はじめに
評価は次のように行います。
まず、総評。S~Dまでの5段階です。
S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース。
A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。
B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。
C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。
D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。
続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。
☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。
◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。
〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。
最後に、あらためて本全体を総評します。
こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。
総評
A。
平山夢明作。2014年刊行(角川文庫版として)。
奇天烈なタイトルは、「顳顬(こめかみ)と顳顬の間が作り上げたような、なんだかよくわからない話」ということらしい。
平山夢明の手がける怪談のシリーズというと、「超」怖い話と東京伝説があるが、この二つのくくりで拾いきれない話を、この顳顬草紙で扱おう、というコンセプトだという。つまり、オバケとも言い切れないし、実在する人間の狂気とも違う、つかみどころのないヘンテコな話、ということである。
ヘンテコ怪談好きとしてはとても歓迎するところだ。我妻俊樹や朱雀門出、鳴崎朝寝、三雲央、小田イ輔など、奇妙な話の書き手にも多くのタレントがそろっており、各自のキャラクターがある中で、平山夢明のヘンテコ怪談がどのような特色を示すのか見ていきたい。
各作品評
あらためて、総評
オバケでもないし、人間の狂気でもない、といううたい文句のとおり、まさに「なんだかよくわからない話」がそろっている。
語り手の背景や小物の描写など、話のディテールを詰めていく技術がやはりすごい。そういうこと、あるかもな、という感覚にすんなり没入できる。
他のヘンテコ怪談と比較すると、読んでいてとてもドライな印象を受ける。
心理描写がない、という意味ではない。
なんというか、恐怖や不安感をあおって読者の顔色をうかがうようなところがないのだ。怪談の語り手が感じたことも体験したことも、事実だけをただ記している、という感じがする。
読者の共感を誘って、そこを起点にして話を引っ張ろうというつもりがあまりないのだろう。突き放したようなこの感覚は、怪談というより、今昔物語集だとか江戸時代の奇談集とか、そういうものに近い。
『予言猿』について。平山夢明作品を読むときの醍醐味に、心理が限界に達した人間がどういう行動に出るか観察したい、という暗い願望がある。
この話は悲劇だし、たぶん、猿が悪いわけじゃないだろうから気の毒なのだが、「洗い殺す」という壮絶なワードには爆笑してしまった。
『せせらぎ』について。本当に、数百年前の民話集からぽっと抜け出てきたような不思議な話。
山の中で出会った、正体不明の生物。淡々とした筆致は、「こういうことがありました」という以上のものではなく、まったく押しつけがましくない。こういう話を読むと、得した、と心の底から思う。
一つ批判しておくと、「超」怖い話シリーズではすくいとれない領域の怪談、というコンセプトなのに、ところどころ普通の心霊ものが収録されているところ。
『怖いから』『叫び』『パグ』『隣の家』なんかはがっつりオバケ出てるし、他の本に収録してくれた方が統一感としてはよかった…と、率直に言って思う。
第26回はこれでおわり。次回は、『実話怪談 毒気草』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。