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惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

『皇国の守護者』2巻の感想、もしくは課長 新城直衛について

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 今年度の「新入職員にきいた上司にしたい有名人」の1位は、男性が松岡修造で女性が天海祐希だったらしい。

 

 松岡修造が職場で俺の課の課長席にいることを想像してみる。確かに良いかもな、と思う(今の上司に不満があるわけでは断じてないけど)。
 自分の席とトイレと給湯室をぐるぐる巡回することを主な職務にしている俺だが、修造はそれを面白く思わないので、せめてトイレか給湯室かどちらかは行くな、あんまり行くな、お前ならできる!とか言う。『毎日修造』のダイレクトなやつだ。俺も「そうか」なんつって…
 
  正直、修造と人間が違い過ぎて、脳内で仮に動かしてみることさえできない…(たぶん本当の松岡修造はもっとぶっ飛んだことを言う)。でもまあともかく、松岡修造が理想の上司に選ばれるのはなんとなくわかる。トイレで鏡を見ているとき、給湯室でタンブラーに注がれるコーヒーをぼんやり見ているときに感じる、「このままじゃやべえな」という感覚、焦りが湧かないこと自体への焦り、そういう状況を修造は変えてくれるような気がする。
 
 こうして思うと俺が上司に求めているのは、職場、ひいては業界全体を引っ張るリーダーシップや協力して課題に取り組む仲間としての存在というより、俺個人の方向性とかモチベーションの確立をサポートしてくれる人であるらしい。
 調査結果に対する日本経済新聞の解釈もそんなところだったが、そんな自分本位でいーのかな?という気は漠然とする。まあ、俺とはまったく別の理由で松岡修造を良いと思った人もたくさんいたのかもしんないが。
 
 で、『皇国の守護者』2巻の感想。今巻を最近読みなおしていたところ、前述のニュースが記憶に残っていたせいか、こんなことを思った。「新城(主人公)、けっこういい上司じゃねえ?」

 

 「新城直衛」「理想の上司」でググると、同じ感想を持った人はけっこういるようだ。
 仮に新城が会社の上司だとすると、それは前述の修造のような部下のやる気や能力を積極的に引き出すタイプではなく、個人で強烈なビジョンを持ち、自らの描いた目的に向かって周りを引っ張っていくタイプのリーダーになるだろう。
 
 課長 新城は冷徹で手段を選ばず上のことも無能な奴は基本ナメているので、結果は出すが社内からは疎まれ商売敵からは超嫌われている。
 ただ、自分の部下のことは大切にするのだ。適材適所を見抜く能力も高いし、部下の貢献を見逃さない。今巻を読んでいてこんな場面があった。
 

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 敵軍を強襲する新城たち。部下の名もなきモブが、敵が射撃の準備に入っていることを発見し、新城に伝える。新城は大げさな言葉をかけるのではなく、ただその背を叩いてモブを褒める。
 俺の三下根性が、モブに共感してやまない。これまでの戦闘で華々しい成果を示してきた新城のチームに貢献できた喜び、そのリーダーに評価される充足感…。
  俺も評価に飢えてるんだろうな。『王様たちのヴァイキング』で坂井大輔が、自分の提供したサービスが世間に認められたときの気分を表現した「便利って言葉は麻薬だよ」ってセリフが、この歳ですごく理解できる…。
 
 俺の話はおいといて。そう、課長 新城はいわゆる暴君ではない(もっとも、新城が部下に気を遣うのは人心掌握の術であることが多いのだが)。けっして優しくはないが、残業続きの部下をきわめてスマートにねぎらう。部下と話し合ってプロジェクトを先に進めるタイプではないが、リスクと責任は自分が負う。行く先々で成果を出す新城の人事を、社内全部が注目している。
 
 「お前、今度の課長あの新城さんだろ」
 飲み屋で三杯目のハイボールを傾けながら同期が言った。
 「ああ」
 そういってモツ煮豆腐の皿をさらう俺は、参ったよ、なんて不安そうに笑いながら、どこかその表情に期待の色もにじませているのだった。やがてやってくる波乱の、しかし充実した日々…。
 ただ、悲しいかな課長 新城もいつかは他の課に移るのだ。あるいは俺が異動する。
 新しい上司は以前新城にこてんこてんにメンツを潰されたことで社内でも有名な若菜次長である。心はまだ新城の部下のつもりで、過去の話を知っていることもあり若菜次長にどこか侮りの気持ちを抱いている俺。
 しかし、ある日たまたま二人残って残業をしていた夜のこと、
 「最近頑張ってるな」
 唐突に次長から声をかけられる。
 「いえ、そんなこと…」
 「謙遜するなよ。…やっぱり違うな、新城の部下は」
 どう答えていいかわからず黙っている俺に、若菜次長は続けた。「どうだこのあと。一杯」
 はるか年下の俺に媚びるような笑顔に、軽蔑と同情の混じった感情が浮かぶ。行きたいとは思わない。しかし小心者の俺は、そこで断ることができず、はい、とうなずいていた。「いいですね」そう答える胸の内で、新城を上司に迎える前の安定と退屈の日々がまたやってくるのを感じながら…。
 なお、作中の若菜大尉は作戦中に新城に見捨てられて戦死している。
 
 まあ、誰が上司だろうと、本人の意志が弱くちゃどうにもなんないぜ、という話だった。あれ?
 
 2 巻では、敵軍〈帝国〉との初戦で潰走した新城たち〈皇国〉軍が、追撃してくる相手に本格的な反撃を開始する。敵の進軍を止めるために新城が張っていく策は、ときに新城自身「愚劣」と呼ぶようにせせこましく、ときに自国民さえ犠牲にして残虐だ。得るため、生きるためではなく、題名どおり守護者として何かを守るための、それも守るべきものを一つひとつ諦めながらの戦い。その行方を見守りたいと思う。続きは3巻の感想で(『皇国の守護者』3巻の感想、あるいは軍人とJKの共通点について - 惨状と説教)。

 

皇国の守護者 (2) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

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