『クリーピー 偽りの隣人』の感想について(あらすじ、ウンコポイント編)

 クリーピー 偽りの隣人』はウンコである。ウンコ映画である。
 
 というのが観終わった当初の感想だった。というか観ているときからそう思っていた。それは偽らざる。
 
 映画を観終わった俺は、なぜ自分はこれをウンコと感じたのか?ということをあらためて考えてみた。冷静に整理した。
 その結果どうなったか。簡単に言うと本当にウンコかどうかよくわからなくなった。なのでいま困っている。
 
 この記事は次のような人に向けて書く。
 ・話の最後までのネタバレを知りたい人。
 ウンコポイントを整理する上でお話の要所とオチに言及せざるを得ないため、この記事を読めば話の大枠(誰が悪役で誰がどうなって最後何が起こるのか)はだいたいわかる。
 ・『クリーピー』をすでに観た人で自分以外の人がどんな感想を持ったか知りたい人。
 この映画、人によってかなり感想が分かれる映画だと思う。言い方を変えると、「あなたはこれをどこまで許せるか」を試される映画だと言ってもいいと思う。
 「ああ、そういう意見もあるのね」とか「俺もそこわからんかった」とか、「ああ、そこわからなかったの。バカなのね」とか思ってもらえれば幸いである。
 
【あらすじ】
(あらすじや配役を知らない人、まずこちらから。知ってる人は飛ばして【ウンコな理由】からどうぞ)

 

 犯罪心理学を修めた刑事だった西島秀俊は、ある日、聴取中だった殺人犯を逃がして人質をとられるという失態を犯した。
 説得を試みるも失敗して自らも重傷を負った西島は、この不手際をきっかけに刑事の職を辞し、妻(竹内結子)とともに住まいも変え、新たに大学教授の職に就く。
 ふとしたことから、彼は未解決のままとなっている一家の失踪事件に興味を持ち、調査を開始する。
 刑事時代の後輩(東出昌大)が耳ざとくそのことを聞きつけて接触してくる。東出を加えて調査を続ける中で、西島たちは失踪した家族の中で唯一所在のわかる女性(川口春奈)と接点を持ち、事件当時の彼女のあいまいな記憶を揺り起こして家族失踪の真相へと迫ろうとする。
 事件の究明を続ける西島の生活には、不気味な影を落とすものがあった。引っ越し先の隣人、香川照之の存在である。ひとり娘と精神を病んだ妻との三人暮らしである 香川は、西島夫婦と顔を合わせるたび小言やピントのずれた言動を繰り返し、彼に対する夫婦の見解はやがて「感じの悪い人」で一致した。一致したはずだった。
 しかし、香川は次第に西島の家に接近し、竹内結子もいつしか、彼とその娘を夕食に招くまでに心を許してしまう。妻とは対照的にどこまでも香川への不信感を募らせる西島は、ある日、家に帰ったきたところを香川の娘と出くわし、そしてこう告げられる。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」
 追っていた一家失踪事件と不気味な隣人の存在とが交錯し始める。川口春奈の家で起こった事件の真相は何なのか。西島の隣家でいま何が起こっているのか。そして、香川照之は果たして何者なのか。
 
【ウンコな理由】

 そんな『クリーピー』がウンコな理由だけども、次のようなところである。

 
・ガバガバかつ説明の足りない筋立て
 ストーリー展開に説明が足りないところが多い。このいくつかある理解できない点のせいで、俺は話を深読みしすぎてことごとく推測を外しているので、逆恨みもまじるのだけど、具体的には、
 
①いかにも怪しい香川照之だけでなく、東出君も怪しい。彼が黒幕なのでは?
→外れ。ワンストライク。香川照之がそのまんまラスボス。西島の隣の一家に潜りこんで家族を支配し、かの北九州監禁殺人事件のように互いを処理させあっている凶悪犯。竹内結子まで支配して、薬漬けにし死体の処理を手伝わせるなどやりたい放題。川口春奈一家失踪事件も香川のせい。香川が怪しいことを嗅ぎつけた東出君は西島の隣家(香川城)に潜入したが、返り討ちにあい、文字通り爆死。ついでに自分の拳銃を香川に奪われるなどいいところなし。
 東出君は妙に裏がありそうに描かれており、刑事をやめた西島にどこからともなく出てきて接触してくることとか(なぜ西島の動向を把握していたのか、説明は一切なし)、画面の端に映ってるときすっごい意味深な顔してたりとか、公式サイトでもすっげえ悪い顔してるし、まぎらわしいんじゃ、という。でも外れは外れ。ぐう。
 
香川照之は警察となんらかのコネクションを持っていて、警察がその凶行を追求することができない存在なのでは?
→外れ。ツーストライク。
 香川を追って爆死した東出君はなぜか借金苦でやけになって死んだことになっており、香川自身はろくに追求されず。それに基づく推測だったが、香川と香川城をフリーにしていたのは単にこの作品内の警察がバカなだけで、特に作品が凶悪犯と警察の闇のつながりに発展する、ということはなかった。ようやく香川が怪しいことに気づいた二人目の刑事(笹野高史)が香川城に突入するも、ドリフよろしく落とし穴を踏み抜き、東出君の二の舞に。
 ちなみに東出君の借金は原作小説から持ち込んだ設定だったようだけど、映画版においては唐突すぎた。でもともかく外れ。
 
③最後、西島秀俊に射殺される香川照之だが、死んだと見せかけて実は生きているのでは?
→外れ。スリーストライク(バットを地面に叩きつける)。
 香川城に自ら潜入、直接対決を挑んだ西島だったが、妻である竹内結子に裏切られ自身もオクスリの餌食に。最後は香川の支配下におかれてしまう。しかし、物語の最終盤油断した香川から手渡された東出君の銃で香川を射殺する。
 この推測は、「この映画はすべて香川の手のひらの上なので、その香川がこんなあっさり死ぬはずがない。防弾チョッキでも着てるのでは」「『笹野高史が所持していたはずの銃』がまだ未登場だから、実は生きていた香川がそれで西島に逆襲するのではないか」という理由によったが、結局外れ。香川は普通に死んでいる。
 言いがかりめくけど、「こいつ最強」という約束事を成立させてしまったキャラクターを打倒する展開には、それなりの説得力が必要だと思う。最後の最後でポンコツすぎるだろう、香川。
 
・脚本がひどい
 西島さん「真実」って言葉気に入ってるけど、実生活で特に親しくない奴がドヤ顔でそのワード使ってきたら引くぞ。
 一家失踪事件の現場の印象が「犯罪現場に特有の感じ」ってそれだけですごい執着してるけど、君ら刑事・元刑事としてもうちょっと観客に詳しく説明してくれんか?
 主に西島秀俊のセリフが、観ていて違和感があったりしょぼかったりして、刑事・学者のキャラ付けとして薄っぺら過ぎる。例えば小説に書かれているセリフをそのまま実写に落とし込んだみたいな、媒体が変わってそれまで自然だった表現が裏返ってしまったような感じがした。
 
・暴力描写がひどい
 俺はこの映画をじわじわ怖い心理系サスペンスだと思っていたのだけど、中盤以降、殴打、銃撃、オクスリ注射など身体への直接攻撃ありのけっこうなバイオレンスであることが判明した。その辺、もう少し予告情報で汲めるようにしてもらえると親切だったと思う。
  で、俺は暴力描写自体にそんなに嫌悪感あるわけじゃないので、あくまでこの「予想と違うものが出てきた」という印象への不寛容さによるものなのだが、前述した脚本・筋立てのひどさと香川城の非現実的な容貌により作品をあまり信頼できなくなっていたことも影響して、俺は最後までこの暴力ありの世界観を許すことができず、どうも無理して観させられた、という感じが強かった。
 
 
 冷静に整理してみると「俺の早とちりのせい…?」な部分がなくもないけど、作品内外で全体的に観客に甘えている部分が多く、それが俺にウンコという印象を与えたように思う。
 俺は「面白ければ話のツジツマは勝手に合う」が持論なので、『クリーピー』は面白さでボロを隠すことができなかったか、もしくは面白かったけどそれ以上にボロが目立ったか、どちらかなのだろう。
 
 …あれ、面白かったって言っちゃってるじゃん?
 
 そうなのだ、ボロクソ言ったけど、なんだかんだ『クリーピー』は面白かったのだ。というわけで、ここからは良かった点も含めて雑多な感想を書き足すことにする(長くなりすぎたので後篇に続く)。

 

 

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