惨状と説教

誰か山から降りてきてほたえてから山に帰っていく記事。ブログ

『ブラックホーク・ダウン―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録』の感想について

はじめに

 なぜ今更、というのはおいといて。リドリー・スコットによる映画版ではなく、活字の方である。

 あるきっかけで手に取ったところ、これがめっぽう面白く、感想を書かずにいられなくなってしまった。

 

作品の舞台

 アフリカの崩壊国家として悪名高いソマリアが舞台ということ、ブラックホークと呼ばれるアメリカ軍の戦闘ヘリコプターが戦闘中に撃墜されたことなどが有名な内戦だと思う。

 いくつか補足すると、これに先立って起こった隣国エチオピアとの戦争が背景にあり(オガデン戦争)、敗戦によってソマリア国内の窮乏を生じさせたにも関わらず権力に固執したバーレ大統領に対し、反政府勢力が蜂起し大統領を失墜させた。しかし、今度は反政府勢力内のコンセンサスが整わないうちに、事務部門の有力者(アリ・マフディ・ムハンマド)が暫定政府の新大統領を宣言、これに軍事部門のトップであるアイディード将軍が反乱を起こし、ムハンマドを首都モガディシュから追放すると、自らが都市を制圧する。これを打倒し市民を解放するため、アメリカを筆頭とする多国籍軍が結成され、国際連合から派兵された(UNOSOM2)。『ブラックホークダウン』はこの作戦の一環を題材に扱ったものであり、アイディード将軍の捕獲を目標とする作戦の顛末を描いている。

 

感想

 まず大切なことは、記録としてとてもよく整理されていること。作戦に参加したアメリカ陸軍兵士はもちろん、市街でアメリカ軍の攻撃を受けたソマリア市民、民兵に取材したと思われる情報もあり、それらが時系列に沿って展開していく。

 作戦の本番であるモガディシュ市街における戦闘だけでなく、それ以前の出来事、戦闘後のアメリカ国内の出来事が説明されているのもいい。

 モガディシュの戦闘以前にもアメリカの軍用ヘリが撃墜されていたことははじめて知った。つまり、モガディシュの戦闘=「楽勝だったはずの戦闘でアメリカがドジを踏んだ案件」として一般に語られがちだが、状況はその前から十分剣呑だったのだ。

 

 作品は、一人のアメリカ軍レンジャーが上空から市街への降下に失敗し、重傷を負う不穏な場面から始まる。敵に落下を邪魔されたとかではなく、単純な不注意でそうなってしまった。

 それが作戦全体の今後を象徴するかのように、不測の事態が戦闘中に連続する。短時間で決着するはずだった作戦で次々に負傷者が発生し、それを救出するための行動がさらに状況を悪化させていくという悪循環が始まる。

 現場の兵士たちは通信機器で基地とやり取りしているが、意思疎通は必ずしもスムーズではない。それに由来する混乱が、同じアメリカ陸軍内の認識のズレ、不和を鮮明にしていく。

 例えば、従軍している兵士には陸軍の精鋭中の精鋭であるデルタフォース(Dボーイズ)もいれば、レンジャーと呼ばれる兵隊もいるのだが、デルタフォースはレンジャーたちを必ずしも歓迎していない。戦況を上手くコントロールできない半人前だと思っている。

 このように戦場の中に不協和があるかと思えば、軍部とアメリカ本土のホワイトハウスとの間にも温度差がある。

 なにしろ、政治家はこのUNOSOM2を国家の威信にかけて成功させなくてはならない。モガディシュの戦闘で戦死者が出ないように緊張しているのはホワイトハウスも兵士たちと同様だが、その理由は、死者が出ることでソマリアからの撤退を余儀なくされることを警戒しているからで、人命を尊んでいるからではないのだ。

 戦闘中のこのようなズレは、現場にいる者からすればたまったものではないが、各々の思惑を読者として追体験する場合は、非常にエキサイティングな体験になる。手に汗握る。

 そういう意味で、記録であり娯楽でもある作品なのだが、ときどき挿入される様々な市街の光景が、もう一段階この本を上に押し上げていると思う。アフリカという土地に対する先進国の偏見、無意識の見下しが、ときどき、わけのわからないものに対する恐怖に反転して噴き出している。

 総体では、これはやはりものすごい悲劇だったと言える。アメリカ軍として救出するはずの市民は、政府の側について兵士たちを攻撃し、兵士たちもそれに反撃せざるを得なかった。

 結局、アイディード将軍を捕らえることもできなかった。

 要人を何人か捕縛したため、作戦が完全に失敗したわけではない。しかし、アメリカ陸軍は想定を超える被害を受け、軍用ヘリコプターに搭乗していたパイロットが殺害され、モガディシュ市街を引き回される映像が報道されたことをきっかけに形成された世論を跳ね返せず、1994年にソマリアから撤退することになる。

 ソマリアは、現在は政府軍とイスラム過激派との小競り合いの状況にあり、死者も出ている。20世紀中に兵を引き上げたはずのアメリカは政府軍の側で無人爆撃機を飛ばし、過激派の掃討を行っているようだ。このへんの事情はよくわからない。

 

 以上、よろしくお願いいたします。