写真について

特別お題「わたしがブログを書く理由

 

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 その日、その瞬間が来る前から「やるなよ」と前フリではなくクギを刺されていたことがある。危険というだけでなく、迷惑だからである。

 それでもまあ、やるやつはいるだろうから制止するための人員が現場に待機していたんだけども、配置するにあたって当然時間と経費がかかっていることは考えなくていけない。

 で、いざやるやつが現れれば、「ああ、よかった。配置しておいて無駄にならずに済んだ」というものでもないのだ。単に誰もやらなければ、その方がいいに決まっている。

 

 それで、まあ案の定というか禁止されていることをやるやつが出てきて、そうしたら今度はその瞬間を写真に撮ったものがあって、それが印象的だというのですごく評判になって…もうあんまり書きたくないけども、「納得いかねえな」と思って一人でムカついている。

 

 だって、ダメって前から言われてたじゃん。

 普通に、人に迷惑がかかってるじゃん。

 そこにも、誰かのお金が使われてるじゃん。

 ダメだろ、それ。

 

 で、どれだけインプレッシブな写真として仕上がっていようが、そして、そこにその瞬間の記録がどうとか空気感がどうとか、どんな理屈をつけようと、それが世に出回ったら、今度また同じような状況になったときに、同じようなやつを出す方向に拍車がかかるに決まっている。

 じゃあ、公開も拡散も、しない方がいいだろ。今。この時点で。

 それで将来、またそのときに、「言ってもどうせ守られねえだろうな」「警備しててもやるやつはいるだろうな」「だって、言ってもあいつらはやるし、面白ければ外野もOKなんだしな」って体制側の無力感の中で、次も同じことが起こって、そのときは誰かが死んだり病気になったりするかもしれないし、ならなかったらならなかったで、「やってはいけないことだけど、その場の感動と熱気をとらえた印象的な瞬間」と再びみんな言うのだろうか?

 そういう状況を、クソ、というのだ。

 

 俺みたいな人間を俗に「ノリが悪い」という。

 何がノリだこの野郎。知ったことじゃねえんだ。

 そう言い返してやるのは、「やっちゃいけないけど楽しいよな/便利だよな/一体感があるよな。だから、やっちゃったらやっちゃったで仕方ないし、そこで生まれたものをアレコレ言うのは野暮だよな」という声に対して「関係あるかボケ、やっちゃいけねえもんは、やっちゃダメで、仕方ないことなんて1mmもないし、そこで生まれたものも評価しちゃダメなんだ」と半ギレしつつ冷静に応えることが、人間を進歩させたと信じているからである(本当にちゃんと進歩しているとして)。

 ノリが悪かろうが、間違っているものは間違っているし、不快なものは不快だと言わなくてはならない。

 もし、それができていなかったら、人間はいまだに祭りで猫を焼いて、女性や外国人をいまよりも差別し、自分と同じ立場であるはずの誰かでさえ、いまよりももっと激しく阻害しようとしていると思っている。

 

 やっちゃいけないことを「やっちゃいかんのだ」と怒る大切さと一緒に、それが自己満足と暴走に揺らいでいく容易さを知っているつもりでいるから、この辺で距離を取っておく。

 取っておきたい。

 だって、怒るのは楽しい。

 いずれにしても、俺はやってはいけないことをした人より、それを面白がっている周囲の方が嫌いである。だから、写真に写っている人よりも、あの写真そのものが大嫌いである。

 

 そういうムカつきが、このところ鬱積しているのか、何の関係もなく根本的に俺がぼんやりした人間なのか、近所の海にいって呆然とひたすら波を見ている。

 この浜は地形の関係で、西に突き出た岬が水平線よりも先に太陽を迎える。それで太陽は岬の陰に姿を消すのだけど、海に沈んではいないから残光を放っていて、それが夕闇が来る前に不思議な藍色をつくる。

 キレイだな、と思って見ていて、「あ」と思う。鑿を一つ打ったような白い三日月が、藍色の空にかかっている。

 月、すげえな。と思う。その下は薄墨から朱色のグラデーションになっている。そして、波打ち際はいきなりねっとりと暗い。遊んでいた誰かがじゃれ合いながら海から出てくるところだ。

 誰が何と言おうが、この写真の方がいい。

 やっちゃいけないことをやったその瞬間がどれだけ美しかろうと、俺の写真の方がずっといい。

 ざまあみろ、と言い放つのは俺の性格の悪さゆえで、要は俺は、「お前ら全員間違ってるぞ」と言うためにブログを書いている。

 俺も間違ってるかもしれないが、お前らの方が間違ってるぞ、と言うために書いている。

 そして、反論が返ってくる前に俺は耳を閉じて、もう一度写真の美しさに戻る。

 だって本当にいい写真じゃないか?