はじめに
幕末の混沌を残しつつも、その残響は確実に消えていく明治初期が舞台となる、滅びゆく剣客たちの点取道中デスゲーム第二巻(前巻の感想はこちら)。
前巻に引き続き、めちゃくちゃ面白かった。
対決に次ぐ対決。一対一、一対多、多対多。
斬撃、銃声、血しぶき。
剣技と忍術、正統と邪道が入り混じり、すべての勝負が面白い。
直接の殺し合いだけではなく、道中で集まる点数をめぐる駆け引きもあり、それゆえに、打算抜きの覚悟や人情がさらにまぶしい。
デスゲームの盤外も緊張感を増し、参加者以外の強者も参戦、因縁も錯綜し、なかなか一本道では終わらない。
また、江戸〜明治特有や空気感や当時の風俗に関する描写も前巻以上に丁寧に書かれており、没入感がハンパない。最高の第二巻だった。
以下、特によかったところを書く。ネタバレ注意。
仏生寺弥助登場
前巻『天』で衝撃の展開で引きになった『イクサガミ』は、なんだかわからんやつのエピソードから再開する。
なんだかわからんのに面白いのは、これが「時代劇×ちょっとした異能」という、あんまり見かけないけど一緒に食べたらマジで美味しいですよ、という組み合わせだからで、俺は「(無理のない範囲で)いいぞ、もっとやれ」と思う。
さて、この仏生寺弥助のエピソード、「こんなやべーやつもゲームに参加してますよ」という導入なのかと思ったら、読み進めても、本編になんの関係があるのかよくわからない。
そして、なんと最後までなんだかわからないのである。まあ、結局つながりはよくわかんないけど、面白いからヨシ! とは思う。
義兄弟チーム 対 岡部幻刀斎
『イクサガミ』は点数を奪いあう勝負であると同時に、主人公の剣客・嵯峨愁二郎と義兄弟たちが秘奥義の継承をめぐって殺し合う勝負でもあり、実はデスゲームの入れ子構造になっている。
かつて、仲の良かった兄弟同士の殺し合いを嫌って修行から脱走した愁二郎は、混乱を生んだとして、他の兄弟たちにかえって憎まれてしまっている。また、愁二郎がもたらしたものは他にもあり、それが、脱走者が出た場合に兄弟全員を始末するべく発動するキラー、謎の剣士・岡部幻刀斎である。
前巻の時点で、ゲームの参加者の中に別格に強いヤバ爺がいて猛威を振るっていたが、今巻でこのジイさんこそ幻刀斎であることが確定する。『地』では兄弟たちと幻刀斎がついに接敵する。
義兄弟チーム 対 幻刀斎の対決は熱い展開の欲張りセットのようなもので、とてもよかった。
・過去の脱走をめぐって遺恨のある兄弟の次男・愁二郎と四男・化野四蔵が、超強敵の幻刀斎を倒すために一時共闘。
・…からの、ジジイ強すぎて兄弟二人相手に優勢。
・ジジイ、ターゲットを別の兄弟に移す。今度は森の中で、忍術を得意とする三男・三助と幻刀斎が激突。そして…。
とにかく、敵も味方もみんな素晴らしかった。
真・双葉無双
『イクサガミ』の特徴として、デスゲームものに珍しく、有力なプレイヤーのほとんどが話の通じるヤツだったり善人であることが挙げられる。
だからこそ、幻刀斎や貫地谷無骨のような悪党の魅力も際立つのだが、とにかく、点数さえもらえれば相手を殺すまではしないとか、恩のあるプレイヤーとは点数を分け合うとか、けっこう「義」が目立つ場面が多い。
そうなると独自の強さを発揮するのが主人公の保護する子ども・香月双葉で、無邪気で異様に高い善性を備えているため、これが強さと人情を兼ね備えるライバル、さらにはドライな合理性のみを是とするはずの運営サイドの一部まで魅了し、デスゲームに大きな波乱を起こしている。
『地』における双葉の最大の見せ場は、中盤にて、明らかに不合理な選択で別のプレイヤーを救う場面だと思う。そして、このプレイヤーによって愁二郎は終盤の危機を脱するため、双葉がいなければ愁二郎は退場していたかもしれない。
黒札
殺し合いを加速させるために運営が仕かけたギミックであり、一枚で大量の得点が得られるメリットと、所持者の居場所が他のプレイヤーに通知されるという強烈なデメリットを持つ。
『地』でこの黒札を入手した(してしまった)のは誰かいうと…こう来たか、という感じ。
なお、黒札が手渡された瞬間の運営側とプレイヤーとのやり取りも見どころ。開催者からの「なんか違和感はあるけど、いまいち意図がわからないメッセージ」に対して、頭脳派二人が即座に反応して警戒モードに入るところがいい。
ちなみに、もう少し先のチェックポイントまで進むと黒札の点数を配分できるらしい。そこからの展開も注目。
橡
『カイジ』の「優しいおじさん」といい、匿名のユニフォーム集団の誰かが一瞬個性を出す展開はいいものだ。
奥義
剣技というより、身体能力にバフをかけるタイプの技術。愁二郎たちは一人に一つ与えられたそれぞれの奥義を兄弟同士で奪いあい、最後の一人が総取りすることになっていた。
愁二郎は、自分たち兄弟は、実はどの奥義もすでに使える状態なのではないか、と推測している。本当は修得済みであり、あとは継承の手続で暗示のロックを外すだけ、というのはけっこうすごい発想だと思う。
今巻でも奥義の継承は発生したが、その描写を見ると、必ずしも一方通行ではなく、互いの奥義を交換もできるのでは、という気がする。もしかすると、いま生き残っている兄弟同士で協力して、全員を一時的に奥義全部持ちにすることもできるのでは?
生き残り予想
現時点で生き残っている有力なプレイヤーは以下のとおり。
・嵯峨愁二郎(主人公)
・香月双葉(主人公その2)
・柘植響陣(関西弁の相棒、と書くと、某ガンアクション漫画のファンとしては「じゃあ、死にますね…」と思ってしまう)
・狭山進次郎(こういうキャラクターの見せ方に作家の技量が出る気がする)
・化野四蔵(兄弟四男。個人的にはかなり太い死亡フラグ…だと思っていたのだが)
・蹴上甚六(兄弟六男)
・衣笠彩八(兄弟長女)
・カムイコチャ(弓使い)
・秋津楓(薙刀使い)
・ギルバート・カペル・コールマン(イギリス軍人。短いけど泣けるエピソードの持ち主)
・貫地谷無骨(悪役その1。フットワーク◎。しゃべりが立ち、やるときはやるヤツであり、窮地には奥の手を見せるという、善悪反転したら普通に主人公みたいな人)
・岡部幻刀斎(悪役その2。強ジジイ好きという一部オタクの嗜好をくすぐるジジイ)
この12人の中から9人が生き残る…ということなのだが、
あれ?
もう、『イクサガミ 世界編(全10巻)』しかないのでは?
※ ここから超ネタバレです。未読の方はバック推奨
『イクサガミ 天・地』まで来て、「…おお、こいつが脱落するか」というキャラクターは二人、『天』の菊臣右京と、『地』の祇園三助である。
ところが、強力なプレイヤーはまだまだいるし、『地』では秋津楓とギルバートも登場した。つまり、残り1巻なのに、キャラクターはそこまで減っていない…というか、増えてしまっているくらいである。
ゲームから生還できるのは最大9人と決められているため、上記の12人から少なくとも3人が脱落するわけだが、最終巻となる『イクサガミ 人(仮称)』がどれだけボリュームがあろうと、3人の退場を描くだけの余裕があるのだろうか?
本当にあと一冊で収まるのか、という勝手な心配をいったん脇に置いて、生還者を予想してみたいのだが、『地』の最後で波乱が起きたため、かなり難しくなった。兄弟一番の実力者である四蔵が(たぶん)生還を決めてしまったのである。
これがなんで波乱かというと、兄弟の中で最も強い人物という位置づけは、オタク目線でメタ的に見れば強力な死亡フラグだからである。四蔵を除いて退場者を予想してください、というのはかなり悩ましいのである。
で、個人的には ① 兄弟の誰かで甚六か彩八のどちらか ② 響陣 ③ 幻刀斎かなあ…と思っている。
無骨と幻刀斎の悪役二人と誰か、という組み合わせも考えたが、無骨はなんとなく生きてゴールに着くのではないか、という気もする。
ただ、それは物語の最後まで無骨が生存するという意味ではなく、「9人ゴールしたあとのその先」というきわめて不穏な展開が示唆されているからである。無骨に罰が下るとしたら、そのときでは、と思う。
というか、そうなんである。『イクサガミ 人(仮称)』で描く必要があるのは12人⇒9人の戦いだけではないのだ。
そこから先のエクストラステージの全貌も明らかにした上でそれも決着させ、デスゲームと並行して起きている警視局クーデターにも終止符を打たなくてはならない。さらに、仏生寺弥助の遺した忌み子・天明刀弥(?)にいたっては本編に登場してさえいないため、このストーリーも回収しなくてはいけない。
これが、あと一冊で終わるだろうか?
俺は無理だと思う。公式が三部作と言おうが、もう一冊では終わらんと思う。
そして、終わらなくても別に構わない。あと二冊でも三冊でも、『イクサガミ 甲乙丙』でも世界編でもやってくれたらいい。
とにかく、そのくらい面白いんだから構わない。作者のtwitterによれば、今年中には『人(仮称)』が出るそうだ。楽しみにしている。