それでも「彼女たち」の物語。『裏バイト:逃亡禁止』7巻の感想について 1/2

はじめに

 ネタバレありです。

 

高校生の頃に『GANTZ』で

 「あれってミッションで死亡しなかったら致命傷でも復帰するだろ。

 でも、ケガが回復するわけじゃなくて、ケガを負う前の自分が呼び出されて置き換わるだけで、ダメージ負った方は消されるわけじゃん。そしたら、ケガしたやつ的には結局死んでるのと変わんねーよな」と周囲に言っていた。

 でも、あんまり理解を得られなかった。

 なんとなく、それを思い出した話。

 

感想

 神罰、妖怪、都市伝説。

 ホールスタッフ、ビル警備員といった、表面上はありふれた仕事内容とは裏腹に、参加者の死亡率、ほぼ100%(特に今回は)。

 女性バディが挑む、時間単価10,000円超えも珍しくない命のかかった「裏バイト」を描く第7巻。

 正気、生命、存在そのものを賭けて、以前からギリギリで生還できたり、ある意味で生還できてなかったりした本作だが、この7巻でついに一線を越えた感があったので感想を書いておく。

 

 今回、主人公の白浜和美(度胸、機転◎)、黒嶺ユメ(危機感知の特殊能力持ち)の二人が挑むのは「気象観測」「人材レンタル」「料亭スタッフ」「遺跡発掘調査補助員」の4つ(+準主役の篠月橙が個人で参加した「交通量調査員」)。

 どのストーリーも、物語の根幹に関わっている気配があるが、とりあえず「遺跡発掘調査補助員」が一番エラいことになっているので、この話から紹介する。

 

 この章は、オーパーツの発掘を目指す異端の考古学者である平川が、調査中に古代の人類と思われる全身骨格を掘り出したところから始まる。

 ただし、その骨格の頭蓋骨は眼窩にあたる部分が巨大な花びらのような異常な形状をしていた。

 それを見た平川は、思わず疑問を口にする。これは人間なのか、と。その直後、眼窩の上部に眼球のようなものが出現する。

 そこで場面が変わり、白浜(ハマちゃん)と黒嶺(ユメちゃん)の二人が裏バイトのの斡旋所を訪れている。斡旋所には、以前他の裏バイトで知り合った藍川という女性もやって来ており、藍川の所属する組織「Q」(!)からの謝礼も上乗せされるかたちで、二人は平川の二回目の発掘作業に同行することになる。

 

 ここからネタバレ。

 

 前回の発掘調査で平川が掘り当てたのは、人間のレベルを超えた存在に関わる何か、もしくはその存在そのものだった。

 「デザイナー」と仮称されるその存在は、その名の通り、これまでの歴史を消去して過去の時点からやり直す、ということを何度も繰り返してこの世界をデザインしており、平川は前回の発掘でそのスイッチを押してしまっていた。

 平川は自分が一度消滅しており、いまの「自分」はやり直しによって再生したものでしかない、ということを知って絶望する。しかし、そこからハマちゃんに檄を入れられて立ち直り、やり直しのループから抜けるために骨格を破壊することに望みをかける。

 結局、骨が壊されたかどうかは不明で、とにかくやり直しは再び起きてしまった。

 「遺跡発掘調査補助員」の最後は、おそらく平川の存在ごと発掘調査のバイトが世界から消滅し、ハマちゃんとユメちゃんがまったく別のバイトを終えた場面を描いて終わっている。

 ちなみにやり直しのせいで、また、それがよっぽど古い時点までロールバックしたせいか、新しい世界における北海道のかたちが反転してしまった。

 

 さて、上で書いたエラいことというのは、仮に世界のやり直しに伴う現在世界の消滅を死と定義するなら、「遺跡発掘調査補助員」終盤のやり直しによって、主人公の二人が最低一回は死んでしまったことになるからだ。

 もし、平川が最初に異形骨格を発掘した時点で起きたやり直しに巻き込まれて二人が消滅していれば一回どころか二回死んでいるし、それどころか、こうしたやり直しのスイッチが他にもあったとすれば、物語には描かれていないところで彼女たちは三回以上死んでいる可能性もある。

 ただ、逆に言えば平川による最初のやり直しのときにハマちゃんとユメちゃんがいたとも明言されていないわけで、このやり直しが逆に二人を作中世界に生み出したスイッチだった可能性もある。この辺はわからない。

 問題は、二回目のやり直しでつくられた世界にも二人は存在しているが、それは厳密には新しい世界の二人であって、それを前の世界と同じ「ハマちゃんとユメちゃん」と見なしてもいいのだろうか、ということだ。

 

 同じ二人である、と見なす場合の一つの根拠として、発掘現場でユメちゃんが発揮した危機感知能力はヒントになるかもしれない。

 発掘現場には異形の骨格に関係すると思われる、顔にそれぞれ違うかたちの穴が空いた亜人のような者たちがうろついていて、ユメちゃんによれば、ある者の近くにいるのは「危険」で、反対に、ある者の近くは「安全」だった。

 「安全」な方向を選んでもやり直しは起きてしまったのだが、「安全」であった以上、二人が別の存在になってしまっているわけはない、かもしれない。だから、消滅を経てもなお、二人は元の二人のままなのかもしれない、が…。(続く)