『ゴールデンゴールド』4巻の感想と、「物語」の臨界を探ることについて

はじめに

 『ゴールデンゴールド 』という異次元のように面白い漫画があって、3巻が出たときにこういう記事を書いた。
 で、これを書いたとき、この3巻で作品としてのタメの時期は終わりかな、と思っていた。ここまでに十分に伏線が蓄積された感があったので、ここからはそれらを矢継ぎ早に消化していく展開になるんじゃないかな、と。
 
 溜めこまれた伏線について少し話をする。
 まずこの作品には、人と富をひたすら集める力を持ったフクノカミという超常的な存在が出てくる。
 このフクノカミを中心として、登場人物同士の中でたくさんの因縁が生まれた。金銭的な利害関係もあれば、暴力的な関係性もある。主人公の女の子が同級生に抱く恋心、みたいな青春ものの要素もある。
 で、フクノカミは江戸時代にも出現しており、そのときは島に多大な被害をもたらしたらしい。過去に何があったのかは今後明かされるんだろう。
 主人公サイドは異能バトルもののライトノベルさながら、フクノカミのこの「能力」の性質を探り、その無力化を図る。
 物語はこうして、無数の思惑、謎、埋もれた歴史をはらみながら、離島、本州、さらに東京まで、舞台をまたいで展開する。し続ける。
 ここまでに揃ったものを消化していくだけで、言い方は悪いけど間違いなくこの先も面白いだろうと思ったんである。だから、これ以上新たな要素が持ち込まれることはなく、シンプルな展開になるだろうと思っていた。
 
 でも、実際はそうならないのであった。
 4巻で物語の混沌はさらに深まった。先が見えない。
 肝心なことは、ひたすら複雑になりながら、それでもただ面白くなり続けていること。
 

面白い「物語」って何かを考えてみること

 いきなりだけども、面白い物語とはなんだろうか。というか、最高に面白い物語である『ゴールデンゴールド 』の何がそんなに面白いんだろう?
 
 どんなフィクションを面白いと感じるかは当然人それぞれである。
 でも俺は、『ゴールデンゴールド 』の面白さには、万人にかなり共通した、何か絶対的な面白さの一つがあると思う。
 それで、その面白さの正体なのだが、それはつまり、作品における情報の「量」なのではないだろうか、と思う。
 
 漫画を含むあらゆる創作物は、有限の空間に詰め込まれた情報のカタマリと考えることができる。
 それで言うと漫画は、ページや本という有限の空間に閉じ込められた画と文字の集合体である。
 クリエイターとは、これらの情報を受け手に与えて、いかに相手の心を動かすかという「競技」に参加している人たちであると言える。
 さて、この「競技」にはいくつか種目があると思うのだが、その中の一つに、限られた空間にどれだけ多くの情報を詰め込めるかという「量」を競う種目があると思う。で、この競技のチャンピオンこそが、すなわち絶対的に面白い作品と呼べるのではないかと思う。
 
 「量」が多いってそんなにすごいこと?
 すごいことなんである。
 別に、手っ取り早くキャラ増やして人間関係を錯綜させ、時間軸を往復し、伏線いっぱい張ればいいんじゃね?
 実際はたぶんそんなに簡単ではないんである。
 
 なぜかというと、新しい要素が作中に投下されても、俺たちがそこに関心を惹かれなければそれはただのノイズであり、情報とは言えないからである。
 また、新しく持ちこまれた情報の印象が強すぎて古くからあった要素がかすんでしまっても、情報量の総体は増えない。プラスマイナスゼロである。
 作中にどんどん新しい要素が加わり、それに比例して情報「量」が増えていく実感がちゃんとあること、それは、作品を支えるクリエイターの構成力が図抜けているからにほかならない。
 ここで行われているのは、情報を詰め込み過ぎて作品が破綻するギリギリの臨界を探る試みであり、『ゴールデンゴールド』はその極致だと思う(同率首位はHUNTER×HUNTER)。
 
 別に、情報量が多いものは少ないものより作品として上等というつもりはないんである。
 テーブルがあって、その上に一個だけリンゴを置く。それを眺める楽しさもあると思う。
 リンゴとバナナを一緒に置いて、その色やかたちの違いを楽しむのだってありである。
 ただ、リンゴを置いてバナナを置いて蜜柑もブドウも洋梨もスイカアケビも置いて…とやっていったら、どこかの時点で普通、それは「ただのフルーツ盛り」になり、それでもまだ続くようなら興味を持ちようのない色のカタマリになる。
 それが、その後マンゴスチンもドリアンも追加されて、さらにリンゴはどこ産でどこの農場の誰が作ってこの後レモンと一緒にすりおろされてジュースになります、みたいな細かい話まで出てきながら、その意味がすべて「わかる」。
 これは受け手の理解力がすごいのではなくてフルーツを置く方がすごいのだが、このテーブルの上の果物がすべておんなじ存在感を放つ感覚は受け手自身でも驚くほどで、この感動こそ「面白さ」の一つの答えだと思うが、どうだろうかと思う。
 
 
 まったく本編に触れないのもなんなんで、4巻のハイライト。フクノカミとフクノカミを追う刑事・酒巻がついに一対一になる場面が最高でした。
 機先を制したつもりが、どす黒い底なし沼に一瞬で引きずりこまれたような感覚。すごい緊張感。そして、そこからの展開…。
 
 次巻はこの漫画のアイドルであるばあちゃんの過去編らしいので、楽しみです。以上、よろしくお願いします。