俺の布団
数日前、台風が来ているのに布団を干しっぱなしにして外出したところ、思いっきり風で飛ばされた結果、隣の部屋の軒先に引っかかってしまった。
たぐり寄せるために竿を伸ばしてみると、届くことは届くのだが、うまいこと引き寄せられない。表面だけをなでているような状態だ。
台風一過でその後は晴天が続いている。俺の布団はその場所でじりじり焼かれ、自分の布団が目の前で干物になってしまっているのである。
ふと思いついて、この日、竿の先にペンを固定して即席の鉤(かぎ)をつくってみた。
これがハマった。布団は数日ぶりに回収された。
ついでに、コクワガタも捕れた。
俺の言葉
自宅の裏がけっこうな山だ。おそらく、クワガタはそこから飛んできて布団に引っ付いたまま俺に回収されてしまったのだろう。
コクワガタというと雑魚で有名であり、昆虫採集では点数にカウントされるかどうかで今でも意見が分かれている。
俺もはっきり言ってなんの魅力も感じない虫だと思っていた。が、あらためて部屋の中で観察して思ったことがある。
かわいい。
すっげーかわいい。何これ?
かわいいし、ビューティフルだ。
昆虫というのは頭・胸・腹の三つの構造に分かれており、クワガタやカブトムシのような甲虫はそのつくりが特にわかりやすい。
このコクワガタを観察すると、腹が特に長く(頭と胸を足したよりも長い)、逆に頭はとても小さいことがわかる。
その小さい頭に、小さいあごがついているかわい~。
光沢の現れ方も違っていて、頭と胸はつやつやと漆黒だが、腹は古い材木のようなムラがあり、部分的に灰色がかっていて味わいがある。
かちゃかちゃよく動き、その中でも二つの触角は、体が動きを止めているときでも何かを探っている。形状は櫛(くし)に近く、先端に一番大きい「歯」がついていて、それが段々と小さくなりながら並んでいる。
よく見ると、歯の部分を除いた柄にも発見があり、触角というのが単なる一本の棒ではないことがわかる。触角は途中で、関節のように少し反って曲がっているのだ。柄が曲がった櫛、ということだ。
クワガタはそれを常に動かしながら、辺りを探っている。「どういう状況なんですかね?」という感じに見える。
もう一つ興味深かったのが足で、付け根にだいだい色の点が付いている。蛍光的な色合いではなく、ちょっと褪せた金色のような感じのオレンジ色だ。なんだろう? 何かの器官にも見えないが…。
その後、かわいいかわいいとひと通り言ってからリリースした。
言葉。
この文章の主旨は言葉だ。
「いいもの」を見ると、言葉が湧いてくる。
俺はその感覚が好きで、そういう感覚を持っている俺自身が好きだが、この感覚は底の方でサディズムや偏執と根が入り混じっているので、あまり、人に言うことではないんだろうな、と思う。
いいものを見たとき、俺は色々なラベルのついた瓶やタッパーのような容器にそれを分解して収めて、それらは単語と呼ばれているが、その瓶をもっともいい感じに並べ替え、その配置を俺自身のために楽しむ。
そうやって物を支配している。もしくは支配した気になっている。
下賤な趣味だと思う。でも好きだから止められない。
ものを書いているときの顔はたぶん放送できない表情をしているので、その代わりにできた文章の方を載せておく。