雨脚について

 地形がそうなっているのかわからないが、俺の家は雨脚がよく聴こえる家だ。

 雨脚がよく聴こえると言うのは、雨の音が単に目立つということではなく、降っている雨がいくらか急に強くなり、聴いている側が注意を向けて耳を澄ませてみると、また弱くなっていく、その様子がはっきりとわかるということである。

 脚、とはよく言ったもので、どこからか近づいてくるように雨が音を強くしていき、やがて去っていくようにして弱くなる様子は、『もののけ姫』かなんかのジブリの映画に登場するような、脚がたくさんあって、それをざわざわ蠢かせながら歩きすぎていく、巨大で半透明な神の姿をイメージさせる。

 そういう得体の知れない、地上にわずかな関心もない大きな存在が、遠くからやってきて辺りの家々の屋根を無数の触手でひたひた叩きながら歩き去っていく。そういう音に思えて、まさに雨「脚」だなあ、と考えながら聞いている。