読もう、中華ミステリ。『死亡通知書 暗黒者』の感想について

はじめに

 中国の小説というと、最近は『三体』をはじめとするSFが話題の印象があるが、そもそも中華圏における書籍市場の全体像を語れるほど詳しいわけもなく、じゃあSF以外に何が有名? と聞かれると『聊斎志異』だとか残雪とかが出てくるぐらい偏った知識しかないんだけど、その中でジャンルとして明確に抜け落ちている印象のある分野がある。ミステリーだ。

 中華ミステリは本当に思いつかない。もちろん最大の理由は俺の見識が狭いからだが、こんな記事もあるぐらいなので、マーケットが実際に小さいのだと思う。

 そんな中で手に取った『死亡通知書 暗黒者』は(妙なタイトルだけど、死亡通知書シリーズの第一作で副題が『暗黒者』ということらしいですよ)、先日の早川書房によるkindle半額セールをきっかけに知った作品だが、これがメッポウ面白かった。だからそのことについて書く。

 

アクション×謎解きのハイレベルな調和

 舞台は中国国内のA市。一人のベテラン刑事の死をきっかけにして、復讐の女神〈エウメニデス〉の名を騙る犯罪者による連続殺人が始まる。実戦、サイバー技術、心理学など各分野のエキスパートによる対策班が結成されるが、それをあざ笑うようにして、〈エウメニデス〉は犯行予告を繰り返し、思いもよらない手口で予言した殺人を実現化していく。鋭いひらめきと抜きんでた行動力で〈エウメニデス〉を追う先陣を切るのは、A市外の所轄でありながら対策班に組み込まれた刑事・羅飛。彼には、この犯人と個人的な因縁があるのだった、という話。

 

 警察小説というと髙村薫のようにダウナーで思弁的な作品か、深町秋生のようにアッパーで火薬・血煙くさい作品の両極端しか知らないところ、どちらかというと、『死亡通知書 暗黒者』は深町作品のようなスピード感のあるエンターテインメント路線に近い。

 劇中で何度か殺人が、ショーめいた状況で執行されるわけだが、異様に大がかりだったりシチュエーションが凝りすぎていたりで、荒唐無稽な感もある。「まあ、楽しもうぜ」という雰囲気がある。

 ただし、それらもふざけているばっかりではなくちゃんとロジカルにできているし、とにかく「ミステリ」に分類されるだけあって、張り巡らされた謎の数、明かされたいくつもの真相によって物語が転調する回数が尋常じゃない。そういう意味で、単に能天気な作品ではなく、疑心暗鬼の緊張感がラストまで張り詰めている。

 信頼できる登場人物はほぼいないと言っていいだろう。ちょっとしたネタバレになるが、主人公の羅飛でさえ、途中からかなり怪しい気配を漂わせてくるほどだ。アクションと謎解きの高次元のハイブリッド。映画作品で言えば『インファナル・アフェア』に近い雰囲気かもしれない。

 

もう少しネタバレと続刊希望

 かなり強烈なページターナーなので、ぜひお薦めしたい。

 もう少しネタバレすると、作品の結末には大きなオチがつき、事件はある程度解決するのだが、あくまで「第一部 完」(原文ママ)である。

 ある者は大きな因縁を抱え込み、ある者は安息の地を失くし、ある者(たち)は舞台から去ったが各々の後継者を残した。中でも主人公・羅飛の境遇が印象的で、この作品もミステリでよく語られる「犯罪者とそれを追う者は表裏一体」というロジックに則っているのだが、羅飛が終盤で下した決断は、犯罪者側に一歩踏み込んだものと言えなくもない。

 これがどの程度、作者の意図したものかは不明だが、彼のこの選択も含めて、小説が完結してなお、多くの因縁が作品世界の中で渦を巻いている。早川書房にはぜひ、続編の翻訳をお願いしたいところ。以上、よろしくお願いいたします。