人分の命を調達することもできそうだ。それにもかかわらず、そうしないということは、やはり、逃げ出した「中身」以外では契約を完了できないのだろう。

 

 整理すると、以下のような仮説が立つと思う。

 1. 人蠱で一度兵士の生成を始めると、その材料にした中身以外では生成を完了できない。

 2. そして、一度生成が始まると、リセットできない。

 3. だから、生成中の中身がなんらかの理由で抜け出してしまうと、中身を回収するまで、人蠱はずっと使用できなくなる。

 

 これは俺の推測だ。ただ、こう考えれば、フーが逃げ出した中身にこだわる理由はわかる。

 また、「人蠱が多数の命を代償にして強力な兵士を生み出す道具なら、フーは私兵をどんどん犠牲にして、タイクーン・ブラザーズ以外の兵力を増やせばよかったのでは? 」と思っていたが、この仮説ならそうしなかった理由も説明できる。

 でも、こういうルールは作中で書かれていない(はずな)ので、読む側がそうやって補完することに面倒くささを感じる。そして、次に書く批判が、災蠱競売篇の状況をさらにわかりにくくしている。

③ 血界の眷属(ブラッドブリード)と各キャラクターの力関係がよくわからない

 作中で、血界の眷属はきわめて強力な存在と説明されている。これに勝てるとはっきり言えるのは、いまのところ次の二つだけだと思う。

 1. クラウス(レオの能力によって相手の本当の名前を把握している場合。「拳客のエデン」でオズマルドには負けていたので、単独だと厳しい?)

 2. 裸獣汁外衛賤厳(ザップとツェッドの師匠。単独でも血界の眷属に勝てる)

 

 これ以外のキャラクターは、対血界の眷属戦において、できても時間稼ぎだけ…と言えないのがややこしい。

 例えば、師匠の支援によって一時的にパワーアップしたザップとツェッドは、タイクーン・ブラザーズ戦において勝つ気で戦っているように見える。怪人キュリアスやその仲間たちも、おそらくは勝つ気で戦っている。

 つまり、血界の眷属は強力だが、クラウスや師匠以外は勝てないというわけではなく、他のキャラクターにも倒せる可能性があるということだ。タイクーン・ブラザーズが特別に強かったので勝てなかったわけだが。

 

 前回の記事で、「作中の力関係が明確なら、それぞれの目的をいちいち明示しなくてもいい」と書いた。

 つまり、どう頑張っても血界の眷属に勝てないキャラが戦っていれば、その目的は時間稼ぎや陽動になるし、勝てそうなキャラなら倒すつもりで戦っているだろうから、読者にも戦闘の理由がわかりやすいということだ。

 しかし、実際はこのようにパワーバランスが曖昧なので、結局、みんながいま何をしたいのかよくわからない。勝つ気で戦っているのか、他の狙いがあるのか(もしくは、最初は勝つつもりだったけど、無理そうだから他の考えに変わったのか)。

 しかも、災蠱競売篇はこれまでも書いてきたとおり、必ずしも相手を倒さなくてもいい作戦なのだ。タイクーン・ブラザーズを倒さなくても、フーと人蠱さえ押さえてしまえば、それでもいい。

 こうなると、読んでいてかなり苦しい。「結局、みんないま、何がしたいの?」というのがずっとわからない。

じゃあ、このままでは悪いのか

 いまさらだが、以下はネタバレになる。

 

 

 

 

 災蠱競売篇を通じてタイクーン・ブラザーズという敵をあそこまで強力に描いておいて、コピーした敵の能力で自爆して負けることに、納得のいかない読者もいると思う(一応、師匠が伏線を張ってはいる)。

 人蠱と契約したフーが、大義も何もない単なる非道な金持ちだったのもがっかりだった。人蠱を使って何がしたかったのかぐらい、描いてもいいのに。

 

 最後は、自滅したタイクーン・ブラザーズの血液が人蠱にかかったため、人蠱が暴走し(?)、フーを取り込んでしまう。この場面の解釈も推測であり、誰も何が起きたのか説明してくれないので、「まあ、そういうものだったんだろう」と思うが、3年の間、読者の側が色々わからないとところを補完しながら、こういうオチになった背景まで想像するしかないのか、というのは釈然としない。

 

 じゃあ、『血界戦線』はもっとわかりやすい漫画になった方がいいのか?

 これはけっこう難しい。俺はこれまで『血界戦線』を読んできて、そもそも、「わかりにくい」と思ったことがないからだ。災蠱競売篇ではじめて、そう思ったのだ。

 これまでずっと、わかりやすいし、面白かった。単純に、短いストーリーが多かったのがその理由だと思う。

 災蠱競売篇はかつてない長編だった。そのために、血界の血族とのパワーバランスの曖昧さとか、色々と説明が足りない部分が目立ってきたのだと思う。

 今後、通常営業として(?)短編中心に戻るのであれば、おそらくスタイルを変えなくてもいい。というか、変えない方がいいのかもしれない。

 『血界戦線』は言葉による説明よりも画面の力、必殺技の迫力が持つ説得力でまとめる漫画だと思うからだ。短い話なら、読者は背景を自分で補完しながら、喜んでついていく。

 

 ただ、3rdシーズン(Beat 3 Peat)もおそらく、最後は長編になるのだろうから、そのときもまた、こういう展開になるとしたら、正直嫌だな、と思う。別に長編にしなくてもいいけど、たぶん長編だろうし、そのときの敵はタイクーン・ブラザーズよりも強力になるんだろう。

 それなら、よっぽど話を単純にした方がいいと思うけど、たぶん無理だろう。何しろ、キャラクターが大勢いて、しかもみんな魅力的なので、どうしても同時多発的に各地でイベントが起きる構成になってしまう。

 しょうがない。長々書いたが、ここで終わる。次回は、「わかりにくいんだけど」がとにかくないようにして欲しい、と思っている。