続き。
では、作品はこのループから抜け出るべきだろうか?
どうだろう。別にそのままでもいいような気もする。
ストーリーが続けば、いつかアシトはプロになり、日本代表になって、やがて海外リーグに挑戦するのだろう。
そのたびに、「プロとしてやっていく心構え」や「日本国の代表選手としての特別な覚悟」、「海外選手たちとのコミュニケーション」をテーマに壁にぶつかり、やがて克服する。合間合間に、栗林やユースの先輩・同期たちの物語をさしはさむ。
おそらく『アオアシ』はそれで全然成立するし、ものすごく面白いだろう。
だから、「同じことばっかりやられてもなあ」とはならない。正直、それが読みたい読者としての俺もいるのだ。
ただ、どこかで大きな破綻を見たい、というのも感じている。
それが何か、具体的には言えないが、このままではアシトの人生の「得点」が増えているだけというか、実力も人徳も、周囲との相互理解も、あらゆることがプラスに増加しているだけなので、何か致命的に、挽回できない失点を抱えるところを見たい、と思う。
『アオアシ』の油断ならないところは、ここまで俺は散々、「同じことの繰り返しで順風満帆だぞ」と書いていながら、かすかに不穏なものが存在することはする点だ。
かつて規格外の天才プレイヤーでありながら夢を途中で立たれた福田の存在。高い実力を持ちながら、周囲と自分を冷静に比較しプロを諦めた先輩である中村平。そして、28巻で登場し、海外に挑戦できる器でありながらそれを見送って40歳を迎えたベテランの司馬。
「(工夫をすれば)どうにかなる」を何度も描き続けながら、一方で「どうにもならない」ものの影はある。その影は、これまでアシトの周囲に射しているだけだったが、いつかアシト自身にもやってくるのだろうか? それを見たいな、とも思っている。
ところで、同じことを繰り返すことと、テーマが一貫していることは似て非なるものだ。
『アオアシ』で当初からずっと言われていることの一つとして「逆算」という概念があって、ゴールという最終目的や、そのために陣取るべきポジションにいるために、何度も「目標から逆算する」ことの重要性が説かれる。
28巻でもそれは描かれている。一つ目は、先輩である司馬が出す、無茶にしか見えない位置へのパスにたどり着くため。
これまでと違うのは、そこにたどり着くまでの思考はすっ飛ばしてとにかくそこに着くことだけに集中しろ、という点で、これは何気に、思考と論理を重視する『アオアシ』における事件だと思う。
二つ目は、天才・栗林が口にした「2年後に自分は海外にいると決めているので、あとは出来事がそこについてくるだけ」という言葉。
栗林が言うと大言壮語でもない気がしてくるが、その本質はたぶん、「目的を小さくすると、心理的な障害を過剰に大きく評価してしまうので、目標は高く置いた方がいい(場合もある)」ということではないかと思った。
というわけで、色々書いた。抜群に面白い漫画だし、どの方向に進んでもたぶん面白いだろうと思っているが、まあ、そういうことである。