はじめに
評価は次のように行います。
まず、総評。S~Dまでの5段階です。
S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。
A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。
B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。
C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。
D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。
続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。
☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。
◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。
◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。
最後に、あらためて本全体を総評します。
こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。
総評
A。
福澤徹三作。2019年刊行。
日常で出くわしたささいな怪異が集まった全40編。奇をてらった話、大げさな話はほとんどないと言ってよく、体験者が語る不気味な体験を、ただ淡々と書き起こす、といったかたちで進行していく。
文章は上手い。たぶん、超上手い。
なんというのか、自分の書いている怪談に劇的なところがないことを理解しつつ、そのことをまったく恐れていないというか、それでいて、話の終わりに少しだけ身をのり出してきて刺してくるような、そういう文を書く人だと思う。
各作品評
あらためて、総評
「気のせい」。この本の怪談の多く、いやほとんどが、この言葉で片付けられてしまうだろう。
ちょっとした感覚の迷い。偶然をあまりにネガティブにとらえすぎている。…そう考えながら読んでみれば、大半の話に説明がつく。
それがクセモノだと思う。
科学的、というと大げさだが、現実的な理由で説明がついてしまうがゆえに、実際にそういう話がこの社会のどこかで起きていたことを、誰も否定できないのだ。
「気のせいだよ」、「考えすぎだよ」。そう口にしたとたんに、実は、話自体は作り物ではなく、実在するということを認めてしまっている。
読み続けているうちに、頭の中に嫌なものがどんどん溜まっていく。ゆらゆらと澱が沈んで濃くなっていくように不安な気持ちになっていく。
実話を謳う怪談で、オバケがどれだけ暴れて大勢の人間を呪い殺そうと、「あんた(作者)、なんでそんなウソつくの?」と鼻で笑ってやればすべて終わりだ。
そんなに人が死んだってんなら、証拠の一つでも持ってこいよ、と。俺は実話怪談のファンだが、そうやって冷たく言い放ってやりたい話をたくさん見てきた。
しかし、「気のせいじゃない?」と言うしかない怪談に、その手は通用しない。
ただ、じわじわと不安になっていくだけだ。こういう本の作り方もあるんだな、と感嘆している。
『傘をさす女』について。この話に限らないが、展開としてはベタな作品が多いのだ。それがなんで、こんなに嫌な感じがするのか…(褒めてる)。
なんというか、この人の怪談って、話の重点が恐怖以外のところに少しだけズレてる感じがするんだよな。
怖さを表現するっていうより、実際に起きたことをあまさず描写しようっていう、静かな鬼気みたいなもの。それが秘訣っぽいというか、かえって恐怖を生んでいる…気がする。
第29回はこれでおわり。次回は、『恐怖箱 祟目百物語』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。