混沌の何何重奏だ。『チェンソーマン』7巻の感想について

 7巻です。早い。藤本さんなにとぞ健康に気をつけて。

 

 前巻のレゼのエピソードは、少年漫画というよりバイオレンスとスプラッタの皮をかぶった恋愛映画みたいでめちゃくちゃよかったんですが、今巻はわりとバトルが前面に出てます。あくまでバトルが前面ってだけで、全然色合いの違うトーンが同時に流れてるところがこの漫画らしいです。

 

 デンジの正体が世界中に流れて(一応秘密だったんですかね?)、ソ連のレゼと同じように、世界中からヤバい連中がデンジの心臓求めて参集してきます。7巻にして早くも世界編開幕。

 アメリカから殺し屋の三兄弟。

 中国から魔人たちを従えた徒手格闘最強の女殺し屋。

 ドイツからサンタクロースと呼ばれるマキマと岸辺も警戒する殺し屋。

 そして、どこかの雪国からトーリカと呼ばれる若いハンターとその師匠の女性(この人たちだけ出身地がわからないと思ってネットで調べたら、鋭い考察を見つけた。なるほど…)。

 

 この4組が作品にもたらしたものは…さておいて、先に二つ、今巻で明かされたものについて触れておくと、

 

地獄とチェンソーの音とデンジの心臓

 アキくんと早く付き合うとよい天使の悪魔から、デンジに関する重要な情報がもたらされます。

 この作品世界には「地獄」という場所があって、悪魔は死ぬと地獄で蘇る。そして、地獄でも死ぬと再び現世に帰ってくる。

 地獄から蘇った悪魔は、チェンソーのエンジンがかかるときの音を聴いて復活しているという。

 チェンソーマン・デンジの心臓はチェンソーのエンジンと直結しているっぽいので、色んな人たちがデンジの心臓を欲しがるのは、地獄からの悪魔の復活、ということにつながるのかもしんないです(それが悪魔の大量復活なのか、特定の何かの悪魔なのかは別として)。

 

マキマの正体について

 で、7巻に至るまで鉄壁のミステリアス・マキマさんです。

 ネタバレになるので詳しく言えませんが、7巻最後のやりとりが正義のための行動なら、マキマさんは味方とはいえないことになります。

 マキマさん自身も思わせぶりなことを言っていて、敵方の思惑として、デンジを入手できないことよりも、マキマの手のもとに置かれていることこそがマズいという。

 

 ↑ のデンジの心臓をめぐる情報と組み合わせると、

 ・世界には地獄から(大量の? 特定の?)悪魔を復活させようとする勢力があるが、マキマにはそのつもりがまったくないので、マキマがデンジを確保している限り絶対に蘇らせることができない。

 ・もしくは反対に、マキマは(大量の? 特定の?)悪魔を復活させようとしているが、準備ができていないのでいまは蘇らせられない。世界はそれを阻止しようとしている。

 

 ということになんのかな、と思いましたが、どうでしょうか。

 

まあ、ともかく

 四人組の殺し屋がデンジの心臓を求めて世界から参集します。

 すごいのは、それで起こることが単なる争乱じゃなくて、別のテイストの映画作品が4つ並行して走ってるみたいな印象を作品にもたらしてることです。

 アメリカの殺し屋たちは若者のダウナーな成長譚。

 中国のクァンシはポップで俺TUEEEE系のアクション、と思いきやハードボイルドなところも。

 ドイツの老人はサスペンスとパニック。

 トーリカと師匠は、ちょっと不思議な感覚のロードムービーみたいな。

 それが各パートごと、あるいはページをめくるたびに入れ替わります。

 

 基本のトーンはやっぱりデンジをめぐるバトルという太いラインなんですけど、それに全然隠れないで、複数の物語のジャンルみたいなものが堂々と並走している。

 色んな味わいを作品に持ち込むのはどの作家もやることだけど、見え隠れさせるんじゃなくてあからさまに同時に走らせていくってのは見た覚えがなくて、かっけーです。

 

 そういうわけなんで、みんな7巻を読みましょう。

 ちなみに、今巻で一番すごいのはパワ子です。やったことは結果オーライなんですけど、「全然良くねーよ!」という釈然としない感じがなぜか残ってすごいです。以上、よろしくお願いいたします。