『忌印恐怖譚 めくらまし』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 S

 我妻俊樹作。2018年刊行。

 

 俺の大好きな怪談作家、我妻俊樹。今日から始まる我妻俊樹祭り、第一弾の『忌印恐怖譚 めくらまし』である。

 怪異であることは間違いないが、オバケであるかと聞かれるとわからない、ヘンテコな怪談。

 理解不能なようでいて、読者の抱えているうす暗い記憶や感情を見透かす我妻俊樹の怪談は、メチャクチャなはずなのに「わかってしまう」。

 この「わかってしまう」という感覚を人質にとって、読み手を異界にいざなう、そういう作家だ。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 タクシー待ち…◯
 ヤマシタさん…◯
 小さい傘…◯
 石の音…◯
 石碑…◯
 壁の顔…◯
 浮かんでいる八百屋…◯
 黄色いエレベーター…◯
 家…☆。後述。
 斎場行き…◯。後述。
 視線…◯
 借りた本…◯
 布団…◎
 密告…◯
 表札…◎。後述。
 七不思議の家…◎

あらためて、総評

 絶品だよな。こんなの。
 うっすらと凶悪でさえある。
 奇妙な出来事ばかりでめちゃくちゃやっていて、あまりに人を食っているのに、読んでいる側の本質をいつの間にかつかんでいる。
 
 我妻俊樹の文章は端正だ。端正で、陶器のように冷たい確かな手触りがあって、ある瞬間、びし、とそこにひびが入る。
 ひびの暗い奥に色々なものが見える。自分の人生がダメになってしまった後悔とか、親しいはずの相手への疑念とか、自分の薄っぺらさに対する不安とか。
 そうした感情は、人間が理性的な生き物として立っているときに自然とはらんでしまったもので、理性の陰のようなものだ。
 我妻俊樹の怪談は、その暗い感情を使って読み手をつかまえる。文章と描き出される世界が理性的であるほど、そこに生じた裂け目は深く、奇怪で、魅力的になる。
 
 『家』について。郷愁というには苦すぎ、成長というには後ろ向きな感情。喪失というには、そこにあったものが定かではない。
 あいまいだけど、読み手の中にも確かに覚えがあり、奇談のはずのこの話に、なぜか少しだけ、自分の子供の頃を思い出す。すごい傑作。
 
 『斎場行き』について。ヘンテコ話…のはずが、なぜか夫婦喧嘩がオチになってしまう。
 それがいいのだ、と思う。怪異をフリと見なして、恐怖ともなんとも関係ないところにしれっと着地してこそ、本当の怪談、みたいなことを思っている。
 
 『表札』について。ものすごく俗な風景で全然荘厳じゃないはずなのに、なぜか神話的な雰囲気さえ漂っている。
 なんというか、元々はあいまいでもよもよした不明確な在り方をしていたものたちが、名前を与えられたことで明瞭になり、それぞれ分かれて歩き始めた、というか。
 最後もなにやら微笑ましい。せっかく自分たちの名前のための表札が手に入ると思ったのに、もらえないのか…という落胆が伝わるようだ。

 

 第34回はこれでおわり。次回は、『忌印恐怖譚 くちけむり』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

忌印恐怖譚  めくらまし (竹書房文庫)

忌印恐怖譚  めくらまし (竹書房文庫)

 

『都怪ノ奇録』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 B

 鈴木呂亜作。2018年刊行。

 

 非常に特異な作品で、題材はオバケではない。陰謀論UMA、あり得ないような偶然など、いわゆる都市伝説がテーマになっている。
 そういうわけで、怪談レビューの企画で扱うのは少し悩んだのだが、まあすでに紹介してきた東京伝説シリーズもオバケは出ないし…。何より竹書房怪談文庫から出てるし…。
 というわけで、ありと判断しました。面白いしね。SCPとか好きな人にも刺さるはず。
 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

  夕立魚…◯。後述。

 幽霊戦は今日もさまよう…◯。幽霊船×UFOという、ウニいくら丼みたいな話。

 シケイダ…◯。有名な、いわゆるネットロア。まだ知らない人はめっちゃ楽しいはず。

 電車事件簿…◯

 運命…◯

 メッセージ…◯

あらためて、総評

 オバケを除いたオカルトの全方位攻撃という感じで、もはや贅沢品の感さえある。

 エンタメ路線にふれていないところも好印象で、テレビ地上波とかユーチューブで観るのとも違う、ややアングラな空気感がいい。飲み会で披露してもたぶんウケない方の都市伝説。

 

 一個批判しておくと、 この本のパターンとして、

 ① ちゃんとソースがある逸話の紹介+「では、こういう噂を知っているだろうか」

 ② 「皆さんは、こういう噂を知っているだろうか」+それもあながち嘘とは言いきれない、なぜならこういう逸話があるから(これはソース付き)

 という形式が多くて、俺、あんまりこれ好きじゃないんだよな。

 

 前回の記事でも書いたけど、こういう組立て方って、綿密に取材しているようでいて、けっこう疑わしいところがある。

 しっかりソースがある都市伝説を下敷きにして、似たような話を自分でこしらえて、両方を抱き合わせにして提出してるように見えるんだよな。

 これ、一方はちゃんと出典が提示されているため、ぱっと見では全体が信用できるように見えるのがズルい。実態は話をカサマシしている(かもしれない)わけだから。

 そこんところ、本当は全てのエピソードの出所を開示してもらわないと、疑わしいのは消えないよ? と俺は思う。

 

 そういう意味では、むしろまったく出典のない話の方が好もしくて、『夕立魚』はとてもよかった。俺がデカい水棲生物好きなのもあるけど。

 あと、『メッセージ』は最後、日本語が出てこないことを思わせぶりに書いてるけど、俺は別に違和感なかった。

 だって日本語の話者なんて世界に特別多いわけではなく、母語としてしゃべる人口でも世界9位第二外国語として扱う人たちも含めて統計し直したら15位だ。

 これが、もしも英語や中国語が出てきてなかったら不思議だし、なんなら現行でそこまで規模のないヘブライ語スワヒリ語が登場していることも奇妙だが、日本語がそこにないことに、特に不思議はない。

 単に、優先順位としてそこまで高くなかった、と考えるべきだろう。こういうこじつけがときどき見えるのは、少し自らの格を落としている気がする。

 

 第33回はこれでおわり。次回は、『忌印恐怖譚 めくらまし』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

都怪ノ奇録 (竹書房文庫)

都怪ノ奇録 (竹書房文庫)

 

 

『怪談社書記録 闇語り』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 A。

 伊計翼作。2020年刊行。

 

 各怪談のスタイルの豊富さが印象的だった。
 オーソドックスな散文調のものもあれば、会話主体のものもある。長いものもあれば短いのもあり、変化球的な表現もある。
 色々な意味で、読み手の意表をつくことに重点が置かれている感じがする。個人的にはそういう作風、あんまり好きじゃないんだけど…細かいことは「あらためて、総評」で書きます。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 聴こえない…◯
 目玉がない…◯
 灯せない…◯
 採ってない…◯。後述。
 異常はない…◯
 来てない…◯
 どれかわからない…◯
 一滴もない…◯

あらためて、総評

 悩ましい。悩ましいけど、よかった。そう言うしかない。
 この作風、ここまで来ると落語とかショートショートの雰囲気が漂っていて…何が言いたいかというと、あんまり実話っぽくない。
 
 実話怪談なのにそれじゃダメじゃんこれとかこれと同じじゃん、ということなのだが、少し痛快なのは、書いてる側もそれを別に隠してない感があるところ。
 なんというか、そもそも、実話かどうか信じさせる勝負から、公然と、半分降りている気がする(俺の印象ですよ?)。
 そのため、つまらない本のように書き手のスキルが足りないのを棚に上げ、にも関わらず、これでも読者は実話だと受け取るでしょ、みたいな甘ったれた不快感があんまりない…。それを、嘘くさいとか、「お前いま考えて喋ってるだろ?」とか責めても仕方ないよな、という。
 そういう印象の本を実話怪談としてどう評価するか。それが悩ましいと言った理由で、少し考えたんだけど、面白かったので…。
 まあ、個人の感想です。批判は受け付けない。
 
 『採ってない』が特によかったですね。読者として怪談にふかく浸かってる人ほど足元を取られる感じで。先達の文献をさらっと引いてくるところもニクい。
 そもそもが実話かどうかあやしい雰囲気の本なので、これも邪推すれば、本当にあった話の添え物として似たような古典を紹介しているんだか、あるいは、実は古典をベースに似たような話を創ってから、さも「昔の怪談にもこういうものがありまして…」という体裁で持ち込んでいるんだか、わかったもんじゃないけども。実は、鈴木呂亜という都市伝説を主に扱う作家にも俺は同じことを思っているが、これは余談。

 

 第32回はこれでおわり。次回は、せっかくなので上でも触れた鈴木呂亜の『都怪ノ奇録』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

怪談社書記録 闇語り (竹書房怪談文庫)

怪談社書記録 闇語り (竹書房怪談文庫)

  • 作者:翼, 伊計
  • 発売日: 2020/05/28
  • メディア: 文庫
 

『現代怪談 地獄めぐり 業火』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 C。

 ぁみ/いたこ28号/壱夜/神薫/夜馬裕作。2020年刊行。

 

 実話怪談という本としての形式よりも、語りの方でよく名前を見かける面々(神薫除く)による作品。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。

各作品評

 なし。

あらためて、総評

 C。からく評価した。
 その一方で、語りなら…「読ませる」ではなく「聴かせる」なら、もっと映える話なんだろうな、という感じがあったのも事実で、これは書き手が本業は怪談師、という面々だからか。ただ、あくまでこれは文章作品なので、文面としての印象から評価する。
 
 全般的に、不安さも(良い意味での)不快さも、もう一つ残らない話が多い。原因としては、どの怪談も冗長な感が否めないところにある気がする。
 長いは悪い。おそらく、とても高い文章力が求められはするが、余分な文言がなければないだけ、必要な言葉だけで書かれていればそれだけ、劇的な恐怖がなくても、怪談は怖くなるし不気味になる。
 その辺はやっぱり、「語る」がメインの人と「書く」がメインの人のテンポの違いなのかな、と思うけど、邪推かも。唯一、神薫の怪談には文章としての実話怪談らしい言葉の「詰め方」を感じたが、それでもまだ長すぎたかな、という気はする。
 
 一点、今回の本のある作家の怪談によく見られた傾向について意見を書いておく。
 俺は、実話怪談において「夢」と「見える人」の二つは飛び道具だと思っている。
 登場させるのが邪道とまでは言わないが、どちらかと言えば、出てくると冷めることが多い(個人的には)。
 中にはよっぽど上手く扱って、かえってその話における素晴らしい雰囲気づくりにひと役買う場合もあるが、いずれにしても大切なポイントは、あくまで添え物であるということ、「夢」や「見える人」によって怪異の不可解さを解決してはいけないということである。
 しかし、この本のある作家の怪談の多くは、話を展開させるうえで「夢」と「見える人」に頼りすぎている。あくまで個人的な好き好きなのを承知で言うが、そういうのは好かないので、ここに書いておく。
 

  第31回はこれでおわり。次回は、『怪談社書記録 闇語り』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

現代怪談 地獄めぐり 業火 (竹書房怪談文庫)

現代怪談 地獄めぐり 業火 (竹書房怪談文庫)

  • 作者:神薫
  • 発売日: 2020/06/27
  • メディア: Kindle
 

『恐怖箱 祟目百物語』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 B。

 加藤一/神沼三平太/高田公太/ねこや堂作。2020年刊行。

 

 題名のとおり、全100話の怪談が収録されている。たいてい、実話怪談の本というのは一冊あたり40話前後なので、かなり多いことになる。

 話の数が多い分、一話あたりは短い。短い話でインパクトを出そうとすると、やたら変則的な文章を書いたり、無理やりのどんでん返しに頼りがちだが、この本では、これこれこういう怪異がありました、という体裁できれいにまとまっている印象。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 題名のあと、▲…高田公太、●…ねこや堂、◆…神沼三平太
 
 誰よりも高く跳べ! ▲…◯
 地下一階 ◆…◯
 ラビリンス ▲…◯
 カメラおじさん ◆…◯
 河原町 ◆…◯
 山小屋 ◆…◯
 水音 ◆…◯
 向かいの乗客 ●…◯
 親子連れ ◆…◯
 共同溝 ◆…◯
 虎柄 ◆…◯
 おみやげ ◆…◯
 ウッドデッキ ◆…◯
 お客さん ◆…◯
 

あらためて、総評

 よかった 。特に神沼三平太が良い話を持ってきている。
 

 総評でも書いたが、ページ数の少ない怪談で読者に強い印象を残すのはかなり難しくて、どうしても変化球的な表現に頼りがちになってしまう。

 俺はそういう作品の見せ方がすごく嫌いなので、もしもそんな話ばっかりだったらこっぴどく批判してやろうと思っていた、のだが。

 実際は、なんだかほとんど「割り切った」ような抑制の利いた作品が多く、それがかえって、うまく本の中にひたらせてくれた気がする。

 

 一点、批判というほどじゃないけど思ったことを書いておく。

 作品の傾向として主に二つある気がしていて、写実的・現実的に細部を書きこんでいく怪談と、表現をぼやかし、あえて現実性を薄くした怪談があった気がする。

 これは、どんな怪異が起きたか、ということでない。文章の書き方の話だ。

 例えば、主語を省略したり、風景描写をあえて削って書くと、どことなく現実感のぼけた、夢っぽい印象の作品になる。

 これ自体が良い、悪いということではない。ただ、読んでいてどうも、二つの怪談のタイプが調和していなかった気がする。きっちり細部を詰めた写実的な怪談のあとに、夢見心地のぼやっとした文の怪談がくると、少し戸惑う。

 うまいこと、双方が完全に引き立て合う編集方法はあるのかな。

 俺はかっちり現実的な怪談の方が好きだけど、色んな文体・作風があることはわかるし、そこの調和がとれれば、一冊の本としての可能性はもっと広がるだろう。けっこう重要な課題である気もする。

 

 第30回はこれでおわり。次回は、『現代怪談 地獄めぐり 業火』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

2020年9月のブックマーク ④について

 員限定の記事なので途中までしか読めていないが、インフラに…もはや生活家電になりつつあるじゃないか…switchは…。
 今日では、スマートフォンタブレットなどハードとしてのライバルも多いし、ソフトの多様さも、以前とは比較にならない。
 俺らの暇な時間の奪い合いはますます苛烈に熱を帯びているな、と思いつつ、やっぱりハンパねえ数字だと思う、2,500万台の追いswitch。
 
 命体が排出してる物質(ホスフィン)が金星で見つかったぜ、金星ではホスフィンはすぐ壊れるはずなのに残存しているんだから、生命体が見つかる期待があるぜ、という話(注:意訳)。
 引き続き注視。地球外惑星で生命が見つかったら、世の一神教は教義をどう修正するのだろう、と思う。
 
 ートはいつも、俺たちのハートをガッチリつかまえる。
 俺たちはマジメにプレイしてるのに許さねえ、って処罰感情に加え、当然無視できないのはうらやましさ。
 単に普通はお目にかかれないめちゃくちゃなプレイも魅力的だ。常識とされた風景が壊れるのが見えるところ。
 二次元も現実世界も、俺たちの気持ちを逆撫でし、惹きつけるものの本質は一緒だ。そして、そんなズルッコに対抗する試行錯誤も、同じくみんなを熱くさせる、ということでブクマした。
 

  宿に、行きたい。

 最高のコピー。
 この広告が打たれた時点ではまだ可能性に過ぎなかったものの、大坂なおみには近い将来にグランドスラム優勝を実現する未来があり得たし、それは確かに現実となった。
 偉業への期待、あるいは希望を考えると、あまりにも状況と噛み合ってない惹句と言えるが、じゃあどんなシチュエーションならぴったりハマるかというと、正直思い浮かばない。
 原宿に、行きたい。
 この言葉で表すべき状況などこの世にはない。
 この世界線には早すぎたコピーだと言えるだろう。素晴らしい。
 
 そらく彼が死刑回避することはないだろう。彼はほぼ確実に、日本国の死刑制度によって殺されるだろう。
 死が決まっているから、こうもあからさまなのだろうか。まったく違うルールに従って、我々とは別の基準で言葉を口にしているように見える。
 あるいは、はじめから「ルール」が違うのだろうか。それが犯罪の根本にあるのだろうか。
 言葉の忌まわしさよりも、その薄っぺらさの方が俺は怖い。彼が、自分の思考の貧相さを蔑まれることをまったく恐れていないことが、俺には怖い。
 これまで何度か書いたように俺は死刑反対論の立場で、そのことはいつか詳しく述べるかもしれないし、しないかもしれないが、何にせよ、こういう人間のことを置いては何も考えられないだろうと思う。
 
 りあえずやってみてから考える、というチャイナスピリットあふれる話。九龍城砦等のとんでも建築愛好家の一人として心が躍った。
 

note.com

 人の体験ということで冷静に俯瞰できたのだろうな(ひどい)、自身の病状の記録をできるだけとっておくのは大事だな、と勉強になった。

 医者は合理性の職業だということがこのレポートを読むとよくわかる。

 つまり、愁訴の内容から可能性の高いところを優先して当てはめていくということだ。それが一番疑わしければ、容赦なく「心因性=身体には異常なし」と断じてしまう。

 冷徹、というわけではなく、それが、トータルでは患者のためでもあるのだろう。効率的に診断をさばいていく必要性もあるんだろうが。

 今回はそういう合理性重視の診断ではキャッチしにくかったレアケースだったらしい。結局、謎に包まれていた部分を突き崩したのは尿量の記録と、一通り調べたけどまだつらいんじゃ → 普通の視点からじゃ見つからない、というこれまでの蓄積だった。

 原因を探す過程で担当医も複数変わっており、ここでもしデータの共有がされていなかったら、解決はもっと手間取っただろう。治療は記録と共有、それを支えるのは患者の主体性、ということがわかった。

 

anond.hatelabo.jp

 ュージーランドを架空の国名にしたらそのままなんかの寓話になりそうな話。世界は広い(元増田はブログを開設されたようです)。

 

 以上、よろしくお願いいたします。

『S霊園 怪談実話集』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 A。

 福澤徹三作。2019年刊行。

 

 日常で出くわしたささいな怪異が集まった全40編。奇をてらった話、大げさな話はほとんどないと言ってよく、体験者が語る不気味な体験を、ただ淡々と書き起こす、といったかたちで進行していく。

 文章は上手い。たぶん、超上手い。

 なんというのか、自分の書いている怪談に劇的なところがないことを理解しつつ、そのことをまったく恐れていないというか、それでいて、話の終わりに少しだけ身をのり出してきて刺してくるような、そういう文を書く人だと思う。

各作品評

 どの話もよかったが、特に印象に残ったものを挙げる。
 
 失踪…◯
 先生踏切…◯
 五のつく日…◯
 一時間半の記憶…◯
 傘をさす女…◯。後述。
 辺鄙なコンビニ…◯
 たき…◯
 事故があいつぐ場所…◯
 ストーカーの写真…◯
 お斎のあと…◯
 押入れの音…◯
 ブランド品の指輪…◯
 ベランダの写真…◯
 

あらためて、総評

 
 

 「気のせい」。この本の怪談の多く、いやほとんどが、この言葉で片付けられてしまうだろう。

 ちょっとした感覚の迷い。偶然をあまりにネガティブにとらえすぎている。…そう考えながら読んでみれば、大半の話に説明がつく。

 それがクセモノだと思う。

 科学的、というと大げさだが、現実的な理由で説明がついてしまうがゆえに、実際にそういう話がこの社会のどこかで起きていたことを、誰も否定できないのだ。

 「気のせいだよ」、「考えすぎだよ」。そう口にしたとたんに、実は、話自体は作り物ではなく、実在するということを認めてしまっている。

 読み続けているうちに、頭の中に嫌なものがどんどん溜まっていく。ゆらゆらと澱が沈んで濃くなっていくように不安な気持ちになっていく。

 実話を謳う怪談で、オバケがどれだけ暴れて大勢の人間を呪い殺そうと、「あんた(作者)、なんでそんなウソつくの?」と鼻で笑ってやればすべて終わりだ。

 そんなに人が死んだってんなら、証拠の一つでも持ってこいよ、と。俺は実話怪談のファンだが、そうやって冷たく言い放ってやりたい話をたくさん見てきた。

 しかし、「気のせいじゃない?」と言うしかない怪談に、その手は通用しない。

 ただ、じわじわと不安になっていくだけだ。こういう本の作り方もあるんだな、と感嘆している。

 

 『傘をさす女』について。この話に限らないが、展開としてはベタな作品が多いのだ。それがなんで、こんなに嫌な感じがするのか…(褒めてる)。

 なんというか、この人の怪談って、話の重点が恐怖以外のところに少しだけズレてる感じがするんだよな。

 怖さを表現するっていうより、実際に起きたことをあまさず描写しようっていう、静かな鬼気みたいなもの。それが秘訣っぽいというか、かえって恐怖を生んでいる…気がする。

 

 第29回はこれでおわり。次回は、『恐怖箱 祟目百物語』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

S霊園 怪談実話集 (角川ホラー文庫)

S霊園 怪談実話集 (角川ホラー文庫)