小説

ポジティブな虚無に立ち向かう大傑作。『トロフィーワイフ』の感想について

はじめに 新年あけましておめでとうございます。 本年一発目、まったく年明けと関係のない記事で恐縮なんですが、舞城王太郎の『トロフィーワイフ』の感想をまとめます。 『トロフィーワイフ』、すげーよかったです。帰省中の列車の中で前のめりで読み込んで…

異界とはどこにあるもののことか。『全滅領域(サザーン・リーチ1)』の感想について

はじめに 最初にことわっておかないといけないことがあって、実はこの記事、作品を強くおすすめする記事ではないのである。 もちろん面白い本ではあって、良かった点もちゃんと紹介する。 しかし、一方で、最後までぬぐえない違和感もあって、興味を持ってい…

貴志祐介作『ダークゾーン』の感想と、デスゲームを面白く描くことの難しさについて

はじめに。『ダークゾーン』の感想。 なかなか良かったのではないでしょうか。 と言っても、前半が最高に面白くて、途中相当中だるみして、最後盛り返す、というアップダウンがあったので、「平均すると」なかなか良かった、という感想が正確なところです。 …

『海流のなかの島々』の感想、もしくは自分に「殺される」ことについて

人生で自分のことしか考えてこなかった。 いまも自分のことしか考えていない。 さすがにそれを表に出してはいないけれど、俺のそういう自意識が放っている、一種悪臭のようなものに、周りの人は気がつくものなのだろうか。 少なくとも、家族や親しい友人や勘…

こま切れになったわたしたち、あるいは申し訳程度の『暗闇の中で子供』の感想

希望がない。 というとなんだか沈鬱な感じがするけど、それほど深刻な話じゃない。 自分はこうなりたいな。 周囲がこうだったらいいのにな。 そういう望みがあまりないという話だ。 人間の希望。俺が希望に対して抱くイメージは、希望を持つその人たち自身の…

『淵の王』の感想の続き、もしくは俺らが今いるべき場所について

小さな白い光が闇の渦の中に一本すうっと光線を伸ばしている。 私たちはその光の道を進まなくてはならない。 舞城王太郎の『淵の王』について、前の記事で紹介した。 俺と『淵の王』について - 惨状と説教sanjou.hatenablog.jp 今回は、前回触れなかった『淵…

『淵の王』の感想について

「……それが普通だよね」 「それが普通だよ」 「結婚前なら、まだ耐えられるかな?」 「……私はね、あんたに私のこと好きになって欲しいんだよ。私だけのことを。それも中村悟堂だけにね」 夢中で読んだ。職場最寄駅構内にある啓文堂で買って、電車の中で読ん…