『忌印恐怖譚 くちけむり』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 A

 我妻俊樹作。2018年刊行。

 

 我妻俊樹祭り、第二弾の『忌印恐怖譚 くちけむり』である。

 怪異であることは間違いないが、オバケであるかと聞かれるとわからない、ヘンテコな怪談。

 我妻俊樹が持ってくるそんな作品の本質を、俺は、読者の抱えているうす暗い記憶や感情とシンクロすることで、メチャクチャなのに、なぜか「わかってしまう」ことだと思っている。

 それに加え、今回『くちけむり』を読み直してみて、新しい発見があった。

 この記事ではそのことを書く。詳しくは、「あらためて、総評」で。

 ところで、2018年はこの『くちけむり』と次作の『めくらまし』、二冊も我妻俊樹の実話怪談が上梓されていた。すごい年だったのだ。

  

  この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 回転…◯。そんなんなってたら、まあ、そりゃあ無理ですよね、という。本来はそれどころじゃないのだが、よくわからない説得力がある。
 夢の家族…◯
 バイク…◯
 芋虫…◯
 人の道…◯。後述。
 夜と白菜…◯。野菜を見ていると段々人格を帯びてくるというか、人間に見えてくるというか、その感覚はなんかわかる。
 死んでるんでしょ?…◯。後述。
 蛾…◯。昆虫がわしゃわしゃに群れている様子を我妻俊樹が持ってくる怪談が好き。風景としてはおぞましいし、自意識を持ってる人間同士ではまずあり得ないのだが、それゆえそこに憧憬もあるというか。
 手首…◯
 アカブリタラツブリ…◯
 マッチョなヌード…◎
 夢の続き…☆。後述。
 腰抜け岩…◎。少年の頃の話というのがなんとも…。「尻女がいつ土中から立ち上がって襲いかかってくるかわかったもんじゃない」は名文。
 話しかけて下さい…◯

あらためて、総評

 『夢の続き』について。今回の殺意枠(その本の中で、明確に読者を怖がらせる決定打を期待されている作品)と言ってよい。

 とにかく、激烈に禍々しい。

 夢に登場する男が悪意をぶつけ、嘲笑っているのは話の体験者だが、それはそのまま、我妻俊樹と読者との関係にも置き換えられる二重の構図だ。ここまで殺る気で来てくれるなら本望。

 

 で、『人の道』と『死んでるんでしょ?』である。

 『人の道』で、体験者はある場面で突拍子もない提案をされる。

 人間というのは不思議なもので、理性と呼ぶべきか単なる認知のバグなのか、いきなりわけのわからない選択を与えられると、従うべきかどうか一瞬考えてしまう。

 そんなもの、単に無視して放っておけばいいのだが、なぜかそれも負担だったりして、怪異(もしくは悪意)もそのためらいにつけこんでくる。

 そして、『死んでるんでしょ?』。こちらでも、脈絡のないショッキングな言葉が体験者、そして読者に襲いかかってくる。

 これも人間の奇妙なところで、どれだけ支離滅裂な言葉のパターンであっても、俺たちはそこに何かの意味を読み取ろうとしてしまう。

 その動機が「理解したい」なのか、「相手に反論したい」なのかわからないが、人間はそういう反応を取ってしまいがちなのだ。言葉というものに関して、そういう風にできてしまっているのである。

 シュールレアリスムにもそういう機能を利用した技法があるが、俺は我妻俊樹も、自らの怪談で似たようなことをやっていると思う。

 読み手のどういう感情、自己嫌悪なり罪悪感なりをターゲットにするか決め、そのうえで、絶妙に「わからないけどわかる」、壊れかかったような言葉や作品をわざと投げ込んでくる。そのベースにはたぶん、言葉と人間をめぐる洞察があって、この人はそれを武器に使っているのだ。

 『くちけむり』ではそんなことを思った。

 

 第35回はこれでおわり。次回は、『奇々耳草紙 憑き人』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

忌印恐怖譚 くちけむり

忌印恐怖譚 くちけむり

 

『呪術廻戦』13巻の感想について

はじめに

 今巻は波乱が頻出するので、未読の方は作品を先に読むとよい。おおいに感情を乱されるとよい。

 

感想

 あらためて13巻ですが、『呪術廻戦』という作品の魅力やコンセプトが濃縮された章になっていると思います。
 
 まず、相変わらずスピード感がどうかしていて、大変よろしいですね。
 宿儺の指をドラゴンボール的に大切に一個一個集めていくのが話の流れの一つだと思っていたら、それがいきなりベルマークのように大量に集まってしまい、宿儺、(一時的に)かなりの精度で復活、大暴れという。
 指回収、というわかりやすいロードマップを読者に示したうえで、高速でそれを巻いちゃう。いいですね。大いにやってくれ、という感じです。
 
 あと人死にですね。
 死にましたね。壮絶に。
 いくらか話が横にそれるようなことを書くんですが、みなさんは漫画で読者をびっくりさせる一番簡単な方法はなんだと思われますか?
 俺は、重要なキャラクターを突拍子もないタイミングで死亡させることだと思います。例えば、『スラムダンク』の最終巻で「天才ですから」というセリフのあと、次のページで花道が爆発四散していたらメチャクチャビビると思います。
 でも、作家はもちろんそういうことを、普通はしない。
 その理由は、一つにはそんなことをして得られるもの、表現できるものが、これまで積み重ねたきたものと釣り合わないからですが、もう一つ、割と現代的な理由があると思います。
 それは、漫画というメディアに触れる読者の目がどんどん肥えてきている、あるいは、もっと悪い言い方をすれば、「読者を驚かせたろ」という作家の意図をあっさり見抜いて、寒いことすんなよ◯◯(作家の名前)、とため息をつくような嫌なやつが増えているからです。
 俺は以前、無印『BLUE GIANT』10巻についてこういう感想を書いていて、これは冷めてしまった、というような無感動ではないけれど、作者に対する、なんでこんなひどいことするの? という作品世界の裏側を作家自ら暴いてしまうことを責めるものでした。
 バトル漫画でも同じようなことは起きていて、重要そうなキャラ、強いキャラが次のページでいきなり死亡しても、最近の読者って、驚くよりも「え、こんな演出でビックリさせようと思ってるんか…」と作家に対してがっかりしてしまうところがあると思います。
 それでは、こういうスレた読み手でも驚愕できるように、「ちゃんと」「理不尽に」キャラクターを死亡させるにはどうしたらよいか。
 ありきたりな結論ですが、丁寧に作品世界を構築し、読み手を物語に没頭させるように心を配るしかない。そして、この作品世界の構築ってやつが、今巻3番目のキーポイントになります(下記)。
 
 『呪術廻戦』という作品の特色の一つに敵味方陣営の善悪がいまいち曖昧なところがあって、「悪い敵をやっつけた! 世界、平和!」みたいな読後感があんまりなかったり、釘崎がどう見ても悪役だったりする。
 この巻でもそういう印象があって、倒された仲間のことを想いながら呪術師たちを圧倒する漏瑚は、うっかりすれば「良いやつ」の方に見えます。
 両陣営の一方に肩入れすることがなく、それぞれの思惑が並び立って『呪術廻戦』はできている感じがしますが、この対立構造の真上から降ってきて全体を破壊・再構築する超暴力があります。宿儺です。
 宿儺の猛烈な強さによる恐怖の統制、というかたちで『呪術廻戦』の世界観は完成している感じがしますが、宿儺のにくいところは、個人の動機を持つ一人のキャラクターでもあるところです。
 宿儺は、作品世界の代表=作家が表現したい作家自身である一方、好き勝手に動いている単なる登場人物でもある。
 このバランスを上手くとることで、はじめて、宿儺にあっけなく殺されたキャラクターの死が作者によって都合よく用意されたものではなく、容赦のない暴力によるものだと読者は「錯覚」することができる。「作者に」ではなく、「宿儺に」殺された、と感じることができるわけです。
 おわかりいただけましたか。わからなかったかもしれませんが、俺も自分で言っていてよくわかっていない、のでしかたありません。まあ、そういうことです。
 
 いずれにしても、13巻は最高なので、みなさん読みましょう。
 余談ですが、13巻が面白すぎた単行本派が、勢いのままうっかりwikipediaを読んでは絶対にいけません。責めるつもりはないですが、どえらいネタバレが書いてあります。泣きそうです。
 
 以上、よろしくお願いいたします。

 

呪術廻戦 13 (ジャンプコミックスDIGITAL)

呪術廻戦 13 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

『忌印恐怖譚 めくらまし』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 S

 我妻俊樹作。2018年刊行。

 

 俺の大好きな怪談作家、我妻俊樹。今日から始まる我妻俊樹祭り、第一弾の『忌印恐怖譚 めくらまし』である。

 怪異であることは間違いないが、オバケであるかと聞かれるとわからない、ヘンテコな怪談。

 理解不能なようでいて、読者の抱えているうす暗い記憶や感情を見透かす我妻俊樹の怪談は、メチャクチャなはずなのに「わかってしまう」。

 この「わかってしまう」という感覚を人質にとって、読み手を異界にいざなう、そういう作家だ。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 タクシー待ち…◯
 ヤマシタさん…◯
 小さい傘…◯
 石の音…◯
 石碑…◯
 壁の顔…◯
 浮かんでいる八百屋…◯
 黄色いエレベーター…◯
 家…☆。後述。
 斎場行き…◯。後述。
 視線…◯
 借りた本…◯
 布団…◎
 密告…◯
 表札…◎。後述。
 七不思議の家…◎

あらためて、総評

 絶品だよな。こんなの。
 うっすらと凶悪でさえある。
 奇妙な出来事ばかりでめちゃくちゃやっていて、あまりに人を食っているのに、読んでいる側の本質をいつの間にかつかんでいる。
 
 我妻俊樹の文章は端正だ。端正で、陶器のように冷たい確かな手触りがあって、ある瞬間、びし、とそこにひびが入る。
 ひびの暗い奥に色々なものが見える。自分の人生がダメになってしまった後悔とか、親しいはずの相手への疑念とか、自分の薄っぺらさに対する不安とか。
 そうした感情は、人間が理性的な生き物として立っているときに自然とはらんでしまったもので、理性の陰のようなものだ。
 我妻俊樹の怪談は、その暗い感情を使って読み手をつかまえる。文章と描き出される世界が理性的であるほど、そこに生じた裂け目は深く、奇怪で、魅力的になる。
 
 『家』について。郷愁というには苦すぎ、成長というには後ろ向きな感情。喪失というには、そこにあったものが定かではない。
 あいまいだけど、読み手の中にも確かに覚えがあり、奇談のはずのこの話に、なぜか少しだけ、自分の子供の頃を思い出す。すごい傑作。
 
 『斎場行き』について。ヘンテコ話…のはずが、なぜか夫婦喧嘩がオチになってしまう。
 それがいいのだ、と思う。怪異をフリと見なして、恐怖ともなんとも関係ないところにしれっと着地してこそ、本当の怪談、みたいなことを思っている。
 
 『表札』について。ものすごく俗な風景で全然荘厳じゃないはずなのに、なぜか神話的な雰囲気さえ漂っている。
 なんというか、元々はあいまいでもよもよした不明確な在り方をしていたものたちが、名前を与えられたことで明瞭になり、それぞれ分かれて歩き始めた、というか。
 最後もなにやら微笑ましい。せっかく自分たちの名前のための表札が手に入ると思ったのに、もらえないのか…という落胆が伝わるようだ。

 

 第34回はこれでおわり。次回は、『忌印恐怖譚 くちけむり』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

忌印恐怖譚  めくらまし (竹書房文庫)

忌印恐怖譚  めくらまし (竹書房文庫)

 

『都怪ノ奇録』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 B

 鈴木呂亜作。2018年刊行。

 

 非常に特異な作品で、題材はオバケではない。陰謀論UMA、あり得ないような偶然など、いわゆる都市伝説がテーマになっている。
 そういうわけで、怪談レビューの企画で扱うのは少し悩んだのだが、まあすでに紹介してきた東京伝説シリーズもオバケは出ないし…。何より竹書房怪談文庫から出てるし…。
 というわけで、ありと判断しました。面白いしね。SCPとか好きな人にも刺さるはず。
 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

  夕立魚…◯。後述。

 幽霊戦は今日もさまよう…◯。幽霊船×UFOという、ウニいくら丼みたいな話。

 シケイダ…◯。有名な、いわゆるネットロア。まだ知らない人はめっちゃ楽しいはず。

 電車事件簿…◯

 運命…◯

 メッセージ…◯

あらためて、総評

 オバケを除いたオカルトの全方位攻撃という感じで、もはや贅沢品の感さえある。

 エンタメ路線にふれていないところも好印象で、テレビ地上波とかユーチューブで観るのとも違う、ややアングラな空気感がいい。飲み会で披露してもたぶんウケない方の都市伝説。

 

 一個批判しておくと、 この本のパターンとして、

 ① ちゃんとソースがある逸話の紹介+「では、こういう噂を知っているだろうか」

 ② 「皆さんは、こういう噂を知っているだろうか」+それもあながち嘘とは言いきれない、なぜならこういう逸話があるから(これはソース付き)

 という形式が多くて、俺、あんまりこれ好きじゃないんだよな。

 

 前回の記事でも書いたけど、こういう組立て方って、綿密に取材しているようでいて、けっこう疑わしいところがある。

 しっかりソースがある都市伝説を下敷きにして、似たような話を自分でこしらえて、両方を抱き合わせにして提出してるように見えるんだよな。

 これ、一方はちゃんと出典が提示されているため、ぱっと見では全体が信用できるように見えるのがズルい。実態は話をカサマシしている(かもしれない)わけだから。

 そこんところ、本当は全てのエピソードの出所を開示してもらわないと、疑わしいのは消えないよ? と俺は思う。

 

 そういう意味では、むしろまったく出典のない話の方が好もしくて、『夕立魚』はとてもよかった。俺がデカい水棲生物好きなのもあるけど。

 あと、『メッセージ』は最後、日本語が出てこないことを思わせぶりに書いてるけど、俺は別に違和感なかった。

 だって日本語の話者なんて世界に特別多いわけではなく、母語としてしゃべる人口でも世界9位第二外国語として扱う人たちも含めて統計し直したら15位だ。

 これが、もしも英語や中国語が出てきてなかったら不思議だし、なんなら現行でそこまで規模のないヘブライ語スワヒリ語が登場していることも奇妙だが、日本語がそこにないことに、特に不思議はない。

 単に、優先順位としてそこまで高くなかった、と考えるべきだろう。こういうこじつけがときどき見えるのは、少し自らの格を落としている気がする。

 

 第33回はこれでおわり。次回は、『忌印恐怖譚 めくらまし』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

都怪ノ奇録 (竹書房文庫)

都怪ノ奇録 (竹書房文庫)

 

 

『怪談社書記録 闇語り』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 A。

 伊計翼作。2020年刊行。

 

 各怪談のスタイルの豊富さが印象的だった。
 オーソドックスな散文調のものもあれば、会話主体のものもある。長いものもあれば短いのもあり、変化球的な表現もある。
 色々な意味で、読み手の意表をつくことに重点が置かれている感じがする。個人的にはそういう作風、あんまり好きじゃないんだけど…細かいことは「あらためて、総評」で書きます。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 聴こえない…◯
 目玉がない…◯
 灯せない…◯
 採ってない…◯。後述。
 異常はない…◯
 来てない…◯
 どれかわからない…◯
 一滴もない…◯

あらためて、総評

 悩ましい。悩ましいけど、よかった。そう言うしかない。
 この作風、ここまで来ると落語とかショートショートの雰囲気が漂っていて…何が言いたいかというと、あんまり実話っぽくない。
 
 実話怪談なのにそれじゃダメじゃんこれとかこれと同じじゃん、ということなのだが、少し痛快なのは、書いてる側もそれを別に隠してない感があるところ。
 なんというか、そもそも、実話かどうか信じさせる勝負から、公然と、半分降りている気がする(俺の印象ですよ?)。
 そのため、つまらない本のように書き手のスキルが足りないのを棚に上げ、にも関わらず、これでも読者は実話だと受け取るでしょ、みたいな甘ったれた不快感があんまりない…。それを、嘘くさいとか、「お前いま考えて喋ってるだろ?」とか責めても仕方ないよな、という。
 そういう印象の本を実話怪談としてどう評価するか。それが悩ましいと言った理由で、少し考えたんだけど、面白かったので…。
 まあ、個人の感想です。批判は受け付けない。
 
 『採ってない』が特によかったですね。読者として怪談にふかく浸かってる人ほど足元を取られる感じで。先達の文献をさらっと引いてくるところもニクい。
 そもそもが実話かどうかあやしい雰囲気の本なので、これも邪推すれば、本当にあった話の添え物として似たような古典を紹介しているんだか、あるいは、実は古典をベースに似たような話を創ってから、さも「昔の怪談にもこういうものがありまして…」という体裁で持ち込んでいるんだか、わかったもんじゃないけども。実は、鈴木呂亜という都市伝説を主に扱う作家にも俺は同じことを思っているが、これは余談。

 

 第32回はこれでおわり。次回は、せっかくなので上でも触れた鈴木呂亜の『都怪ノ奇録』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

怪談社書記録 闇語り (竹書房怪談文庫)

怪談社書記録 闇語り (竹書房怪談文庫)

  • 作者:翼, 伊計
  • 発売日: 2020/05/28
  • メディア: 文庫
 

『現代怪談 地獄めぐり 業火』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 C。

 ぁみ/いたこ28号/壱夜/神薫/夜馬裕作。2020年刊行。

 

 実話怪談という本としての形式よりも、語りの方でよく名前を見かける面々(神薫除く)による作品。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。

各作品評

 なし。

あらためて、総評

 C。からく評価した。
 その一方で、語りなら…「読ませる」ではなく「聴かせる」なら、もっと映える話なんだろうな、という感じがあったのも事実で、これは書き手が本業は怪談師、という面々だからか。ただ、あくまでこれは文章作品なので、文面としての印象から評価する。
 
 全般的に、不安さも(良い意味での)不快さも、もう一つ残らない話が多い。原因としては、どの怪談も冗長な感が否めないところにある気がする。
 長いは悪い。おそらく、とても高い文章力が求められはするが、余分な文言がなければないだけ、必要な言葉だけで書かれていればそれだけ、劇的な恐怖がなくても、怪談は怖くなるし不気味になる。
 その辺はやっぱり、「語る」がメインの人と「書く」がメインの人のテンポの違いなのかな、と思うけど、邪推かも。唯一、神薫の怪談には文章としての実話怪談らしい言葉の「詰め方」を感じたが、それでもまだ長すぎたかな、という気はする。
 
 一点、今回の本のある作家の怪談によく見られた傾向について意見を書いておく。
 俺は、実話怪談において「夢」と「見える人」の二つは飛び道具だと思っている。
 登場させるのが邪道とまでは言わないが、どちらかと言えば、出てくると冷めることが多い(個人的には)。
 中にはよっぽど上手く扱って、かえってその話における素晴らしい雰囲気づくりにひと役買う場合もあるが、いずれにしても大切なポイントは、あくまで添え物であるということ、「夢」や「見える人」によって怪異の不可解さを解決してはいけないということである。
 しかし、この本のある作家の怪談の多くは、話を展開させるうえで「夢」と「見える人」に頼りすぎている。あくまで個人的な好き好きなのを承知で言うが、そういうのは好かないので、ここに書いておく。
 

  第31回はこれでおわり。次回は、『怪談社書記録 闇語り』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。

 

現代怪談 地獄めぐり 業火 (竹書房怪談文庫)

現代怪談 地獄めぐり 業火 (竹書房怪談文庫)

  • 作者:神薫
  • 発売日: 2020/06/27
  • メディア: Kindle
 

『恐怖箱 祟目百物語』について

はじめに

 評価は次のように行います。

 まず、総評。S~Dまでの5段階です。

 S…価格、提供される媒体に関係なく手に取るべき。恐怖のマスターピース

 A…購入推奨。もしくはkindle unlimitedにあればぜひ勧める。恐い。

 B…購入してもよい。もしくはkindle unlimitedにあれば勧める。

 C…図書館で借りる、もしくはkindle unlimitedなら読んでもよい。

 D…読むだけ時間のムダ。ゴミ。(少なくとも俺には)。

 

 続けて、本の中で印象に残った作品を評価します。

 ☆…それ一品で本全体の価格を担保できてしまうような作品のレベル。

 ◎…一冊の中に三品以上あると、その本を買ってよかったと思えるレベル。

 ◯…一冊に七〜八品あるとその本を買ってよかったと思える作品。

 

 最後に、あらためて本全体を総評します。

 

 こういう書き方をするのは、初見の人に本を勧めつつ、できるだけ先入観を持たない状態で触れてほしいからで、評価が下に進むほど、ネタバレしてしまう部分も増える、というわけです。よければ、こちらもどうぞ。

 実話怪談という「本」について - 惨状と説教

 

総評

 B。

 加藤一/神沼三平太/高田公太/ねこや堂作。2020年刊行。

 

 題名のとおり、全100話の怪談が収録されている。たいてい、実話怪談の本というのは一冊あたり40話前後なので、かなり多いことになる。

 話の数が多い分、一話あたりは短い。短い話でインパクトを出そうとすると、やたら変則的な文章を書いたり、無理やりのどんでん返しに頼りがちだが、この本では、これこれこういう怪異がありました、という体裁できれいにまとまっている印象。

 

 この本はkindle unlimitedで読めます。 

 

各作品評

 題名のあと、▲…高田公太、●…ねこや堂、◆…神沼三平太
 
 誰よりも高く跳べ! ▲…◯
 地下一階 ◆…◯
 ラビリンス ▲…◯
 カメラおじさん ◆…◯
 河原町 ◆…◯
 山小屋 ◆…◯
 水音 ◆…◯
 向かいの乗客 ●…◯
 親子連れ ◆…◯
 共同溝 ◆…◯
 虎柄 ◆…◯
 おみやげ ◆…◯
 ウッドデッキ ◆…◯
 お客さん ◆…◯
 

あらためて、総評

 よかった 。特に神沼三平太が良い話を持ってきている。
 

 総評でも書いたが、ページ数の少ない怪談で読者に強い印象を残すのはかなり難しくて、どうしても変化球的な表現に頼りがちになってしまう。

 俺はそういう作品の見せ方がすごく嫌いなので、もしもそんな話ばっかりだったらこっぴどく批判してやろうと思っていた、のだが。

 実際は、なんだかほとんど「割り切った」ような抑制の利いた作品が多く、それがかえって、うまく本の中にひたらせてくれた気がする。

 

 一点、批判というほどじゃないけど思ったことを書いておく。

 作品の傾向として主に二つある気がしていて、写実的・現実的に細部を書きこんでいく怪談と、表現をぼやかし、あえて現実性を薄くした怪談があった気がする。

 これは、どんな怪異が起きたか、ということでない。文章の書き方の話だ。

 例えば、主語を省略したり、風景描写をあえて削って書くと、どことなく現実感のぼけた、夢っぽい印象の作品になる。

 これ自体が良い、悪いということではない。ただ、読んでいてどうも、二つの怪談のタイプが調和していなかった気がする。きっちり細部を詰めた写実的な怪談のあとに、夢見心地のぼやっとした文の怪談がくると、少し戸惑う。

 うまいこと、双方が完全に引き立て合う編集方法はあるのかな。

 俺はかっちり現実的な怪談の方が好きだけど、色んな文体・作風があることはわかるし、そこの調和がとれれば、一冊の本としての可能性はもっと広がるだろう。けっこう重要な課題である気もする。

 

 第30回はこれでおわり。次回は、『現代怪談 地獄めぐり 業火』を紹介します。以上、よろしくお願いいたします。