ポケモンGOを通して思った「オタクを嫌うオタク」について

 ポケモンGO界隈で様々な情報に接しながら、ある感情を抱くことが多くなった。同属嫌悪である。そのことについて書く。

 

 俺はオタクなので、その憎悪が向かう先は同じオタクということになる。

 最近ポケモンGO関連で「オタクうぜえよ」と思う機会が二度ほどあった。

 1回目はtwitterで「ポケモンGOやって人に迷惑かける人はやってなくても普段から迷惑かけてる」というツイートがRTされてるのを見たときである。

 いやあ、それはどうなんですか。どうだろう?

 

 俺は違うと思う。何かがある人のそれまで顕在化していなかった面を触発、増長させる事例はたくさんある。あれさえなければああならなかった物と人の組み合わせ、良いものでも悪いものでも色々あるはずだ。

 ただ、発言が全面的に間違ってるとは思わない。じゃあ俺をムカつかせたのはなんだったのか?

 俺をムカつかせたのは、この意見とはまったく別に、他のポケモンGOユーザーがいかにも我が意を得たりという感じでわやわや沸いてきてわっしょいわっしょいRTしてるその状況だった。お前ら非ユーザーに対する反論を用意するのと、同じユーザーだけど気にいらないやつを自分と差別化することに必死すぎんだよ、おとなしくひとくくりにされて批判されとけ、という感じだったのだ。

 

 2回目は、やくみつるポケモンGOユーザーを心の底から侮蔑するという発言をしたときである。

 案の定、「人の趣味をとやかく言うな」とか「ゲームから学べることもたくさんある」とか、やくみつるはボロクソ言われフクロにされていた。

 

 ま、そういう考え方もあるわな、とやくみつるに対して思っていた俺をイラつかせたのは、このときも反論する側の必死さだった。

 「それ」しか持っていない者が唯一の所有物であるそれをコケにされたとき、彼らは怒りながらも喜び混じりで反論を振りかざす。いざ批判されたときのため、かねてからうす暗いところでひっそりと研いでいた反撃の刃を。

 俺にはその必死さが不快だった。

 お前ら本当にそれしかないんだな、と思う。他の何かを探そうとはせず、批判にはどこまでも不寛容で、身内の中で攻撃の材料を交換し育て合いながら、敵が罠にかかるのを待ってるんだな、と思う。ムカムカする。

 

 …うーん、でも、俺はなんでこんなに彼らに気持ちを逆なでされるんだろう?

 

 同属嫌悪は、自身の嫌な部分について、それを同じように持っている別の人間から見せつけられたときの不快感を憎しみに転化することで生まれるらしい。たぶんそのとおりだと思う。

 

 俺が見つめて嫌うべきなのは、本当は俺自身なんだろう。

 他者に不寛容なのも、同属内での差別化に執心しているのも、前述した内容を読み返すと、本当は俺自身であることがよくわかる。

 俺はたぶん、俺の方こそゲームとマンガしかない、そんな自分の生活が嫌なのだろうな。

 だから「たかがゲーム」でカッカくる他のオタクを見ると、自分の最悪の姿を見せられているようで、やめてくれ、となるのかもしれない。そして、それに毒づくほど自分がそこから距離をとれるようで安心するのかもしれない。

 ポケモンGOは、まったくはからずもそんなことを気づかされる機会になった。

 

 で、その後どうすればいいかはいま考えている。

 オタクが趣味の問題なら、いまから人生パリピに舵を切っていち抜けてしまえばいい。

 でも、中身ではなく生き方の問題だったら? そしたら俺が浜辺でビール片手にEDMで日没まで踊ろうが俺の心は憎悪の虜のままだ。

 うーん、とか勝手に悩みながら、ポッポからアメ(進化素材)を剥ぎ剥ぎ博士に送る日々。いまのところ。以上。

ポケモンGOについて①

 俺のダウンロードしたのはドードーGOだったのか、というぐらいドードーばかり出るが、たまに出るレアポケ、CPの高いポケモンにテンション上がりつつ、ポケモンGOをそれなりに楽しんでいる。

 

 ただ、プレイしていて、広く楽しむためには、というかジム攻略するには、積極的に情報を収集しなければやってらんないゲームだな、と感じた。

 他のプレイヤーがジムに配置しているポケモンのCPが高すぎて、ぶらぶらしながら出てきたポケモンを気まぐれにつかまえる、ぐらいのプレイングで育てた自分のポケモンではちょっかいすら出せない感じである。

 

 どうすりゃ強くなれるのか? ってんで調べたところ、次のようなことらしい。

 歩いていると佃煮にするぐらい(Ⓒ西原理恵子)出てくるポッポをつかまえ続け、ポッポを進化させる素材を集めてからしあわせタマゴを使用、一気にポッポを大量に進化させて経験値を獲得、プレイヤーキャラのレベルを上げるのが強くなる近道、とのことだ。

 ただ、俺の中のポケモンは、自分の好きなポケモンを気まぐれにつかまえてタイプとか秘伝要員とか取捨選択しつつ、情報遮断の無手勝流でも強引に打開することがわりと許されているゲームだったので、この手段をとるの、個人的には少し抵抗があるのだな。

 俺の知ってるポケモンは最初からこういう汗かかされるゲームじゃなかったのに。「これはもうポケモンじゃねえ」というべきか「ポケモンも変わったな」というべきか…。

 しょーがないので進化させるために欲しくもないポッポを次から次に死んだ目でつかまえては博士に送りつけている(ただ、よく考えると本家のポケモンもクリア後には個体値厳選のために無数にボールを投げ卵を孵すゲームに変わるので、ある意味ポケモンとしての路線を踏襲しているといえばしている)。

 

 一方、いらんやつを退場させるには博士に送る、というプロセスにポケモンらしさを勝手に感じたりもした。他のゲームだと、不要なキャラは餌として食わせるとか換金するとかのイメージが強いもんで。

 「あ、この世界的には不要なキャラでも完全に消滅するわけじゃないんだな」という、なんにほっとしてるのかわからんけども妙な安心があったりした。

 

 以下、雑感など書く。

・歩いていて、ナッシーだのギャラドスだのジムの頂上にライトアップされている強ポケの横を通り過ぎていくときが世の中の広さを感じさせて俺はなんか好きである。この世界観における底の深さを感じさせるというか。

 いまのところは初代カントーポケモンしか出てこないけど、ゆくゆくこれが全国版に拡大されていき、グロスとかガブリとかに見下ろしてもらえるんですかね? わくわくする。

・なつき度とか性格とか、同じポケモンであってももう少し個性が出る要素が追加されると思い入れが増すのだけど。

 現時点ではCPと技ぐらいしか違いがなく、同じポケモンでも後発でCPが高いのが見つかると前からいたのはあっさりお払い箱になってしまう。やや寂しい。

・御三家は野生で出現されると個人的には特別感が薄れて微妙な感じ。最初選ばなかった残りの二匹とか進化素材とか、ログインボーナスで手に入るみたいな扱いにして欲しかった。

・交換機能はいつか実施されるのだろうか? 珍しいポケモンを手に入れたり育てたりするために外を歩く、というゲームの中核と反発する部分はあるけど、他のプレイヤーと接点を持つ機会がもうちょっと欲しいというのもあって、期待しているところ。

 

 ともかくそんなことを考えながら今日もポケモンGO。先日アップデートが実施されたらしい。ありがたや。ところでポケモンが出現したとき振動して知らせる機能がドードーだけシカトする改良はまだですかね?

『双亡亭壊すべし』1巻の感想について

 先日御茶ノ水に行ったら書泉ブックマートABCマートになっていた。閉店したのは去年の9月で、ニュースにもなっていたようだけど全然知らなかった。

 本の街で本屋が潰れる時代か。amazonの功罪、とか勝手に5分ぐらい考える。

 確かに、俺は本も漫画もほとんど本屋で買うけれど、たまにamazon使うと「こりゃあ便利だわい」と思うし、あえて書店に足を運ぶ理由なんて正直「書店という空間が好きだから」というふわふわしたことしか言えなかったりするただ、そのふわふわした理由こそが絶対に譲れないものであったりもするが)。

 浪人時代によく通った本屋だった。悲しくなる。

 また、こちらはまったくニュースにもなんにもならかったが、最近近所にあったエロ屋がひっそりと閉店した。

 エロ屋というのは俺の造語で、どこの街にも一つはある、一般向け書籍が商品全体の2割ぐらいで、店内入り口に配置されたこれらを抜けたその奥に残りの8割ぐらいを占めるエロアイテムがどわあっと展開されている、そんなラインナップで経営している店のことを指す。

 2回ぐらいしか入ったことはなかったが、店内に貼られたAV女優のポスターが通りからのぞいていて、歩いて通りがかるたび横目で盗み見していた場所であった。

 考えてみればエロ屋も厳しい。買う側として、宅配に頼りたい気持ちは書籍より強いかもしれない。

 書泉ブックマートABCマートになったが、エロ屋に新しいテナントは入らないままだ。しばらくAV女優のポスターだけが残っていたがそれも外されて、何もない空間がぽっかりと空いている。

 少しずつ何もかもなくなっていく。最後は俺の家と俺の大嫌いな職場とそれをつなぐJRの駅、あとはamazonの巨大物流センターだけが残るんだな、とかイメージする。

 

 …という変わっていく建物の話を経て、絶対破壊されない不変の建物の話である。

 『双亡亭壊すべし』は藤田和日郎による少年サンデー連載中の戦闘漫画。『双亡亭』とは作品に登場する謎のお化け屋敷のことであり、タイトル通りこの双亡亭をなんやかんやあってムカつくんでぶっ壊しますわ、というのがメインテーマである。

 物語の導入、双亡亭の中で、一緒に建物に入った少女を探す二人の少年が描かれる。彼らはようやく少女を探し出すが、その手を引いて双亡亭を出ようとした瞬間、少女は奇態な化け物に変貌する。思わず手を離した二人に彼女は言う。「ワタシヲオイテイカナイデ」と。

 年月は過ぎ、少年たちは、一人は日本国総理大臣、一人は防衛大臣の地位へと登りつめていた。おそらくはそのためにこれまでの日々を重ねた彼らは、自衛隊に一つの指令を下す。「通称『双亡亭』なる地上家屋を空爆せよ。『双亡亭』壊すべし」と。

 しかし、おおかたの読者の予想通り、双亡亭はノーダメージで爆炎の中に残存するのであった。

 この空爆と前後して、双亡亭をめぐり新たな因縁が動きだす。

 双亡亭の一画にあった使用人用の土地に引っ越してきたが、父親を屋敷の新たな犠牲者として「喰われて」しまった少年。

 少年の姉であり、呪いを払う天才を見込まれ山で修行していたが弟の危機を知って下山した巫女の少女。

 双亡亭の隣にたつボロアパートに住む貧乏絵描きと、絵描きと同じ姓を持ち、45年前に行方不明になった後突如空中に出現した旅客機の中から、45年前の容姿のまま発見された謎の少年。謎の少年は見つかったとき正体不明の怪物と戦っており、自身の体をドリル状に変形させてこの怪物を粉砕してしまう。

 こうして、ドリルの少年が戦闘中に発した「オマエラミンナコワシテヤル」という言葉と意志が代表するように、屋敷にうらみを持つ者と化け物退治の腕に覚えのある猛者が集合し、物語が動きだす。「双亡亭壊すべし」という、その標語のもとに。

 

 ここまでほんの第1話。飛ばすなあ。アクセルベタ踏み。

 大ボスが生き物ではなく建物というのが珍しい。気が早いけど、「壊すべし」とタイトルにうたう以上、屋敷を最後どうぶっ壊すのか期待している。

 ドラクエゾーマ攻略における闇の衣をはがす的なのが必要なんだろうか。空爆より強烈な物理攻撃で壊すとかでも面白いけど。

 相変わらず藤田和日郎の描く女の子がいい。戦闘巫女の紅(クレナイ)さん。おかっぱの造形とマジメだけど弟のことになるとネジが飛ぶところ。あと方言。かわいい。

 それと紅さんが戦闘前に詠唱する祝詞みたいなんとか霞が関登場とか(環境省っていうのが個人的には珍しかったけど)、厨二的にも美味しかったです。

 

 双亡亭への本格的な内部侵攻は次巻に持ち越しのようだけど、俺みたいな建もの探訪(異常なもの限定だけど)好きとしてはどんな変態構造とイベントが待ち受けるのかわくわくする。

 後はドリル少年の正体と双亡亭の存在はなんか関係があるのか、とか総理大臣と防衛大臣が双亡亭をぶっ壊したいのは本当に昔の事件を決着させることだけが目的なのか、とかが気になる。

 個人的にはあんまり話を広げすぎず、あくまでいち地方にある一つの変な建物をみんなで頑張ってぶっ壊します、という話を、ただし使用する火力は特盛りで、という絶妙なバランスで描いてくれると楽しいなあ、と思いました。面白いです。以上。

 

 3巻の感想はコチラ

 

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『クリーピー 偽りの隣人』の感想について(良かった点、総括編)

  クリーピー 偽りの隣人』はウンコである。ウンコ映画である…
 
 という感想を観終わって抱いて、その理由を整理しているうちに迷走して、「なんじゃかんじゃ面白かったです」と白状している現状である。
 
 というわけで、ここからは良かった点及び雑多な感想です(前篇はこちら)。
 
【その他の感想】
・すごいぞ竹内結子
  誰にMVPをあげたいかというと竹内結子にあげたい。特に、作中の二大絶叫シーンは白眉。電話で話していた相手(香川?)を西島秀俊に尋ねられて逆ギレする場面は迫真すぎてゾクゾクしたし、最後の叫びもそこにある色んな感情を想像させられて素晴らしかった。
 香川照之も良かったけれど、優等生が当初の期待通り満点とったみたいなつまらなさがあり、予想外という意味では竹内結子が一番。
 
・風雲!香川城
  西島家の隣家である香川宅に築造された恐るべき監禁要塞。石造りの大仰な引き戸の向こうに広がっており、この映画をリアル志向のサスペンスだと思って観ていた俺をおおいに混乱させた。消音のためと思われる無響室のような壁やトラップにも変貌する死体処理用の穴など、非現実的という点に目をつぶれれば合理的な設計をしており、匠の手によって造られた可能性が高い(バカにした書きぶりだが、香川の異常さ、感情の希薄さを象徴するようで、怖いっちゃあ怖い)。
 
・オクスリ最強説
 西島夫婦をはじめ多くの犠牲者を出し無力化してきた高機能なオクスリ。個人的にはいらなかったんじゃない?と思う。北九州監禁殺人事件を知っている人は『クリーピー』を観て必ずこの事件のことを思い出したと思うが、単なる日常品だけで人が人を支配できることは事実が証明されているからだ。
 また、事件を知らない人からしても、「そんな便利なクスリあるかあ!」とか、「香川が人を支配できるのは薬のおかげ→香川自身の恐ろしさがぼやける」といった印象を招いて、あんまり得がないように思いました。
 
川口春奈ちょい役すぎね?
 その昔auのCMで俺のハートをがっちりつかんだ川口さん。ちょい役である。死ぬでもなく中盤でフェイドアウト。まあこの娘が死体を処理している場面はなんか観たくなかったけど。予想だが、彼女の記憶があいまいなのは香川の操作を受けており、自らが家族の処理に関与していたからだろうか? 香川の娘役ではないので注意。
 
・怖いぞ東出昌大
 作中の描かれ方のことではなく、スタイルが良すぎる、という話。
 あまりにスタイルが良いので、背が高い、という印象すらなく、ともかく異常に均整が取れているという感じ。彼の隣に立つと西島秀俊でさえ少し寸が詰まっているように見えるほど。今後彼と共演する役者で男前で売っている俳優は、下手に横に立たせるとキャラが破壊される危険がある。
 
・哄笑のショック
 ここからはマジメな話を。人選がクソなことで定評がある公式ホームページにおける推薦コメントだが、綾辻行人のコメントは的を射ていたと思う。
 最後、西島に射殺された香川を見て、それまで香川の娘役を演じさせられていた娘が枷が外れたように(実際そうなんだけど)哄笑、香川をさんざん罵ってから走ってどこかに走り去っていく、というシーンがある。
 これは俺が歪んでいるんだろうか? 彼女にとって香川は憎悪の対象でしかないから、その死を歓迎するのは当然のはずで、でも、俺は大声で笑う彼女の姿に不可解なショックを受けていた。
 確かに彼女は香川にずっと苦しめられていたのだけど、その一方で、ほとんど香川の命令通り行動している彼女には、きわめて負の方向に寄ってはいるが、香川への「信頼」があると思っていたのかもしれない。
 最後に彼女があげた哄笑は、なぜか当然の反応としてではなく、うまく言えないが人間という生き物の空虚さみたいなものを感じさせた。そして、香川がつけこんできた隙もなんかそこと無関係ではないようで、ともかく印象に残った。
 
・要はみんなそこそこ変人なのでは?
 2chでも言われているとおり、香川はもちろんだが、この映画はみんなそこそこ変人、いびつな人物として描かれていると思う。
 
 竹内結子はおそらく以前から、西島秀俊との間に埋めたいけど埋められない隙間を持っていたんじゃないだろうか。
  香川城で西島を裏切る彼女だけど、それは香川に完全に魅了されていたからではない。その後、昏睡した西島に彼女が触れる描写を見ると、それが隙間をなくす ための彼女なりの方法だったのではないかと思うし、香川はそのむなしさを利用したに過ぎない。最後の竹内結子の叫びが俺に響くのは、そういう理由による。
 
 西島秀俊のいびつさは、香川照之と対比させると鮮明になる。
 香川城での香川照之との直接対決の場面、竹内結子を背後にかばいながら、香川を得意の心理学で分析してみせていた西島は、守っているはずの竹内結子の不意打ちにより倒れる。そんな西島に香川はこんな言葉をかけた。
 
 「イカれてるな」。
 
 お前がそれを言うか、なんだけど、考えてみれば確かに西島は「イカれている」。香川の視点に立てば。
 
 香川照之は人心を操る天才だが、別に心理学を勉強したわけではないだろう。俺らと同じように(レベルは違うしブレーキもかかっていないけど)、単なる感覚によって他者の心を推し量り、それに合わせた対応を取っているに過ぎない。
 そんな香川からすれば、犯罪心理学まで修めていながら無様に空転し続ける西島秀俊の方がむしろおかしい。大仰な理論を振りかざしながら、その実、自分の最も身近にいる人間の気持ちさえつかめない西島の思考こそが理解できない。だから、「イカれている」。
 もちろん香川照之が正しいわけじゃないけど、単なる「正」と「狂」の二項対立でもない。この解釈をふまえると、どうにも薄っぺらに感じられたので上記で批判してみた西島のセリフ回しも、また違って見えてくる…。
 
【で、結局『クリーピー』はどうなのよ?】
 暴力耐性がない人、話に不可解な点があるのが許せない人は観ても辛いと思う。また、不安さ、不快さなどネガティブな感情を意図的に煽ってくるため、作品と波長が合ってもそれはそれでしんどい…。ウンコ映画かと思ったらそうでもなかった、と思い直したけど、やっぱりウンコかもしれない。良い意味で(?)。
 え、そんなもの観る必要あるんか? わかんない。ある、もしくは、なくはない、と言う代わりに、この長ーい感想をあげておくんである。
 なんでもいいからネタバレが見られれば、という人、観終わったから自分以外の感想が知りたい人に、なんかの役に立てば幸いです。以上。

 

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『クリーピー 偽りの隣人』の感想について(あらすじ、ウンコポイント編)

 クリーピー 偽りの隣人』はウンコである。ウンコ映画である。
 
 というのが観終わった当初の感想だった。というか観ているときからそう思っていた。それは偽らざる。
 
 映画を観終わった俺は、なぜ自分はこれをウンコと感じたのか?ということをあらためて考えてみた。冷静に整理した。
 その結果どうなったか。簡単に言うと本当にウンコかどうかよくわからなくなった。なのでいま困っている。
 
 この記事は次のような人に向けて書く。
 ・話の最後までのネタバレを知りたい人。
 ウンコポイントを整理する上でお話の要所とオチに言及せざるを得ないため、この記事を読めば話の大枠(誰が悪役で誰がどうなって最後何が起こるのか)はだいたいわかる。
 ・『クリーピー』をすでに観た人で自分以外の人がどんな感想を持ったか知りたい人。
 この映画、人によってかなり感想が分かれる映画だと思う。言い方を変えると、「あなたはこれをどこまで許せるか」を試される映画だと言ってもいいと思う。
 「ああ、そういう意見もあるのね」とか「俺もそこわからんかった」とか、「ああ、そこわからなかったの。バカなのね」とか思ってもらえれば幸いである。
 
【あらすじ】
(あらすじや配役を知らない人、まずこちらから。知ってる人は飛ばして【ウンコな理由】からどうぞ)

 

 犯罪心理学を修めた刑事だった西島秀俊は、ある日、聴取中だった殺人犯を逃がして人質をとられるという失態を犯した。
 説得を試みるも失敗して自らも重傷を負った西島は、この不手際をきっかけに刑事の職を辞し、妻(竹内結子)とともに住まいも変え、新たに大学教授の職に就く。
 ふとしたことから、彼は未解決のままとなっている一家の失踪事件に興味を持ち、調査を開始する。
 刑事時代の後輩(東出昌大)が耳ざとくそのことを聞きつけて接触してくる。東出を加えて調査を続ける中で、西島たちは失踪した家族の中で唯一所在のわかる女性(川口春奈)と接点を持ち、事件当時の彼女のあいまいな記憶を揺り起こして家族失踪の真相へと迫ろうとする。
 事件の究明を続ける西島の生活には、不気味な影を落とすものがあった。引っ越し先の隣人、香川照之の存在である。ひとり娘と精神を病んだ妻との三人暮らしである 香川は、西島夫婦と顔を合わせるたび小言やピントのずれた言動を繰り返し、彼に対する夫婦の見解はやがて「感じの悪い人」で一致した。一致したはずだった。
 しかし、香川は次第に西島の家に接近し、竹内結子もいつしか、彼とその娘を夕食に招くまでに心を許してしまう。妻とは対照的にどこまでも香川への不信感を募らせる西島は、ある日、家に帰ったきたところを香川の娘と出くわし、そしてこう告げられる。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」
 追っていた一家失踪事件と不気味な隣人の存在とが交錯し始める。川口春奈の家で起こった事件の真相は何なのか。西島の隣家でいま何が起こっているのか。そして、香川照之は果たして何者なのか。
 
【ウンコな理由】

 そんな『クリーピー』がウンコな理由だけども、次のようなところである。

 
・ガバガバかつ説明の足りない筋立て
 ストーリー展開に説明が足りないところが多い。このいくつかある理解できない点のせいで、俺は話を深読みしすぎてことごとく推測を外しているので、逆恨みもまじるのだけど、具体的には、
 
①いかにも怪しい香川照之だけでなく、東出君も怪しい。彼が黒幕なのでは?
→外れ。ワンストライク。香川照之がそのまんまラスボス。西島の隣の一家に潜りこんで家族を支配し、かの北九州監禁殺人事件のように互いを処理させあっている凶悪犯。竹内結子まで支配して、薬漬けにし死体の処理を手伝わせるなどやりたい放題。川口春奈一家失踪事件も香川のせい。香川が怪しいことを嗅ぎつけた東出君は西島の隣家(香川城)に潜入したが、返り討ちにあい、文字通り爆死。ついでに自分の拳銃を香川に奪われるなどいいところなし。
 東出君は妙に裏がありそうに描かれており、刑事をやめた西島にどこからともなく出てきて接触してくることとか(なぜ西島の動向を把握していたのか、説明は一切なし)、画面の端に映ってるときすっごい意味深な顔してたりとか、公式サイトでもすっげえ悪い顔してるし、まぎらわしいんじゃ、という。でも外れは外れ。ぐう。
 
香川照之は警察となんらかのコネクションを持っていて、警察がその凶行を追求することができない存在なのでは?
→外れ。ツーストライク。
 香川を追って爆死した東出君はなぜか借金苦でやけになって死んだことになっており、香川自身はろくに追求されず。それに基づく推測だったが、香川と香川城をフリーにしていたのは単にこの作品内の警察がバカなだけで、特に作品が凶悪犯と警察の闇のつながりに発展する、ということはなかった。ようやく香川が怪しいことに気づいた二人目の刑事(笹野高史)が香川城に突入するも、ドリフよろしく落とし穴を踏み抜き、東出君の二の舞に。
 ちなみに東出君の借金は原作小説から持ち込んだ設定だったようだけど、映画版においては唐突すぎた。でもともかく外れ。
 
③最後、西島秀俊に射殺される香川照之だが、死んだと見せかけて実は生きているのでは?
→外れ。スリーストライク(バットを地面に叩きつける)。
 香川城に自ら潜入、直接対決を挑んだ西島だったが、妻である竹内結子に裏切られ自身もオクスリの餌食に。最後は香川の支配下におかれてしまう。しかし、物語の最終盤油断した香川から手渡された東出君の銃で香川を射殺する。
 この推測は、「この映画はすべて香川の手のひらの上なので、その香川がこんなあっさり死ぬはずがない。防弾チョッキでも着てるのでは」「『笹野高史が所持していたはずの銃』がまだ未登場だから、実は生きていた香川がそれで西島に逆襲するのではないか」という理由によったが、結局外れ。香川は普通に死んでいる。
 言いがかりめくけど、「こいつ最強」という約束事を成立させてしまったキャラクターを打倒する展開には、それなりの説得力が必要だと思う。最後の最後でポンコツすぎるだろう、香川。
 
・脚本がひどい
 西島さん「真実」って言葉気に入ってるけど、実生活で特に親しくない奴がドヤ顔でそのワード使ってきたら引くぞ。
 一家失踪事件の現場の印象が「犯罪現場に特有の感じ」ってそれだけですごい執着してるけど、君ら刑事・元刑事としてもうちょっと観客に詳しく説明してくれんか?
 主に西島秀俊のセリフが、観ていて違和感があったりしょぼかったりして、刑事・学者のキャラ付けとして薄っぺら過ぎる。例えば小説に書かれているセリフをそのまま実写に落とし込んだみたいな、媒体が変わってそれまで自然だった表現が裏返ってしまったような感じがした。
 
・暴力描写がひどい
 俺はこの映画をじわじわ怖い心理系サスペンスだと思っていたのだけど、中盤以降、殴打、銃撃、オクスリ注射など身体への直接攻撃ありのけっこうなバイオレンスであることが判明した。その辺、もう少し予告情報で汲めるようにしてもらえると親切だったと思う。
  で、俺は暴力描写自体にそんなに嫌悪感あるわけじゃないので、あくまでこの「予想と違うものが出てきた」という印象への不寛容さによるものなのだが、前述した脚本・筋立てのひどさと香川城の非現実的な容貌により作品をあまり信頼できなくなっていたことも影響して、俺は最後までこの暴力ありの世界観を許すことができず、どうも無理して観させられた、という感じが強かった。
 
 
 冷静に整理してみると「俺の早とちりのせい…?」な部分がなくもないけど、作品内外で全体的に観客に甘えている部分が多く、それが俺にウンコという印象を与えたように思う。
 俺は「面白ければ話のツジツマは勝手に合う」が持論なので、『クリーピー』は面白さでボロを隠すことができなかったか、もしくは面白かったけどそれ以上にボロが目立ったか、どちらかなのだろう。
 
 …あれ、面白かったって言っちゃってるじゃん?
 
 そうなのだ、ボロクソ言ったけど、なんだかんだ『クリーピー』は面白かったのだ。というわけで、ここからは良かった点も含めて雑多な感想を書き足すことにする(長くなりすぎたので後篇に続く)。

 

 

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もー別にいらなくないっすか?ということについて

 もー別にいらなくないっすか?この手の報道。

 

 心配だなあ、と思ってて、でも自分がそういう感情を抱かされること自体がわずらわしくて。

 もうさ、意味なくねえですか?知ってどうできるわけじゃねえんだから。知らされた側から何が起こるわけじゃねえんだから。せいぜい何パターンかリアクションがあるぐらいっすよ。調べてないけどだいたいわかりますよ。

 「アホ乙」か

 「いや、やる側の気持ちもわかる」か

 「後悔でいっぱいだろうな。無事を祈る」かのどれかでしょ?

 そういう反応を国中で生んで集積させてなんかの役に立つんすか?俺が30手前でハンパない世間知らずなせいでわかんないだけなのかもしらんけどたぶん立たないと思う。

 

 いや、そりゃ今後同じことをしない人を生む、って効果はあるでしょうよ。俺もきっと今後、もし同じことをやりたい感情にとらわれることがあっても、今回のことを思い出して自分を止めるでしょうよ。

 でも、「こういうこと」をしたから「そういう」大変なことになった、の「こういうこと」って、きっと世の中無数にあるじゃないすか。俺が今回の報道についてあらかじめすげえマイナスから入ってるんでともかくあげつらいたいだけかもしんないけど、ともかく無数にあるじゃないすか。

 そしたら、一つ「そういうこと」をしうる人間っていうのは別の「そういうこと」をしうるんじゃねえ?もしくは人間自体が「そういうこと」のリスクから逃れられないんじゃねえ?で、個々の問題だろうと人間全体の問題だろうと、回避しようがないのは一緒なんだから、反面教師みたいな意味は実際ねーんじゃねーかなー。なんか自分で勝手に報道の意図を解釈してそれにカッカ反論してるみたいだし実際そうなんだろうけど頭来てるからしょーがねーわ。

 尺埋めるとか?わかんねーけど、その他、報道する側の事情は知んないですよ?でもあくまで受け取る側の視点で言ったら意味ないっす。ひっそり起こってひっそり取り組んでひっそり決着して欲しいっす。

 

 もしかして役に立つ情報しか発信されちゃいけないと思ってる人?

 そうですね。きっとそうなんでしょう。別に高尚な話を求めてるわけじゃないですよ?まとめサイト読んでて「性欲の強い女性の特徴」みたいな記事見つけて「お、開こうかな」とかちょっと考える程度の人間性ですよ?

 でもそれだって意味はあるじゃん。俺の役には立つもの。たぶんだけど。

 書いてるうちにだんだん冷静になってきたけど、俺の「役に立つ」のハードルが高すぎたり変に個人的だったりするだけ?

 なんだそーなのか…。

 

 でも許さねえ。ともかく俺にはそんな情報いらねえ。今後俺の五感にこの出来事について続報を入れやがったら想像のつく範囲でその報道に携わった奴全員を呪う。呪い尽くす。

 

 っつーわけで、もー別にいらなくないっすか?と思ったんで書きます。誰かこの報道で助かってる人がいたらすんません。

桜の木の下には何も埋まっていないことについて

 天気がいいので野川公園に『スティール・ボール・ラン』を持っていってそこで読んでいた。公園近くのコンビニで買ったポッキーと缶コーヒーを手に、どんどん読み進める。

 

 「ジャイロォォォ!」

 「ジョニィィィィ!」

 アメリカ大陸横断レースと聖人の遺体を巡る物語は佳境に入っていて、主人公二人はお互いの名を叫びながら、雪原におけるウェカピポ、マジェント・マジェントコンビの襲撃を退け、シビル・ウォー戦を切り抜け、すべての陰謀のおおもとである合衆国大統領との戦いに突入していく。長い旅を続けてきた彼らの冒険だが、もうすぐ終わりが近づいていた。

 

 野川公園にはたくさんの色んな種類の人がやって来ていた。特に子どもがいっぱいいた。子どもと呼べる年齢の、どんな時期に所属する人たちも、ここには見つけることができた。

 乗れるようになったばかりの自転車に乗って、一緒に来ている親に向かって憎まれ口を叩いている人。

 長い網を手に川に向かってとことこ坂を降りていく人。

 まだ自分の足だけでは立ち続けられないけど、手を引かれながらなら歩くことができて、足元の地面に何かを確かめるようにして一歩一歩進んでいく人。

 不審者にならない程度に俺はその様子を見ていた。

 

 川沿いに植わっている大きな桜の木から、風が吹くとゆるゆる溶けるように花びらが散って流れた。一枚一枚が精緻で美しい花びらというものが、惜しげもなく一度に吹き散らされる。大きな美しさの中で、個々の美は隠れて見つからなくなる。しかし、風の音とともに、本当に風景がかすむくらいのたくさんの白い花びらが宙を舞う光景は、もちろんそれ自体は見事なものだ。自分は何かを失っているような、手にいれたような、妙な気持ちになりながらずっと見ている。

 

 哲学者の中島義道に言わせると時間とはけして流れないものであるらしい。

 しかし、たくさんの花びらが目の前の川に沿うようにして宙を泳ぎ、一枚一枚と力を失って奔流から離れながらもほとんどはそのまま流れていく様子を見ていると、俺たちを運んでどこかに連れていく時間の流れというものを、そこに実感しないではいられなかった。

 

 芝生に寝転んでジョニィとジャイロのスタンドバトルを追いつつ、色んな年齢の子どもが近くに来るたび俺はその姿に目をやる。目を奪われてしまう。

 俺は自分が彼らだったときのことを思い出す。俺をそこから押し流してここまで連れて来て、またどこかに連れて行こうとする時間の流れの中で突っ立ちながら思い出す光景は、ほとんどかすんでいて不明瞭だが、過去の自分の満ち足りた幸せさだけはよみがえらせることができる。

 そのときの俺は不思議な気持ちだ。その感情にあえてタグをつけるなら「悲しさ」なのだが、無理に分類しようとするのは間違っている気もするし、とりあえずその気持ち自体は嫌いではないのだった。