『クリーピー 偽りの隣人』の感想について(良かった点、総括編)

  クリーピー 偽りの隣人』はウンコである。ウンコ映画である…
 
 という感想を観終わって抱いて、その理由を整理しているうちに迷走して、「なんじゃかんじゃ面白かったです」と白状している現状である。
 
 というわけで、ここからは良かった点及び雑多な感想です(前篇はこちら)。
 
【その他の感想】
・すごいぞ竹内結子
  誰にMVPをあげたいかというと竹内結子にあげたい。特に、作中の二大絶叫シーンは白眉。電話で話していた相手(香川?)を西島秀俊に尋ねられて逆ギレする場面は迫真すぎてゾクゾクしたし、最後の叫びもそこにある色んな感情を想像させられて素晴らしかった。
 香川照之も良かったけれど、優等生が当初の期待通り満点とったみたいなつまらなさがあり、予想外という意味では竹内結子が一番。
 
・風雲!香川城
  西島家の隣家である香川宅に築造された恐るべき監禁要塞。石造りの大仰な引き戸の向こうに広がっており、この映画をリアル志向のサスペンスだと思って観ていた俺をおおいに混乱させた。消音のためと思われる無響室のような壁やトラップにも変貌する死体処理用の穴など、非現実的という点に目をつぶれれば合理的な設計をしており、匠の手によって造られた可能性が高い(バカにした書きぶりだが、香川の異常さ、感情の希薄さを象徴するようで、怖いっちゃあ怖い)。
 
・オクスリ最強説
 西島夫婦をはじめ多くの犠牲者を出し無力化してきた高機能なオクスリ。個人的にはいらなかったんじゃない?と思う。北九州監禁殺人事件を知っている人は『クリーピー』を観て必ずこの事件のことを思い出したと思うが、単なる日常品だけで人が人を支配できることは事実が証明されているからだ。
 また、事件を知らない人からしても、「そんな便利なクスリあるかあ!」とか、「香川が人を支配できるのは薬のおかげ→香川自身の恐ろしさがぼやける」といった印象を招いて、あんまり得がないように思いました。
 
川口春奈ちょい役すぎね?
 その昔auのCMで俺のハートをがっちりつかんだ川口さん。ちょい役である。死ぬでもなく中盤でフェイドアウト。まあこの娘が死体を処理している場面はなんか観たくなかったけど。予想だが、彼女の記憶があいまいなのは香川の操作を受けており、自らが家族の処理に関与していたからだろうか? 香川の娘役ではないので注意。
 
・怖いぞ東出昌大
 作中の描かれ方のことではなく、スタイルが良すぎる、という話。
 あまりにスタイルが良いので、背が高い、という印象すらなく、ともかく異常に均整が取れているという感じ。彼の隣に立つと西島秀俊でさえ少し寸が詰まっているように見えるほど。今後彼と共演する役者で男前で売っている俳優は、下手に横に立たせるとキャラが破壊される危険がある。
 
・哄笑のショック
 ここからはマジメな話を。人選がクソなことで定評がある公式ホームページにおける推薦コメントだが、綾辻行人のコメントは的を射ていたと思う。
 最後、西島に射殺された香川を見て、それまで香川の娘役を演じさせられていた娘が枷が外れたように(実際そうなんだけど)哄笑、香川をさんざん罵ってから走ってどこかに走り去っていく、というシーンがある。
 これは俺が歪んでいるんだろうか? 彼女にとって香川は憎悪の対象でしかないから、その死を歓迎するのは当然のはずで、でも、俺は大声で笑う彼女の姿に不可解なショックを受けていた。
 確かに彼女は香川にずっと苦しめられていたのだけど、その一方で、ほとんど香川の命令通り行動している彼女には、きわめて負の方向に寄ってはいるが、香川への「信頼」があると思っていたのかもしれない。
 最後に彼女があげた哄笑は、なぜか当然の反応としてではなく、うまく言えないが人間という生き物の空虚さみたいなものを感じさせた。そして、香川がつけこんできた隙もなんかそこと無関係ではないようで、ともかく印象に残った。
 
・要はみんなそこそこ変人なのでは?
 2chでも言われているとおり、香川はもちろんだが、この映画はみんなそこそこ変人、いびつな人物として描かれていると思う。
 
 竹内結子はおそらく以前から、西島秀俊との間に埋めたいけど埋められない隙間を持っていたんじゃないだろうか。
  香川城で西島を裏切る彼女だけど、それは香川に完全に魅了されていたからではない。その後、昏睡した西島に彼女が触れる描写を見ると、それが隙間をなくす ための彼女なりの方法だったのではないかと思うし、香川はそのむなしさを利用したに過ぎない。最後の竹内結子の叫びが俺に響くのは、そういう理由による。
 
 西島秀俊のいびつさは、香川照之と対比させると鮮明になる。
 香川城での香川照之との直接対決の場面、竹内結子を背後にかばいながら、香川を得意の心理学で分析してみせていた西島は、守っているはずの竹内結子の不意打ちにより倒れる。そんな西島に香川はこんな言葉をかけた。
 
 「イカれてるな」。
 
 お前がそれを言うか、なんだけど、考えてみれば確かに西島は「イカれている」。香川の視点に立てば。
 
 香川照之は人心を操る天才だが、別に心理学を勉強したわけではないだろう。俺らと同じように(レベルは違うしブレーキもかかっていないけど)、単なる感覚によって他者の心を推し量り、それに合わせた対応を取っているに過ぎない。
 そんな香川からすれば、犯罪心理学まで修めていながら無様に空転し続ける西島秀俊の方がむしろおかしい。大仰な理論を振りかざしながら、その実、自分の最も身近にいる人間の気持ちさえつかめない西島の思考こそが理解できない。だから、「イカれている」。
 もちろん香川照之が正しいわけじゃないけど、単なる「正」と「狂」の二項対立でもない。この解釈をふまえると、どうにも薄っぺらに感じられたので上記で批判してみた西島のセリフ回しも、また違って見えてくる…。
 
【で、結局『クリーピー』はどうなのよ?】
 暴力耐性がない人、話に不可解な点があるのが許せない人は観ても辛いと思う。また、不安さ、不快さなどネガティブな感情を意図的に煽ってくるため、作品と波長が合ってもそれはそれでしんどい…。ウンコ映画かと思ったらそうでもなかった、と思い直したけど、やっぱりウンコかもしれない。良い意味で(?)。
 え、そんなもの観る必要あるんか? わかんない。ある、もしくは、なくはない、と言う代わりに、この長ーい感想をあげておくんである。
 なんでもいいからネタバレが見られれば、という人、観終わったから自分以外の感想が知りたい人に、なんかの役に立てば幸いです。以上。

 

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