『東京伝説 狂える街の怖い話』について

今週のお題「読書感想文」

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 S。

 平山夢明作。2003年刊行。

 超常的な怪異を扱った心霊系とはまったく切り口が異なる、いわゆる「人間が一番怖い」系の話を集めたシリーズ第二作(※角川春樹事務所発行のものを除く)。

 今回も狂気と犯罪のオンパレードで、読む側の精神を全編とおしてエグってくる。

 その一方で、狂ってしまった中に確かな悲哀の存在を感じる作品があるのも平山夢明の持ち味。また、いわゆる人情噺のようなものもあって上手い具合に緩急がついており、とても巧みな構成になっている。

 

各作品評

 どれも本当に最低なので(良い意味で)難しいが、特に印象に残った作品を挙げる。

 お道具…〇

 イマーゴ…◎。他の作家ではまず出てこない話。

 混ざられて…〇。シンプルにして鋭利。

 男の純情…〇

 出会い系…☆。後述。

 首…〇。後述。

 犬女…〇

 壊れるんです…〇

 スーパー・エリート…〇

 夕立…〇。惨事なのになんか笑ってしまうというか…。こっちの正気まで測られてる感がある。

 プリンのおじちゃん…☆。後述。

 万引き屋…〇

 

あらためて、総評

 二作目にありがちなパワーダウンはまったくない。

 同じ作家がてがける別シリーズである『「超」怖い話』は、純粋な怖さという点では第一作に及ばなかったが、『東京伝説』には関係なかった。むしろ前作を凌ぐと言ってよく、色んな意味で戦慄するべき傑作だと思う。

 

 『出会い系』について。東京伝説シリーズ全体を通じて見ても屈指の凶悪な話。

 サイトで知り合った女の家に行ったら怖い思いをして逃げかえってくる…。恐怖体験としてはありふれたフレームだ。

 そんなよくある話の中に、極限いっぱいまで絶望が詰め込まれている。物語の枠組みとしても、女の部屋という「物件」としても、闇がもうこれ以上入らないくらいに充満している。

 体験者の男性もどっかしらおかしくて、前半戦である出来事をきっかけに「なえてしまった」のだって、普通の感覚で言ったらこの時点で赤信号だ。

 すぐそこで逃げ出さなかったのは、まるで何かの勝負事のようだが、相手の方が完全に格上で(なんの?)、結局精神を絶望的にへし折られることになる。

 あらゆる描写に、もう勘弁してくれよ…としか言えない。ある意味、なんかの教典にしたいような作品。

 

 『首』について。途中で登場する怪奇がもうそれなりにぶっ飛んでるので、それがてっきり話としてのオチなのかと思っていたら、さらにもう一段階飛躍するという、なんだか贅沢な作品。

 

 『プリンのおじちゃん』。最終盤にこういうのをもってくる構成。これまでの作品との落差によって心を揺さぶられてしまい、まんまと平山夢明のてのひらの上、という感じがする。

 物語を水増しするような、まわりくどい言葉で虚飾するようなケレン味はない。純粋に話と文章の質が高い。それをこういう順番でもってこられたら、もう手も足も出ないよなあ、と思う。

 

 第15回はこれで終わり。次回は、『「超」怖い話Θ』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

『一〇八怪談 鬼姫』について

今週のお題「読書感想文」

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 B。

 川奈まり子作。2020年刊行。

 

 本人の体験談と取材で聞いた話の両方から構成される、全百八話の実話怪談。
 怪異を語るにあたって、各地の歴史や名跡に言及されることが多い。ものすごく怖い、ということはなかったが、史実と伝承をふまえて語られる話はそれぞれ興味深く、Bと評価した。
 
 

各作品評

 第三九話 顔振峠…〇 後述。

 第七八話 兄の左手…〇

 第一〇五話 変なものが棲む界隈…〇

 

あらためて、総評

 色々な伝承の詳細も、怪談を提供してくれた人たちについての生い立ちも、丹念に取材しているんだろうな、というのが伝わってくるようで、作者の誠実さを感じた。

 

 ところで、怪談のバックグラウンドについて文章の多くを割く作家のすべてがそうではないが、この作者の場合、それが「報告」といった印象を読み手に与えることにつながっているのではないかと思う。

 そういう文章が怪異の発生に真実味をもたらしている一方で、淡々としすぎている部分もあり、読んでいてこちらの現実が致命的に揺らぐような恐怖感が得られなかったのは、そこに理由があると考える。

 一方、そういう余計な虚仮おどしのようなものを含まないことを一冊とおして徹底したことで鮮明になっている怖さもある。

 『第三九話 顔振峠』の理不尽さ、『第七八話 兄の左手』『第一〇五話 変なものが棲む界隈』の異常さはその代表例だ。

 これが例えば、他の作家がやりがちな、いかにも恐怖感を盛り立ててやろう、という文体だったらこの怖さは伝わらなかっただろうと思う。本全体のベースとしてお話のディテールにしっかり文章量が割かれ、抑制が効いていたからこそ、な気がする。

 

 第13回はこれでおわり。次回は、『東京伝説 狂える街の怖い話』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

一〇八怪談 鬼姫 (竹書房怪談文庫)

一〇八怪談 鬼姫 (竹書房怪談文庫)

 

 

『「超」怖い話Ζ』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 B。

 平山夢明/加藤一作。2005年刊行。

 『超』怖い話シリーズ第6弾。

 同シリーズのこれまでの作品と比較すると、怪談の質は一段落ちる気がした。評価Bはやや厳しめ。平山夢明への期待と信頼ゆえだろう、と自らを分析するところ。

 

各作品評

 忠告…◯ 後述。

 糸穴…◯ 平山夢明はこういうヘンテコな話を書かせても上手い。うっかり禍々しいものと回線がつながってしまったときの「カチッ」という音が聴こえてきそうだ。
 向こう側…◯ 後述。
 ダル憑き…◯
 既視傷…◯
 忌外し…◯
 待機屋…◯ 業界を見学するシリーズとして。
 

あらためて、総評

 けっして悪い本ではないんだけど、読者を怖がらせに来てる作品にワンパターンさが目立っていた気がする。

 ① オバケらしきものと遭遇、もしくは嫌な気配を感じる → ② 逃げ出す → ③ これ以上逃げ場のない状況で、オバケがグロテスクな姿で登場、という。

 そりゃあ恐ろしい展開ではあるけど、一冊にいくつもあると食傷を感じる。

 

 一方、変ちくりんな作品には面白いものがいくつかあった。

 

 『忠告』。会話に味わいがあるのが好きな作品。

 「…じゃあ生きるよ」。生きるも死ぬもどうでもよく、説得されたから、というか、もううるせーからしょうがねえな、というか、感情の灰色のモザイクみたいなものが読み取れていい。

 

 『向こう側』。これも会話の、不穏にして軽妙なところでいい。とんでもなく変なシチュエーションだが、そういう事態になったら、まあお互いにそう言うしかないだろうな、という。

 

 で、その他、加藤一作品。こちらでも書いたとおり、加藤一の怪談とあまり相性がよくないんだけど、今回は割とハマった気がする。

 

 第13回はこれでおわり。次回は、『一〇八怪談 鬼姫』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

『宵口怪談 無明』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 A。

 鳴崎朝寝作。2019年刊行。

 

 怖い、というよりは不思議な話が多い。

 出てくる人が極端に不幸になることもなく、死んだりもしない(ふらっと行方不明、みたいなのはけっこうある)。
 描かれる怪異は、不条理ではあるが、どこか心当たりがある気がしなくもない絶妙な感じである。純粋に恐怖を求める人、ストレートにオバケに出てきて欲しい人にはウケが悪いかもしれないが、俺はこういうの大好きだ。
 
 怪談なのかどうかもよくわからない作品(ほめてる)もチラホラあり、他の作家でいうと小田イ輔に似ているというか、世界に何かエラーが起きたような、バグが生じたかのような怪奇が描かれる。
 

各作品評

 どの作品もよかった。

 灰色のファミリー…◯

 きはだ…◯
 由佳さんとユカちゃん…◯
 見つけて吠える…◯ 母親もどっか少しおかしい。話の本筋でフォローされないところでこういう違和感を挿入されると気持ち悪くていい。
 戦場の島のプリン…◯
 金木犀の香り…◯
 箪笥の赤い鬼…◯
 勘が悪い人…◯
 壁穴の向こう…◯
 木の虚…◯
 チャットブース…◯ この本はこの話が怖かった。
 パチンコ屋の女性客…◯
 そのときだけの島…◯
 バグる家族…◯
 

あらためて、総評

 小田イ輔や我妻俊樹を思わせるヘンテコな怪談。こういう話を書く作家を定期的に送り出してくれると、竹書房にあらためてお礼を言いたくなる。

 

 俺の勝手なイメージだけど、この作家の怪談が訴えてくるものには、喪失感が関わっている気がする。

 遠い昔にすでに喪われてしまい、自分の中ではとっくに折り合いをつけたつもりでいたのが、得体の知れないかたちに変態して帰ってくる(『金木犀の香り』『箪笥の赤い鬼』『そのときだけの島』)。

 あるいは、いまはまだ手が届くそこに存在するが、やがて喪われてしまうことが明らかで、まるで喪失感の前借りみたいな奇妙なことになってしまう(『バグる家族』)。

 これらは奇妙な体験ではあるが、一方で、普通の日常を送っている俺たちにもどこか身に覚えのある感情でもある。鳴崎朝寝の怪談はそういう気持ちをフックにして読む側を揺さぶってくるのだと思う。

 

 怪談という形式を使って、俺たちが普段あまり意識しない気持ちや記憶を思い起こさせているのか。反対に、そういう感情を描いて読者の共感を得ることで、怪談としての質を底上げしているのか。あるいはその両方か。

 いい作家さんだと思う。いまのところ、この『宵口怪談 無明』しか刊行されていないので、続刊を期待している。

 

 これで第12回はおわりです。次回は、『「超」怖い話Ζ』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

宵口怪談 無明 (竹書房文庫)

宵口怪談 無明 (竹書房文庫)

 

 

『方違異談 現代雨月物語 』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 C。

 籠三蔵作。2020年刊行。

 

 霊だけでなく、妖怪、果ては神仏まで、人外の存在がはっきり登場する怪談が特徴。話によってはそういう者たちとの会話が描かれることも。

 寺社仏閣での作法に詳しい作家さんのようだ。民俗学的な小咄もときどき挿入されている。

 この作品はkindle unlimitedで読めます。

 

各作品評

 なし

 

あらためて、総評

 率直に言うと、最初読んだときの印象はすごく悪かった。

 なにしろ、怪異があまりにも堂々と登場しすぎて、場合によっては登場人物と長々と会話を始めてしまう。

 「実話怪談」の醍醐味である、オバケが出る直前の緊張感を楽しむ感じとか、現実の道理がほとんど通用しない世界に放り込まれた感覚とか、そういうものはまったくない。

 ここで登場する神仏も妖怪も、完全に読み手の想像が及ぶ範疇でしか動かない。それでいて登場人物の方は変に必死だったりするので、緊迫してるんだかそうでもないんだか、そんなギャップを抱えながら読むのがつらかった。

 あとは、作者本人も出てくる霊能者たちも、普通の人間を一方的に遠ざけて見ている感じがして、それもあまり快くない、と感じたのを覚えている。

 

 ところが、感想を書くにあたって読み直したところ、今度はちゃんと読めたのである。

 おそらく、少し時間をおいたことで、本に対する期待の持ち方が変わったのだろう。俺が好きな他の作家を読むときのように触れて、評価しても、それはかみ合わないな、と考えたのだと思う。

 あらためて見直せば、話の描写はしっかりしているし、民俗学や祭祀についてためになりそうなことも登場する。

 そういう点では、「実話でもなんでもなく、いま考えて書いてるだろ?」と言いたくなったこれとは全然違う。

 

 結局、「実話怪談とはこうあるべき」というのは俺の、個々人の趣味に過ぎないし、作者本人が心霊にどういうスタンスでいれば好もしいか、というのも、俺が勝手に言っているだけなので、それと異なっているからといって悪いことなんて全然ない。

 いまの気持ちとしては、読んでみては、と未読の方にあらためて言える本ではあると思う。

 

 一つだけ批判するとすれば、文章が冗長すぎると感じた。

 言葉がくどすぎて、進んでいって欲しいところになかなか進まなかったり、ときどき変なところに方向転換してしまう、そういうもどかしさを読みながら抱いた。まあ、これも好き好きに過ぎないけども。

 

 第11回はこれでおわり。次回は、『宵口怪談 無明』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

方違異談 現代雨月物語 (竹書房怪談文庫)

方違異談 現代雨月物語 (竹書房怪談文庫)

 

 

『「超」怖い話Ε』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 B。

 平山夢明/加藤一作。2005年刊行。

 「超」怖い話シリーズ第5弾。
 これまでのシリーズと比較すると、叙情的な話が多い。リアリティをあえてややぼかした短編映画みたいな味わいがあった。
 悪い本では全然ないけど、怖さを中心に評価して総評B。このレビュー企画でBは初ですね。
 

各作品評

 各話、詳細は後述。
 片耳奴…◯
 指の日…◎
 森の奥…◯
 VF…◎
 

あらためて、総評

 今回は全体的に、怖いというより不思議な話を集めた印象。現代の民話というか。『VF』がその中で異彩を放っている。
 
 『片耳奴』について。なりゆきで入ったチョンの間で不思議な女に出会って、という話。
 あらためて大枠だけ見ると、昔話のようだ。いやらしいことはしていないのだが、女が「あること」を行ったあとの描写など、なぜかかすかなエロティシズムを感じる。
 余談だけど、もしも登場人物の性別があべこべだったら、この怪談は成立するかな、というのを考えた。女性向け風俗、ゲイ風俗、レズビアン風俗だったらどうだろう?
 別に違和感ないよな、というのが率直な感想。娼婦という存在が転化してもっとも聖なる存在となる、みたいな価値観?宗教観?って、徐々に消えていくのかもしれないな。
 
 『指の日』。すごく好きな話。
 若いカップルがいて、うまく言葉にできない心地よさを感じる相手だと、お互いにそう思っている。でも、そんなあやふやで将来の展望もない関係が永遠に続かないこともわかっている。
 結局、二人は別れてしまう。リアルだけど少し地に足がついていない微妙な関係が終わるとき、ある出来事が起きる。
 その現象は、女性の指にまつわる異常事態であるとともに、結婚という現実的な将来とも結びついていた。怪異が起きるので、話としては怪談。でもそれだけじゃなく、結局うまく言えない話。
 
 『森の奥』。招かれてるんだか、全然違う別のメッセージなんだか。
 大きな破滅を迎えたわけでもないのに、「予感」だけで恐怖を描けるのは平山夢明のすごさだと思う。
 
 で、『VF』である。
 まずひとつ告白させてもらうと、平山夢明に比べて、俺は加藤一の怪談とあまり相性が良くない(余談だが、今回のΕから各話の作者が誰か表でわかるようになった)。
 理由は、怖がらせようとしてるのに空振りしてるのか、はじめから「恐怖」ではなく「奇妙」の方に照準が合ってるのか、いまいちわからない話が多いからだ。
 しかし、この『VF』は明らかに読者を殺しにきてるし、その意志に伴う攻撃力があると思った。
 暗闇の描写もいいし、友達が壊れていく過程は心にクるものがある。親切だけどどこか突き放したみたいな霊能力者のコメントもうまく効いていた。
 
 第10回はこれでおわり。次回は、『方違異談 現代雨月物語 』を紹介します。評価はからいです。すみません。ぶっ叩くかどうかは冷静に考えてから決めます。
 以上、よろしくお願いいたします。

『東京伝説―うごめく街の怖い話』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 〇…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

 では、本編に入ります。

 

総評

 S。

 平山夢明作。2003年刊行。

 

 超常的な怪異を扱った心霊系とはまったく切り口が異なる、いわゆる「人間が一番怖い」系の話を集めたシリーズ第一作(※ 竹書房として。厳密には、それにさきがけて角川春樹事務所から別の作品が出てます)。

 狂人、犯罪、裏社会を含むディープな専門職、生理的に不快なものが目白押し。ゾッとさせられる一方で、風俗業やブルーカラーの人たちへの丹念な取材が見られ、この本ではじめて知って感心させられることもあった。ダークで背筋が冷える社会科見学、でもある。

 また、怖かったり嫌な気持ちになる一方で、人間が壊れてしまう背景に、どこか悲哀を感じさせるものが多いのも特徴といえる。

 

各作品評

 どれもよかったので、特に印象に残ったものだけを挙げる。

 素振り…◯。

 サイコごっこ…☆。

 ビー玉…◎。

 フラスコ…◎。

 

あらためて、総評

  2020年に読み直しても古臭い印象はない。怪異には興味がなくても、人間の闇には関心がある…そういう怖いものみたさを抱える人に、あらためてお薦めしたい。

 

 『素振り』。トップバッター。明らかに正気じゃない何者かがいきなり侵入してきて…という、「東京伝説」の黄金パターン。

 後の作品に比べれば、実害はまだおとなしい(これでおとなしいというのもマヒしてる感があるが)。

 しかし、異常事態が起きている現場の緊張感、部屋にこもった汗の湿気みたいなものは、淡々とした筆致からもひしひし伝わる。

 平凡な舞台、誰でも巻き込まれうる状況。一瞬で沸騰する、緊張と絶望感…。あえてこの作品でシリーズの幕を切った平山夢明の自信を感じないでもない。

 また、加害者以外の登場人物(隣人の工員、アパートの大家)が、狂っているとは言わないがまともでないところもいい。

 「東京伝説シリーズ」において、事態を止めるべき第三者がまったく無関心である、というのは重要な要素だ。

 

 『サイコごっこ』。はじめて読んだのは高校生のとき。

 語り手と年代がかぶっていたこともあったのだろう、バチン、と衝撃を受けた。言葉というツールは、意識を形成するだけでなく破壊して無効化する方にも作用することがある。それを知ったときの感覚が、20年近く経ってもまだ俺の中に残っている。

 

 『ビー玉』について。心霊系の怖い話だと、幼児は「役に立たない情報をくれる目撃者」か「被害者」、どちらかの役目を担うことが多いが、この話では主役として、その心の動きが重要なキーになっている。それが面白いと思った。

 

 『フラスコ』。読者の精神を破壊しにかかっている話。殺意枠(※ 俺が勝手に分類している、一冊の怪談本の中で、とにかく読者を怖がらせる役目を負っている作品のこと)と言っていいと思う。

 生理的に不快なのは当然だ。でも、このなんとも言えない読後感は、やっぱり悲哀の影響が大きい。

 巨大な恐怖や絶望感にもの悲しさを含ませるのは平山夢明の真骨頂。今回は、物悲しさと不快感が等量に混ぜ合わされ、巨大なカタマリとなって読む人の頭に落下してくる感じだった。

 

 第9回はこれでおわり。次回は、『「超」怖い話Ε』を紹介します(「Δ」が飛んでるのは手元にないからです…)。以上、よろしくお願いいたします。